「韓国に実質的な痛みを」宇都隆史参議院議員
安倍宏行(Japan In-depth編集長・ジャーナリスト)
「編集長が聞く!」
【まとめ】
・3年間は文政権に付き合わざるを得ない。
・日米韓の連携を一番必要とするのは、実は韓国。
・日本と連携するメリット、反目することのデメリットを韓国民に知らしめるべき。
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岩屋毅防衛相が、韓国海軍駆逐艦による海上自衛隊哨戒機へのレーダー照射事件で日韓で対立している中、韓国の鄭景斗(チョン・ギョン ドゥ)国防相と6月1日にシンガポールで非公式会談したことに対し、「怒りで体が震える」と発言したことで注目を集めた宇都隆史参議院議員。
岩屋防衛大臣のこの問題の本質をどう捉えているのか聞いた。
宇都隆史氏(以下、宇都): 一番違和感を感じたのは、政府全体として、どういう意思決定プロセスがあったのかということです。 やるならやるで、(非公式の形でもいいですが)、何を求めて会おうとしたのか、具体的に成果は上がったのか?ということを明確にする必要があります。
防衛省、外務省、官邸、それぞれにどういう状況判断だったのか確認しましたら、官邸にしても外務省にしても、 「膠着状態になっているこのタイミングで会っても、なにも成果が得られないので時期尚早である」という判断だったわけです。しかし岩屋防衛大臣の、会いたいという強い希望で実現することになりました。これは、周りが見えていない岩屋大臣の勇み足です。
更には、やるならやるでそれを支える防衛省の官僚が、例えいい成果は出なくても、悪いほうに切り取られないよう、最低限間違ったメッセージを与えないよう下準備をきちんとやるべきでした。二重の意味で、今回は非常に不用意だったと、判断せざるを得ません。
安倍: 官邸はなぜブレーキを踏めなかったのでしょうか?
宇都: 防衛当局間で会う、あるいは、外務省の当局間で会うことに関して、いちいち官邸側が、会う会わないのジャッジメントをする事はしないようにしていると思います。それぞれの担当所掌がありますから、担当省庁でよく考えた上で、政府全体としての足並みは揃えていくということなんでしょう。だから、官邸として「今は会わないほうがいいと思うよ、そういうタイミングではないと思うよ」という意見はしたけれども、最終的に防衛大臣が決断をするというのは間違いではありません。
いちいち大臣が(韓国の防衛大臣と)会うか会わないか、官邸にお伺いを立てて、総理が決めなきゃ物が動かないという方が問題だと思います。しかし、会うにしても、何かしらの成果を得られるという確信を持って実行しなければなりませんし、誤解を与えたり、発言を切り取られたりしないように、戦略性を持って対処しないといけないと思います。
安倍: 実際に党の中で宇都さん以外に声を上げる人が少ないのは問題ですね。
宇都: 少ないですね。私のほかには参議院の青山繁晴先生や、元防衛大臣の小野寺五典先生ですとか、そのくらいです。この問題が起きて自民党の国防部会の議題に上ったときも、事前に私のところに、「あれは問題だ、声を上げなきゃ」と連絡してきた先生はもっといたんです。しかし、実際に部会で手を挙げたのは私だけでした。その他ご意見はありませんか、と言ったらシーンと静まり返った状況で、私が烈火のごとく非難したんで、手を挙げにくかったんじゃないの、という人もいましたけれども、全体的にダメなものはダメだと言うのをためらう妙な空気感はありますね。
▲写真 ©Japan In-depth 編集部
安倍: 党として政府にきちんと物をいう姿勢は必要だと思いますが。
宇都: この問題が起きた時、私自身も国会議員として考えたのは、他党やマスコミから批判が出る前に、自民党として中から声を上げないと、かえって「身内に優しい」とか、「自民党自体が容認している」とか、取られかねないなと危惧したのです。
会談の実施について確認しましたけれども、「官邸からの指示は一切ない」ということでした。ですから私の認識では、岩屋大臣自身が、深いところまで練られた戦略性とか全くない浅はかな考えで、「関係が悪いから話し合いの場を持ちましょうよ」と歩み寄る“大人の対応”を演じることで、大局観を持っている様なアピールをしたかったのではないでしょうか。
徴用工の問題も含めてですが、「(韓国が)これ以上ゴールを動かしたり、クレーマーのような対応をしたりしても、日本政府は一切“大人の対応”はしないぞ」ということを突き付けているタイミングで、 足並みが揃ってない印象を相手に与えるのは良くないと思いました。
レーダー照射は危険な行為なんです。だからこそ、CUES(Code for Unplanned Encounters at Sea:キューズ・海上衝突回避規範)で21 か国が偶発的衝突防止のためにこれをやめようと協定を結んでいるわけです。ロックオンするということは、安全装置が働いていない状態でボタンさえ押せば、(相手を)撃墜できるということなのです。パイロットが死傷する可能性が高い行為で、国際法上は攻撃とみなしても構わないという高いレベルでの敵対行為です。政府は事案発生以降、部隊には「近づくな」等の指示は出さず、今まで通りきちんとやれ、と言ってます。
場合によっては、韓国側がまた(日本の自衛隊機に対して)低空飛行をした、といちゃもんつけてレーダー照射してくる可能性があるわけです。パイロットにとってみたら、危険がそのまま放置されてるわけだし、そういう危険なところに自分の主人や息子らを送り出している家族にとってみたら、やっぱり心配で不安が高まっていると思います。その様な現場や家族の声を代弁し、韓国側へ厳しく抗議出来る立場にあるのは、防衛大臣しかいないのです。にも関わらず、ああいう風ににこやかに握手をすること自体が隊員の士気に関わると思います。「この大臣の下で本当に我々は命を懸けていいんだろうか」という疑問というか、スカッとしない、もやもやとした気持ちがうっ積すると思うのです。そうしたものが塵のように積もっていくと、大きな事故が起きたりとか、士気の低下による服務事案の発生につながってくるのです。
▲写真 ©Japan In-depth 編集部
安倍: 日韓の問題の裏には北朝鮮の脅威にどう対処するのかという問題があるわけですよね。で、韓国が親北朝鮮だから日米韓の足並みが揃わない。この韓国の問題にはどう対処していったらいいと思いますか?
