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.国際  投稿日:2019/9/19

比で中国人犯罪容疑者一斉摘発


大塚智彦(フリージャーナリスト)

「大塚智彦の東南アジア万華鏡」

【まとめ】

・比当局が詐欺容疑者4人の他、273人の不法滞在中国人摘発。

・全員が中国本土向けの不法オンラインカジノ運営等犯罪に従事。

・中国人大量流入続く「一帯一路」周辺各国は同様の問題抱える。

 

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て表示されないことがあります。その場合はJapan In-depthのサイトhttps://japan-indepth.jp/?p=47979でお読みください。】

 

フィリピン警察は9月11日、マニラ首都圏パッシグ市オルティガスにある商業施設で4人の中国人犯罪者に関する捜索を行ったところ、同所で不法就労していた中国人273人を発見して一斉に逮捕した。同警察が13日、「マニラ・タイムズ」などの地元マスコミに対して発表した。1回の捜索で約300人の容疑者を逮捕したのは最近では珍しいケースとしている。

マニラ首都圏警察やフィリピン入国管理局さらに中国の公安関係者らは、中国本土で詐欺犯容疑で指名手配中の容疑者4人が潜伏しているとの情報に基づいて捜査を実施したという。捜索のため、現場の商業施設の一角に踏み込んだところ、多くの中国人が不法にオンラインカジノで働いていることがわかり、手配中の4人と273人の計277人を不法就労の容疑でそのまま逮捕した。

入管当局によると逮捕された全員がフィリピン滞在に有効な書類を所持しておらず、不法就労とともに不法滞在による入管法違反にも問われることになったとしている。

▲写真 フィリピン・オルティガ市 出典:Wikimedia Commons; p199

入管当局関係者によると、在マニラ中国大使館の警察アタッシェから「中国本土での詐欺容疑で指名手配の4人がマニラに滞在している。被害者は1000人以上にのぼり、その被害総額は約1400万ドルという大規模な詐欺事案である」との情報提供があり、内偵捜査の結果、オルティガスの商業施設に潜伏中であることが判明、9月11日に捜索に向かった。

現場に踏み込んだ当局者は同施設内で働く中国人273人を発見し事情聴取の結果、不法入国して中国本土の中国人を対象にして不法にオンラインカジノの業務についていることが判明し、その場で全員を逮捕したという。

 

■ 中国政府から摘発の要請

フィリピン入管当局者によると、中国本土では禁じられているオンラインカジノによる詐欺被害が増大しており、その大半が海外を拠点として活動しており、中国外務省からフィリピン政府に対して「ギャンブルは社会の悪腫瘍であり、オンラインカジノはマネーロンダリングや横領に悪用される可能性のある犯罪である。国境を越えた犯罪には協力を惜しまないので厳重な取り締まりお願いする」との要請があったという。

これに対し、フィリピンのドゥテルテ大統領は「外貨獲得の手段の一つであり、フィリピン人の雇用にもつながる」との認識から積極的な摘発には反対の立場を示していた。しかし今回は端緒が中国人4人の逃亡詐欺容疑者に対する捜査であることからフィリピンの入管当局、警察も動いたものとみられている。

▲写真 ドゥテルテ大統領 出典:Rody Duterte facebook

政府統計では現在フィリピンには約20万人の中国人労働者が滞在しているが、その大半がオンラインカジノなどのギャンブル関係の仕事に就いているとされる。

 

■ 273人の逮捕者も犯罪容疑者と判明

現在フィリピン入管当局の施設に収監されている277人は今後中国当局に身柄が渡され、強制送還処分となる見通し。中国大使館が身元を個別に確認したところ、指名手配の4人以外の273人も中国本土で何らかの犯罪に関わり行方を追われて逃亡中の犯罪容疑者であることがわかったという。人権問題を主に報じる「ブナール・ニュース」ネット版などは、273人の大半が経済犯罪の容疑者だったと伝えた。

こうしたことなどからフィリピンなど東南アジアに観光目的などで入国して不法滞在、不法就労する中国人の中に、中国本土で犯罪容疑者とされ当局の手を逃れるために渡航するケースがかなりあるとみられている。

東南アジアでは中国政府と緊密な関係を築いて中国の「一帯一路」構想に組み込まれているカンボジアやラオスなどにも多くの中国人が流入し、オンラインカジノ運営や中国人相手のカジノ経営、風俗店経営などに従事している。

▲写真 中国・習近平国家主席とドゥテルテ大統領(2018年11月20日 マニラ)出典: Rody Duterte facebook

フィリピンはドゥテルテ大統領が対中政策で硬軟を使い分ける戦術で南シナ海領有権問題と経済支援を天秤にかける巧みな外交を展開している。その影響もあって、中国人の流入は増加傾向にあり、マニラ市内のオンラインカジノ拠点がフィリピン軍の基地に近いことから「単なる労働者の間に中国当局のスパイも紛れ込んでいる可能性がある」との警戒感も生まれている。(参照:Japan In-depth 823日掲載「比カジノに中国人スパイ疑惑」

今回の摘発で不法滞在、不法就労の中国人に多くの犯罪容疑者が含まれていることが判明し、フィリピン当局として今後は中国側からの情報提供も受けながら中国人労働者の摘発に積極的に取り組みたい意向だ。こうした動きは同様の問題を抱えるカンボジアやラオス、さらに最近中国人犯罪問題が増加傾向にあるタイにも影響を与えることは必至の情勢となっている。

トップ写真:フィリピン入国管理局 出典:Bureau of Immigration, Republic of the Philippines facebook


この記事を書いた人
大塚智彦フリージャーナリスト

1957年東京都生まれ、国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞入社、長野支局、防衛庁担当、ジャカルタ支局長を歴任。2000年から産経新聞でシンガポール支局長、防衛省担当などを経て、現在はフリーランス記者として東南アジアをテーマに取材活動中。東洋経済新報社「アジアの中の自衛隊」、小学館学術文庫「民主国家への道−−ジャカルタ報道2000日」など。


 

大塚智彦

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