韓国、与党圧勝で左派独裁へ
朴斗鎮(コリア国際研究所所長)
【まとめ】
・韓国国会議員総選挙、失政続きの政権与党が異例の圧勝。
・圧勝は有権者がウイルス不安解消を求めた目先の行動による。
・与党圧勝で左派独裁政治が登場するだろう。
4月15日に行われた韓国の国会議員総選挙は、左派系与党「共に民主党」が比例の「共に市民党」と合わせて単独で300議席の内180議席を獲得して圧勝した。左派の「開かれた民主党」と友党の「正義党」などを含めると188議席を手にしたことになる。
これに対して保守系は未来統合党と「未来韓国党」及び保守系無所属合わせて107議席にとどまった。通常、「政権審判」の色合いが強い大統領任期半での総選挙で、失政続きの政権与党がここまで大勝するのは、異例というよりは異常だ。
この議席数は、多数派の独走に歯止めをかけた「国会先進化法」を無力化するもので、今後、共に民主党は議会で、野党との合意を経ることなく、憲法改正以外のすべての法案を単独で速やかに成立させることができる。
これで文在寅政権は、行政、司法、だけでなく立法府の権力も完全に掌握した。掌握済みの地方権力を合わせると、ほぼ権力のすべてを手中に収めたといえる。
■ 韓国与党圧勝の要因
与党圧勝の要因は、一言で言って、新型コロナウイルスで、慌てふためいた多くの有権者が、3年間の国政評価を放り出して、目先の不安解消を求めて行動したことだ。与党に投票した50数%の有権者は、文在寅政権の新型コロナウイルス対策が成功裏に行われていると判断し、3年間の経済失政や前法務長官の曺国(チョ・グク)を始めとした大統領府関係者の汚職疑惑、そして露骨な蔚山市不正選挙疑惑など、深刻な問題の追求をやめてしまった。
この選挙行動について韓国のマスコミは「国難を前に、牽制より安定を選んだ」などと当たり障りのない表現を使ったが、すでに登場した巨大権力の前で怯えを見せている。
▲写真 曺国(チョ・グク)氏 出典:Flickr; Republic of Korea
一方保守勢力の中心にいた「未来統合党」の力不足も与党勝利を助けた。公認をめぐり対立しただけでなく保守統合にも失敗し、今回選挙での保守票44%をまとめ切れなかった。
これは「未来統合党」党首の黄教安氏が官僚出身の実務家で政治経験が浅かったことから、リーダーシップを発揮できずに迷走したこととも関係している。
しかし今回の投票行動の根底にあるのは、ポピュリズム的扇動政治に慣らされた韓国国民の民度低下だ。韓国国民の国家安保意識の低下は、韓国の世論構造を根本的に変化させ、良識ある勢力を弱体化させている。
▲写真 コロナウイルスに関する会議 出典:韓国大統領府Twitter
■ 今後韓国政治はどこへ向かうのか?
今後韓国議会は、大統領府の召使いとなり下がるだろう。今回の選挙で、大統領府からの天下り20名と親文大統領の核心人士50名が議会に進入した。与党の180議席をこの70名が大統領府の前衛となって動かすだろう。
その矛先は真っ先に、大統領府の不正隠しで最大の障害となっている検察権力の無力化に向けられるだろう。そのために意のままにならない尹錫悦(ユン・ソンヨル)検事総長を辞任に追い込むに違いない。すでに共に民主党の比例党である「共に市民党」のウ・フェジョン共同代表は「尹錫悦、あなたの進退を問う」と発言している。この延長線上で、曺国(チョ・グク)前法務長官を無罪にする動きを強めるはずだ。この暴挙を実現するために、文政権は更なるマスコミ支配と扇動政治を強めるだろう。
▲写真 尹錫悦(ユン・ソンヨル)検事総長 出典:韓国検察庁
そして飼いならしたマスコミを利用して陰謀を巡らせ、保守勢力の壊滅に一層拍車をかけるに違いない。この動きは国家保安法の廃止へとつながり、自由民主主義秩序による統一を謳った現憲法の否定と南北連邦制統一合法化へ向かうと思われる。
経済政策では、今後さらに反市場的ポピュリズム政策が打ち出されるだろう。財政資金バラマキの法案を次々と国会通過させ、「票買収政治」で国民を愚民化し、国家国民の利益で物事を処理するのではなく、執権勢力に利益をもたらすか否かで処理し、国家をギリシャやベネズエラのような経済破綻国家に作りあげるに違いない。
その一方で金正恩第一主義、南北関係第一主義の政策をいっそう強めて、国連制裁に抵触してでも北朝鮮に対する支援を進めるだろう。そのために、これまでの外交安保政策を大きく転換させ、米国とは更に距離を置き、親中従北反日路線を強化するに違いない。
今後日韓関係改善はますます難しくなると思われる。すでに今回選挙で、与党「共に民主党」は、選挙戦を「韓日戦」などと位置づけ、野党「未来統合党を「親日勢力」と断定して戦った。すでに反日の牙をむいているのだ。徴用工問題、GSOMIA問題、慰安婦財団の日本基金問題などが更に複雑化するのは確実だ。
▲写真 文大統領と安倍首相 出典:韓国大統領府Twitter
■ 韓国では今後「まさか」の事態が多発する
韓国に左派巨大与党が誕生したことで、今後韓国政治には「まさか」の事態が次々と起こることが予想される。日本はまもなく隣国に価値観の違う左派独裁国家を目にするかも知れない。
ハーバード大教授のダニエル・ジブラット氏は、「民主主義は、クーデターのような方法だけで死ぬのではない。選出された独裁者によっても破壊される」と述べ、「選出された独裁者」となる4つの指標を次のように指摘した。
①言葉と行動で憲法に違反する意思を表明するか、選挙に対する不服を表明したことがあるのか。
②政治的競争者を敵として追い詰め、憲法秩序の破壊者と非難したことがあるのか。
③暴力を容認するか、他国の政治暴力を称賛するか、それを非難することを拒否したことがあるのか。
④相手の政党や市民団体、言論に法的対応をすると脅迫したことがあるのか。
の以上4つだ。
残念ながらこれらはすべて文在寅大統領に当てはまる。朴槿恵弾劾で見せたむき出しの敵意や暴力政治の極致である金正恩政権を称賛美化する行為は、すべてこの指摘の中に含まれる。韓国では民主化で独裁政治が終わったと思えたが、今回の与党圧勝で左派独裁政治が登場しようとしている。
現在与党で次期大統領候補と噂されているのは、元総理の李洛淵(イ・ナギョン)やソウル市長の朴元淳(パク・ウォンスン)、京畿道知事の李在明(イ・ジェミョン)などだが、次期大統領選挙には、こうした人達ではなく、より左傾化した独裁的候補が登場してくる可能性がある。疑惑の「玉ねぎ男」の曺国(チョ・グク)も無罪を獲得すれば、大統領候補として浮上してくるかも知れない。
トップ写真:文大統領 出典:韓国大統領府
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この記事を書いた人
朴斗鎮コリア国際研究所 所長
1941年大阪市生まれ。1966年朝鮮大学校政治経済学部卒業。朝鮮問題研究所所員を経て1968年より1975年まで朝鮮大学校政治経済学部教員。その後(株)ソフトバンクを経て、経営コンサルタントとなり、2006年から現職。デイリーNK顧問。朝鮮半島問題、在日朝鮮人問題を研究。テレビ、新聞、雑誌で言論活動。著書に『揺れる北朝鮮 金正恩のゆくえ』(花伝社)、「金正恩ー恐怖と不条理の統