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.国際  投稿日:2023/2/13

習主席の「3大失政」と「定年延長」政策


澁谷司(アジア太平洋交流学会会長)

【まとめ】

・中国では、習主席による「3大失政」が囁かれている。

・2019年夏、中国の累積財政赤字は少なくともGDPの300%以上。

・中国の若者は“経済的独立・早期退職”を好み、高齢者の68%は定年後再就職の意向。

 

まず、初めに、習近平主席の“失政”と言われる件に関して言及したい。目下、中国国内では、習主席による「3大失政」が囁かれている(a)。

(1)「一帯一路」政策

(2)北京証券取引所創設

(3)「雄安新区」建設

である。

周知の如く、(1)の習主席肝煎りの「一帯一路」政策については、世界的な景気低迷の中で、中国が他国へ貸した借款がスムーズに返済されていない。そのため、例えば、スリランカでは、債務をかたに中国企業が「ハンバントタ港99年運営権契約」を結んだ(b)(一般に「債務の罠」と言われ、軍事的には有意義だが、経済的には疑問符が付く)。

他方、中国はアフリカ諸国に対して「徳政令」を発布し、債務を免除にした事例(c)もある。

(2)2021年11月、習政権は、上海・深圳(共に1990年12月設立)に次ぐ、第3の北京証券取引所を創設(a)した。習政権は、同取引所を米国での上場廃止で国内に戻る中国企業の“受け皿”とするという構想だった。ところが、同取引所では、1日で約2000元(約4万円)しか売買のない日があるという。

(3)習政権は、河北省南部に“千年の都”建設を志した。しかし、現在、中国高速鉄道の「雄安」駅は、乗客の乗降がほとんどなく、同駅の外は草しか生えていない状況に陥っている。

以上の「習3大政策」は、中国の累積財政赤字を著しく増加させているのではないか。実は、2019年夏、すでに中国の累積財政赤字は少なくともGDPの300%以上(d)あると言われた。その後、3年半以上経過している。コロナ禍で中国の財政赤字は更に悪化しているのは、ほぼ間違いないだろう。

次に、中国共産党は昨年の人口減少(e)を受けて、以下の対策を練っているという。

(1)「3人っ子政策」の実施

(2)「少子化制限」の緩和

(3)緩やかな「定年延長」政策(f)

である。

(1)習近平政権は、2016年から1夫婦の「2人っ子政策」、2021年から「3人っ子政策」を実施した。ただ、将来的に、子供を増やすのは難しいだろう。価値観の多様化(例えば、結婚して子供を産み育てるだけが人生の目標ではない)や教育費の高騰等がその主因である。

(2)は、中国共産党は若者が結婚しなくても、子供を産める環境作りを目指すという。これは、“婚外子”を認めるという意味ではないか。けれども、同党の思惑とは違って、国内の“婚外子”に対する偏見や差別は、容易には変わらないのではないだろうか。だから、北京がたとえ(2)の政策を打ち出しても、急な人口増加は見込めないに違いない。

おそらく、習政権としては、(3)の「定年延長」政策が最大の眼目ではないか。現時点では、中国の定年は男性60歳、女性50歳(幹部の場合55歳)である。ところが、2025年から定年を男女共に65歳に引き上げる案が浮上した。

この施策は、表向き、減少する“労働人口の維持”が喧伝されるかもしれない。だが、その真の狙いは「年金支払いの先延ばし」にあるだろう。北京の“苦肉の策”と言えるかもしれない。

今後、年々、高齢者が増加する。そのため、年金の支払い総額が増大し、中央政府はますます厳しい状況に追い込まれるのではないか。したがって、その支払いをできるだけ先延ばしできれば、財政破綻の時期を少しでも遅らせる事が可能になるだろう。

ただし、公務員ならば「定年延長」に問題はない。だが、ゾンビ、あるいはゾンビまがいの国有企業や一般民間企業が従業員の定年を先延ばしにできる余裕があるだろうか。

ところで、最近の調査(g)によれば、多くの中国の若者は“経済的独立・早期退職”を好む。だが、一方、定年退職する多くの高齢者にとっては、仕事を完全にはやめることができないという。

高齢者の68%が定年退職後、再就職の意思を持ち、回答者10人のうち3人は“経済的プレッシャー”を受けていることがわかった。たぶん、その“経済的プレッシャー”とは、年金だけでは生活が苦しいという意味ではないだろうか。

〔注〕

(a)『中国瞭望』「中国内部世論:習近平の政権三大失敗は世界に『衝撃』を与えた」(2023年1月30日付)

(https://news.creaders.net/china/2023/01/30/2572087.html)

(b)『中国新聞網』「4つの議論、4つのカード、このレベルで中国の『一帯一路』を脅迫したいのか?」(2018年8月17日付)

http://news.sina.com.cn/c/2018-08-17/doc-ihhvciiw9042015.shtml

(c)『rfi』「中国、アフリカ17ヶ国23件の債務を免除と発表」(2022年8月20日付)

https://www.rfi.fr/cn/%E4%B8%AD%E5%9B%BD/20220820-%E4%B8%AD%E5%9B%BD%E5%85%8D%E9%99%A4%E9%9D%9E%E6%B4%B217%E5%9B%BD23%E7%AC%94%E5%80%BA%E5%8A%A1

(d)『ロイター』「中国の債務総額がGDPの300%を超え、世界の債務総額の約15%を占める-IIF」(2019年7月18日付)

https://jp.reuters.com/article/iif-china-debt-ratio-0718-thur-idCNKCS1UD0NQ

(e)『国家統計局』「王萍萍:総人口はやや減少、都市化レベルは上昇を続ける」(2023年1月18日付)

http://www.stats.gov.cn/tjsj/sjjd/202301/t20230118_1892192.html

(f)『万維ビデオ』「2.“定年延長”を今年中に発表、中国共産党が慌てて報道を削除」(2023年2月4日付)

(https://video.creaders.net/2023/02/04/2574150.html)

(g)『大衆日報』「若者は早期定年退職を希望し、高齢者は定年後の雇用を希望する?」(2022年10月29日付)

(https://dzrb.dzng.com/articleContent/3468_1077488.html

トップ写真:第20回中国共産党中央委員会記者会見での習近平主席(2022年10月)出典:Photo by Kevin Frayer/Getty Images




この記事を書いた人
澁谷司アジア太平洋交流学会会長

1953年東京生まれ。東京外国語大学中国語学科卒。東京外国語大学大学院「地域研究」研究科修了。元拓殖大学海外事情研究所教授。アジア太平洋交流学会会長。

澁谷司

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