「尹美香議員は親北活動家」麗澤大学特任教授西岡力氏
安倍宏行(Japan In-depth編集長・ジャーナリスト)
「編集長が聞く!」
【まとめ】
・韓国の野党系国会議員尹美香氏、朝鮮総連主催の集会に出席で物議。
・反国家団体に接触したことで、国家保安法違反で警察が捜査中。
・2019年から韓国でアンチ反日が台頭。今、国内は2つに割れている。
韓国の野党系国会議員で元慰安婦支援団体前トップである尹美香(ユン・ミヒャン)氏が、9月1日、日本で北朝鮮傘下の在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)が主催した「関東大震災朝鮮人虐殺百年東京同胞追悼会」に出席したことを巡り、韓国内で物議を醸していることは、すでに報じた。(参考記事:「挺対協元事務局長の尹美香議員、朝鮮総連と共同行動」挺対協:韓国挺身隊問題対策協議会)
韓国与党・「国民の力」は「尹美香議員による朝鮮総連行事参加は憲法違反であり、国会法が定める議員としての職務違反だ」として尹美香議員に対する懲戒案を国家倫理特別委員会に提出している。
尹美香議員は今年2月の1審判決では、罰金1500万ウォン(約150万円)の判決が言い渡されている。
北朝鮮に拉致された日本人を救出するための全国協議会会長であり、麗澤大学特任教授西岡力氏に話を聞いた。
安倍: 尹美香議員は裁判で有罪判決を受けていますよね?
西岡: はい。しかし、かなりの件で無罪になってしまい、微罪で一件だけ有罪だが、罰金刑になっているので、検察も控訴したし、尹議員も控訴して、近く控訴審の判決が出ると聞いています。
安倍: なぜ微罪で済んだのですか?
西岡: 日本に昔、青法協(青年法律家協会)というのがありましたよね。左翼の判事の人たちのグループです。韓国では、ウリ法研究会とか国際人権法研究会とか称する左の人たちの団体があって、そのトップが今、金命洙(キム・ミョンス)という最高裁長官になったんです。
彼らは人事権を持っていて、昔の仲間をどんどん優遇して、いい席につけているところもあって、一般的に判事が左傾化している人が多く、その結果ではないかと思われます。
安倍: 有罪判決は受けているんだけれども、国会議員で居続けることはできるわけですね。
西岡: そうなんです。一般刑事事件で禁固以上の刑が確定すれば執行猶予が付いても議席を失うが、裁判中であればいいわけです。推定無罪ですから。
安倍: この件は係争中ですね。
西岡: そうです。検察に起訴されたのは2020年なんですが、なかなか裁判が進まなかったんです。今年になって判決が出た。本来だったらもっと早く進むはずなのに、書類をたくさん読まなくちゃいけないとか、弁護側が時間稼ぎをしたんですが、裁判所が弁護側の時間稼ぎをそのまま放置していたという環境がありました。(国会議員としての)任期が来年の4月ですから、三審制の結果が出るのと任期が終わるのと、どっちが先かということになっています。特に文在寅政権時代の裁判所は完全に被告の味方をしているような印象でした。
安倍: 尹議員は野党でしたね。
西岡: その後、彼女は不動産でもスキャンダルがあった。公共機関の職員が内部情報を得て土地投機してもうけた不正事件が起きて、国家機関が国会議員全員を調べてみたら、尹美香議員も土地不正取引の疑いがみつかり、当時の与党から除名され無所属になりました。彼女は比例代表ですが、除名されたら議席は維持できるんです。そういう便法的な形で議席を維持していて、今は第一野党系の無所属です。
▲写真 尹美香議員 出典:namu.wiki
安倍: 今回、尹美香議員は、日本の総連主宰の会に出席したことで話題になったわけですが、彼女はどういう意図を持って日本に来て総連の会合に出席したのですか?
西岡: 今までも総連と付き合いが深かった人なんです。元慰安婦の中で金福童(キム・ボクトン)さんという人がいて、その人のお金をもとに総連系の朝鮮学校の子供達の奨学金を作ったんです。そういう関係で総連と元々付き合いがあったので、多分、今回の関東大震災の追悼式を総連及び日本の左翼がやっていたので、今までも付き合ってきたし、問題にならないだろうと思って来たんじゃないかなと思われます。
安倍: 今までもお付き合いがあったし、何の疑いもなく出席したら、国内で想像以上にハレーションが大きかったということですか?
