高松丸亀商店街「まちを縮める」(下)
出町譲(経済ジャーナリスト・作家、テレビ朝日報道局勤務)
【まとめ】
・地権者とテナント双方に厳しい競争原理を導入。
・高齢者パラダイスを目指し、医療充実と地域でお金が回る仕組み作り。
・固定資産税は再開発前の9倍、税収に貢献。
【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て表示されないことがあります。その場合はJapan In-depthのサイトでお読みください。】
■ 第三セクターも「民」主導で
そしていよいよ再開発計画は動き出す。ポイントとなったのは、新たにつくった第三セクター「まちづくり会社」だ。社員は、全国からまちづくりのプロを公募して選んだ。彼らは東京などで活躍していた面々だ。1年契約で実績を残さなければ、契約は打ち切られる。
具体的な仕組みはこうだ。地権者は土地をまちづくり会社に60年間貸し出す。土地の使用権については、「まちづくり会社」に譲り、運営や管理を委ねる。
まちづくり会社は、テナントを探し、賃料を回収する。その賃料は最終的には地権者に支払われる。興味深いのは、地権者にも、テナントにも厳しい競争原理を導入していることだ。地権者に支払うお金は、テナント店舗の売上高次第で変動する。売り上げが下がると、地権者の受け取りも減る。
しかも売上高が下限を下回ると、テナントは営業権を失ってしまう。実際に、権利を失ったテナントも続出した。
「売り上げがでないということは、マーケットの支持を失っているということです。どんどん店舗が入れ替わった方がいいのです。地権者も一生懸命、まちづくり会社やテナントと協力して売り上げを伸ばそうとします」。
消費者のニーズに合わせることを第一に考える。つまり、ショッピングセンターの合理的な店舗運営システムを導入し、店舗を入れ替えていく。それを担うのは、プロ集団のまちづくり会社だ。商店街のデベロッパーとして、店舗配置のかじ取りを担う。甘えは許されない。
写真)高松丸亀町商店街
出典)著者提供
■ 高齢者のパラダイスへ
瀬戸内海に面する高松市は商都として知られ、かつて商圏400万人(四国4県)と豪語していた。基幹産業は商業だった。
その後、戦後の人口増加や経済成長で、都市は大きく広がった。バブル期に中心街の地価が急騰したことも、郊外での住宅立地を加速した。広がりすぎた「まちを縮める」作業が必要になってきた。
それでは、どんなコンパクトシティーにすべきなのか。古川が力を入れているのは、医療の充実だ。「年をとれば丸亀町に住みたいねといってもらいたい。高齢者のパラダイスにしたいのです。私たちが安心して老後を暮らすために町を再生したいのです」。
すでに、商店街の中央の再開発ビルの4階と5階に診療所がある。自治会が運営する異例の取り組みだ。内科、眼科、整形外科、婦人科など7科のほか、リハビリセンターも備えている。いわば「まちのかかりつけ医」だ。
このビルの6階以上はマンションだ。古川はその住人を入院患者のように見立てる。
「診療所なので、入院施設はありません。しかし、上の階のマンションに住んでいる人はほぼ100%高齢者です。高齢者にとっては、自宅なのに、病室のような安心感があります。医師は24時間いつでも対応してくれるからです。医師にとっても、メリットがあります。往診や回診しやすい。マンションを回ればいいからです。自宅は世界最高の特別室なのです」。
■ 地域でお金を回す
医療を充実させ、人を呼び込む。そんな戦略を掲げるが、もう一つ力を入れているのは、「食」だ。地元の食材を中心に販売する店を開業した。運営するのは、商店街の地権者らがつくった会社だ。
店内には、無農薬の野菜や果物、コメなどが並ぶ。地元の契約農家から直接仕入れたものだ。卵も農場から直送される。マダイは、商店街から1・5キロの高松漁港から水揚げされた。目の前の海で獲れた魚は目玉商品となる。店舗に併設されたレストランには地元食材を使ったメニューもある。現在は仮店舗だが、今後移設し、大きな店舗にする。
「医・食・住」をテーマに掲げ、「まちを縮める」路線を貫いている。それは何も商店街だけに恩恵を与えるわけではない。地域の農家や漁師にとって安定した収入源となる。
農家は、農協ルートを通さないので、収入が増える。漁師も直接持ち込むので、安定した収入を得られる。商店街の再開発をきっかけに、地域でお金が回る仕組みを作り上げようとしている。
「僕たちがハッピーな老後を暮らすために、この街はどうすればいいのか。それが大事なのです。大きな風呂にも入りたいし、映画も見たい。だから、町営で温浴施設や映画館をつくることも計画しています」。
■ 固定資産税は9倍に
再開発計画の結果、歩行者通行量や売上高は3倍になった。さらに、高松市の財政にも貢献した。4つの街区の完成で、建物の固定資産税だけで年間1億4000万円を市に払っている。再開発前の実に9倍だ。
古川は、市の中心街こそが、市の財政を支えていると強調する
「大型ショッピングセンターは地価の安い農地を利用しており、敷地面積当たりの固定資産税は、中心部より圧倒的に安いのです。さらに、法人税は本社が東京なら東京に行きます」。
「商店街再生」はいわば、どの地域でも切迫した課題だ。このため、行政関係者の視察が圧倒的に多い。「視察に来た人の多くは、『丸亀町は特殊だ、奇跡だ。うちにはできない』といいます。ただ、日本は、人口減少や高齢化など有史以来経験したことがない地殻変動に見舞われているのです。世の中の大前提が崩れているのです。今までのやり方をやっていてはダメです。『土地の問題』は簡単ではありませんが、国がコンパクトシティーの旗を振っていることもあり、われわれが始めたときよりもずっとやりやすくなっています」
私は古川の話を聞きながら、思い出したのはダーウィンの「進化論」の言葉である。「強い者が生き残るのではない。賢い者が生き残るのでもない。変化するものだけが生き残る」。地方消滅が取りざたされている今、「変化する」覚悟が求められている
トップ写真)高松丸亀町商店街
出典)著者提供
あわせて読みたい
この記事を書いた人
出町譲高岡市議会議員・作家
1964年富山県高岡市生まれ。
富山県立高岡高校、早稲田大学政治経済学部政治学科卒業。
90年時事通信社入社。ニューヨーク特派員などを経て、2001年テレビ朝日入社。経済部で、内閣府や財界などを担当した。その後は、「報道ステーション」や「グッド!モーニング」など報道番組のデスクを務めた。
テレビ朝日に勤務しながら、11年の東日本大震災をきっかけに執筆活動を開始。『清貧と復興 土光敏夫100の言葉』(2011年、文藝春秋)はベストセラーに。
その後も、『母の力 土光敏夫をつくった100の言葉』(2013年、文藝春秋)、『九転十起 事業の鬼・浅野総一郎』(2013年、幻冬舎)、『景気を仕掛けた男 「丸井」創業者・青井忠治』(2015年、幻冬舎)、『日本への遺言 地域再生の神様《豊重哲郎》が起した奇跡』(2017年、幻冬舎)『現場発! ニッポン再興』(2019年、晶文社)などを出版した。
21年1月 故郷高岡の再興を目指して帰郷。
同年7月 高岡市長選に出馬。19,445票の信任を得るも志叶わず。
同年10月 高岡市議会議員選挙に立候補し、候補者29人中2位で当選。8,656票の得票数は、トップ当選の嶋川武秀氏(11,604票)と共に高岡市議会議員選挙の最高得票数を上回った。