宇都: 個人的な意見ですが、3年間は変わらないと思います。韓国の大統領制は任期の間に大統領を辞任させる事は困難なので、むこう3年間は(文政権に)付き合わざるを得ない。文在寅大統領は朴槿恵政権に対してのアンチテーゼとして生まれた政権で、朴槿恵前大統領に近かった人は、次々とポジションから外され、文大統領に近い、あるいは北寄りの人たちをポストにつけているわけです。
ですから、政権の中枢から自発的に、徴用工、慰安婦、レーダー照射、旭日旗などの諸問題に関して方針転換するということはあり得ません。
そうすると、我々は3年間はこの冷え切った日韓関係に耐え続ける覚悟が必要です。そして、これ以上の反日政策は、全部巡り巡って自分たちの国内経済や生活などが大きな打撃を受けるということ、日本に対し色んな感情はあっても、これ以上失礼な態度を取り続けると、日本もそんなに大人じゃないよ、ということを3年間で学んで貰う必要があると私は思います。
既に韓国内の世論はそうなってきています。経済政策の失策で、 景気や雇用がよくない状態になっていることもありますが、徴用工の問題等により、日本からの投資額や旅行者が減っている状態で、更には、米中貿易摩擦のあおりを受けて、韓国の景気は大きく落ち込んでいます。
それに対して、韓国内で一番怒っているのは経済界です。そういう人たちの声を受け、最近は韓国の新聞が、政府に批判的な記事を書き始めてます。「こんなことを続けていたら韓国自体が無くなるぞ」と。北朝鮮の脅威に対し、日米韓の連携を一番必要とするのは、 実は韓国じゃないかという事実に国民が目を向けるようになるくらい、今回は腰を据えてぶつからねばならないと思います。
安倍: 韓国政治には必ず揺り戻しが来ますから、今下野している旧与党の議員たちと積極的に交流すべきではないですか?
宇都: それもあるかもしれないですが、反日となると、韓国は与野党一致して同じようなことするので。(笑)今は韓国の中で日本びいきの発言をすると野党であろうが何であろうが、社会的に抹殺されますから。
そうするとやはり、「反日とか日本バッシングを続けていたら、本当に先がない」という実害を彼ら自身が被らなければいけない。韓国の青瓦台や、文在寅大統領に近い人たちには、今の日本の空気感が正確に伝わってない。韓国はそんなに深刻な状態だと認識していないでしょう。いつものように日本はちょっと怒ってるものの、そのうち大人の器量を見せて機嫌を直してくれるだろうとね。
徴用工問題にしても、慰安婦合意にしても、韓国では、あれは安倍総理や河野大臣といった一部の保守系政治家が、自国民の世論を焚きつけ反韓をすることで、日本国内の保守系を纏めるためにやっているんだ、という全く誤った認識が広まっています。しかし、実際はいたって普通の日本人の70%以上が昨今の韓国の対応に対して呆れ怒っていますからね。
安倍: もし本当にそう思っているんだとしたら、とんでもない事実誤認ですね。
宇都: 今回防衛大臣同士がシンガポールで会う一週間くらい前ですかね、韓国の外交委員会のメンバーが、委員長はじめ、半分お忍びみたいな感じで来日したんです。経済も政治もいろんな面で、日韓関係がよろしくない、戦後最悪というレベルで悪化しているので、意見交換をしたいということで来られたわけです。なぜお忍びと言ったかというと、正規ルートを使って我々のところにアポを取って来たわけではなく、在京大使館から直接、衆参それぞれの委員長の事務室に「委員長以下、何人かのメンバーの皆様と会って率直な意見交換がしたい」と電話があったんです。
衆議院の方は元防衛副大臣の若宮健嗣外務委員長、参議院は、ワタミの元・社長の渡邉美樹外交防衛委員長です。若宮委員長が、直接会ったらどういう風に切り取られるか分からないということで、「会うならオープンな状態で、メディアもきちんと入れてやる。そして、お互いに言いたいことをきちんと言い合いましょう」、と提案したのです。また、「あなた方から会いたいと言ってきているけれども、これまでの問題はあなた達の側ににあると。それに対して何か解決の為の提案が勿論あるんでしょうね、ただ関係良くするために、日本に注文を付けに来るんだったらそれは意味がないですよ」ということを返答したらしいのですが、韓国側からはそれ以降、音信不通だった様です。
安倍: じゃあ結局実現しなかった?