西岡: 尹錫悦政権になって激しく与野党が対立する中で、尹錫悦大統領が今韓国の中に北朝鮮とつながっている反国家勢力がいる、ということを公然と言っていますから、与党やマスコミも、まさにいい例が尹美香議員だということになったのです。
▲写真 尹錫悦韓国大統領と岸田文雄総理(2023年5月7日韓国・ソウル)出典:Photo by Jung Yeon-Je – Pool/Getty Images
安倍: 逆に尹美香議員は名誉毀損で訴えたりしていますけどね。
西岡: そうです。だから最後まで戦うと。これは彼女にしてみれば尹錫悦大統領の政治的弾圧だと言っているわけですね。彼女だけじゃなくて、彼女の後任の現在の正義連(日本軍性奴隷制問題解決のための正義記憶連帯=旧挺対協)の理事長も同じ追悼式に出ていたんです。だから旧挺対協と朝鮮総連はズブズブだってことなんですね。
安倍: つい先週ですか、西岡さんは韓国のソウルにいらっしゃったということですけども、尹美香議員の問題はかなり報道されてますか?
西岡: 大きく扱われていますね。朝鮮日報や中央日報は社説まで書いています。ただし、ハンギョレ新聞とかはかばっています。
安倍: メディアも右と左、両方あるということですね。たまたま関東大震災時の朝鮮人虐殺100年ということもあったから、タイミングも良かったので現地のマスコミも取り上げたということですかね?
西岡: そのこと自体については韓国の左右で争いがあるわけではないですけども、民団(在日本大韓民国民団)でも追悼式をやっていたのに、そちらに行かないで総連の方だけに行った。そこで総連の人間が「南朝鮮の傀儡徒党」とか挨拶で言ったわけですよね。そんな挨拶を黙って聞いてる国会議員とは何なんだ、となったわけです。
安倍: それは今の政権が怒るのも当然ですね。
西岡: 当然ですよね。韓国の最高裁の確定判決によると朝鮮総連は国家保安法上の反国家団体なんです。反国家団体というのは北朝鮮と朝鮮総連しかないのですが、反国家団体に参加したりすると、それだけで有罪なんです。
だから、その(反国家団体の)人たちに許可なく接触することも刑事上の罪なんです。それは分断国家の特殊事情の中で、韓国の法的な立場からすると、朝鮮民主主義人民共和国っていうのは国を勝手に名乗っている団体で、韓国の主権があるところに勝手に国を名乗っていると、だから反国家団体と位置づけられている。だからその反国家団体のトップは死刑なんですよ。
そういう法体系があるので、そこに接触する、ということ自体が刑法上の罪になるわけです。過去はもっと本当に厳しくやられてきたわけです。今、韓国は左傾化していて、その部分が甘くなっていますが、法令上は韓国の確定判決で朝鮮総連は北朝鮮と並ぶ反国家団体になります。
安倍: 今の政府は尹美香議員を訴追しますか?
西岡: まずは、統一部が事前に届け出なしに接触した。それは違法だとして課金と言っています。罰金という言葉を使ってないんですけど。事実上の罰金を課す、ということをやっていると思います。そして国家保安法違反で民間団体が刑事告発しましたので、警察が捜査をしています。
安倍: そういう動きはあるということですね。
西岡: そうです。それに対して(尹美香議員は)弾圧だって言ってるわけですね。
安倍: 言論封殺、主義信条を封じ込めている、との主張ですね。
西岡: 歴史的にあったことについて追悼式に行っただけだとかね、総連の人間と接触してなかったとか、いろいろ反論しているんですけど、そもそも同じ時間に民団(在日本大韓民国民団)がやっていたわけだから、追悼の意思があるならそっちに行けばよかったのに、そっちには行ってないってことで、完全に彼女の北朝鮮を支持するという政治的立場が表れてしまったわけですね。
安倍: この問題は日本に直接的な影響はないですか?
西岡: ないですけども、韓国が朝鮮総連を含む北朝鮮の反国家勢力に厳しくなってきたのは大きなことで、韓国が正常化してきたということですし、韓国人からすると慰安婦の運動は北朝鮮とつながっていた運動なんだということがよくわかった事例です。そういう点でも韓国の慰安婦運動がより力をなくすいい契機になりました。日本ではそういう慰安婦運動と北朝鮮の観点という取り上げ方をすべきだと思います。
安倍: それはいいポイントだと思います。実際現実のところはどうなんですか?尹美香議員の横領の件は何年も前の話で、その時にこの運動そのものが偽物なんだということがわかったわけですが。
西岡: だから2019年から風向きが変わったんですよ。
安倍: なるほど。
西岡: 2019年に「アンチ反日運動の台頭」と私は言っているんですけど、親日運動じゃなくて韓国の反日が間違っているという人たちが韓国で声を上げ始めた。それは2019年だと。
西岡: 「反日種族主義」という本が10万部売れたのが2019年。戦時労働者いわゆる徴用工の問題の私の本(編集部注:「でっちあげの徴用工問題」)の翻訳が出たのが2020年。文在寅が反日デモをやった時に韓国の保守派が日本は敵じゃない、味方だって大デモをやったのも2019年です。