宇都: しませんでした。でも韓国内のニュースでは、「若宮委員長は会談を拒否した」と書かれました。全くの事実ではありません。(笑)条件を付けただけで、よりオープンにフラットにやりましょうといっただけです。
安倍: 案の定そうやって切り取られるわけですね。
宇都: 参議院の方は渡邉委員長から、私に相談が来ましたので、「委員長のところにダイレクトにアポが来るのはおかしい」と言いました。在京韓国大使館に言って、参議院の国際部に連絡をさせなさいと事務方に指示しました。また「込み入った話がしたいと言うのなら、それは構わないけれども、友好的な対話を望むんだったら、そういう期待はしないで欲しい、会えばこちらとしても言いたいことは山のようにある、極めて辛辣なことを言わせてもらうことをご了承のうえでお越し下さい」ということを言ったら、結局、国際部には連絡が無かった。
安倍: なるほどね。どうりで私も知らないはずでした。その話。
宇都: 韓国外交委員会のメンバーが帰国し、韓国内のメディア取材を受けて、何と言ったかっていうと、「まさかここまで日本の対応が酷い状況になってるとは思わなかった。これまで何回か来日したけれども、今回ほど対応が酷かったことはない。日本の怒りを肌で感じた。」というようなことを言ったのですが、今更かと思いましたよ。
日本人は空気を読む民族ですから、相手の気持ちを推し量りしますが、かの国の人たちは、はっきり物を言ってあげないと、こっちが怒ってるのかどうか伝わらないないし、どのくらい怒っているのかも分からない。ただのポーズなのか、一部の政治家がそれを利用して政治利用しようとしているのか、本当に怒ってるのかを混同して区別できないでいるんです。
またこれまでの日韓関係は、歴史認識とかいろんな問題があって政治的にぶつかり合っても、軍組織の現場がぶつかり合うことは無かったんです。国同士の信頼関係というのは、政治的にどんなにぶつかっても、安全保障問題に関しては、互いの軍事組織の現場が、きちんとした信頼関係のもとに、正しい行動をとれるから成り立つのです。それが今、軍事の現場同士がこういう状態ですから大変心配しています。
安倍: そうですね。何しろ準同盟国にロックオンされたわけですから。
宇都: 今の韓国の国防大臣の鄭景斗(チョン・ギョンドゥ)という人は、元空軍大将です。彼は、日本の航空自衛隊の幹部高級課程の卒業生で、自衛官に同期もいて日本のこともよく分かっています。そんな彼だから、いい関係が築けるじゃないかと思ったら、最近は完全に反日発言ばかりです。日本寄りの発言なんてしようものならポジションから外されるということで、「ものを言えば唇寒し」の状態なんでしょうね。
安倍: 日本も向こう3年間黙っているということではなくて、韓国に、こういうことをしているとどう自分たちに返ってくるのか、しっかりと知らしめることが、政党間でも政府間でも大事だということですね。
宇都: 私はそういう認識でいます。(日本と)連携するメリット、反目することのデメリットっていうのを、きちんと韓国国民に知らしめて、“実質的な痛み”を彼らには受けてもらうべきです。韓国にとって最大の貿易相手国は中国ですから、米中がぶつかり合えば、韓国経済は大きな打撃を受けます。
アメリカの方を向けば経済がやられる。中国と経済協力を進めればアメリカとの関係が難しくなる。仲介してほしい日本とは完全に信頼関係が失われ、会ってすらもらえない。八方塞がりの状況で、韓国の生き残る道はどこにあるのか。しかしそれは、韓国国民が考えることです。答えを我々に求めてきたってしょうがないですよ。
写真上、トップ画像:©Japan In-depth 編集部
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この記事を書いた人
安倍宏行ジャーナリスト/元・フジテレビ報道局 解説委員
1955年東京生まれ。ジャーナリスト。慶応義塾大学経済学部、国際大学大学院卒。
1979年日産自動車入社。海外輸出・事業計画等。
1992年フジテレビ入社。総理官邸等政治経済キャップ、NY支局長、経済部長、ニュースジャパンキャスター、解説委員、BSフジプライムニュース解説キャスター。
2013年ウェブメディア“Japan in-depth”創刊。危機管理コンサルタント、ブランディングコンサルタント。