その時に反文在寅デモで日の丸が出始めたんですね。韓国の旗とアメリカの旗はあったんですけど、日の丸が出始めて。そういうことがずっと2019年から始まったのです。文在寅があまりにも反日を政治に利用したのでそれに対する反動ということもあるのですが、2019年12月から慰安婦像のすぐ横で毎週水曜日、いわゆる挺対協、今の正義連が反日集会をやっているんですが、そのすぐ横で慰安婦像撤去挺対協解体デモを「反日種族主義」の筆者の一人の李宇衍(イ・ウヨン)さんが始めたんです。それで、卵をぶつけられたり、小麦粉をかけられたり殴られたりしたんですけど、そうしたら2020年の4月に李容洙(イ・ヨンス)さんという元慰安婦のおばあさんが尹美香議員を批判しました。
▲写真 日本大使館前で、第73回光復節を記念する集会に出席して演説する李容洙(イ・ヨンス)さん(2018年8月15日 韓国・ソウル)出典:Photo by Chung Sung-Jun/Getty Images
安倍: それありましたね。
西岡: そこで向こうの運動同士の内紛が始まって韓国の中でその右派のメディアが、それまでは慰安婦運動はタブーで書けなかったんですけども、慰安婦のおばあさんが尹美香を批判したので、尹美香及び挺対協批判を書き始めたんですね。それでお金の話が出てきた。それだけじゃなくて、北と近いって話が出てきて。尹美香の旦那は国家保安法違反で有罪になっている人ですよね。
尹美香が財閥からお金をもらって作ったソウル郊外の田舎にある「憩いの家」とか、おばあさんではなくて、元北朝鮮の食堂の従業員で韓国に亡命している人たちを呼んで、尹美香の旦那が北に帰れという説得をしていた、ということなどが、どんどん韓国のメディアに出たわけです。
尹美香たちは実は人権活動家じゃなかった。自分の懐の金を稼ぎながら親北活動をやっていたということが20年から明らかになって、向こうの勢力の力はものすごく落ちていったということが今起きていて、そして尹錫悦大統領が反日を利用した、実は反国家勢力がいるんだとまで言い始めている。
今、(韓国は)真っ二つに割れている。反日を利用しようとしている野党が福島の水を飲んだり魚を食べたりしたら大変なことになるとか言って今、ハンガーストライキをやっていますけど。それを尹錫悦大統領は「科学を知らない人たちだ」と正面から反論した。毎週土曜日、反日集会をやっているが、韓国の報道によると、先週の土曜日が3回目なんですけども、1回目6,000人、2回目5,000人、先週の土曜日は3,000人しか集まっていない。福島の放流が始まった後、実は韓国でも魚の売上が増えているということで、大統領が先頭に立って嘘の勢力と戦えと言ったことで反日の効用が下がっている。
安倍: 流れが変わってきているんですね。
西岡: そういう中だから尹美香批判も出てきて、より分かりやすくなって、尹美香が人権活動家じゃなくて親北活動家だという、一番分かりやすいことになっているわけですね。
安倍: 尹美香議員は下手を打ったことになりますね。
西岡: そういうことなんですね。私が先週ソウルに行ったのは、9月5日に日韓慰安婦シンポジウムがあったんです。そこでソウルのど真ん中のプレスセンターであったんですけど、日の丸が大きく掲げられる中で韓国の国歌の後、君が代斉唱もあったんです。慰安婦の強制連行性奴隷がなかったという立場の日本人3人、韓国人3人が発表した。
「反日種族主義」の筆者の李栄薫(イ・ヨンフン)先生が祝辞を述べて、韓国大学のラムザイヤー教授、強制連行はなかったって英語で書いて叩かれましたけど、彼も映像メッセージを送ってくれたりしてですね。
安倍: ハーバード・ロー・スクールのジョン・マーク・ラムザイヤー(John Mark Ramseyer)教授ですね。
西岡: 大シンポジウムをやったわけですが、誰も抗議に来なかった。史上初めてですよ、ソウルで強制連行がなかったというシンポジウム、日本人も入れてやるのは。韓国人だけで2019年の後、やっていましたけど。
韓国の反日について書くのは簡単なんですけど、そういう2019年からのアンチ反日の台頭とかね、そういうのを(メディアは)追ってほしいと思います。韓国は2つに割れているんですよ。
(インタビューは2023年9月11日に行われました)
(了)
【西岡力プロフィール】
日本の現代朝鮮研究者。麗澤大学特任教授。公益財団法人モラロジー研究所歴史研究室長・教授。北朝鮮に拉致された日本人を救出するための全国協議会会長。
トップ写真:麗澤大学特任教授西岡力氏(西岡氏提供)
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この記事を書いた人
安倍宏行ジャーナリスト/元・フジテレビ報道局 解説委員
1955年東京生まれ。ジャーナリスト。慶応義塾大学経済学部、国際大学大学院卒。
1979年日産自動車入社。海外輸出・事業計画等。
1992年フジテレビ入社。総理官邸等政治経済キャップ、NY支局長、経済部長、ニュースジャパンキャスター、解説委員、BSフジプライムニュース解説キャスター。
2013年ウェブメディア“Japan in-depth”創刊。危機管理コンサルタント、ブランディングコンサルタント。