無料会員募集中
.国際  投稿日:2019/10/12

仏、警察内部にテロリスト?


Ulala(ライター・ブロガー)

フランス Ulala の視点」

【まとめ】

・パリ警視庁本部で3日、男性職員が同僚4人を刃物で殺害。

・容疑者は45歳のIT技術者でイスラームに改宗していた。

・警察監視対象者が過激化する兆候をどう捉えるか、議論続く。

 

パリ中心部のシテ島にある警視庁本部で3日午後1時ごろ、男性職員が同僚4人を刃物で殺害した。男は即座に警察に射殺されたが、当初は職場の問題であったと認識されていたものが、後日イスラム教に改宗し過激化した結果のテロである可能性が浮上し、過激化する国民をどのように把握するかの難しさが問われる事件となった。

▲写真 パリ警視庁本部 出典:Photo by Chabe01

 

■ 事件の経緯

事件はどのように起ったか。

事件現場を訪れたクリストフ・カスタネール内相によると、容疑者は45歳のIT技術者で、16年前からパリ警視庁で働いていた。複数のメディアによると、聴覚障がいがあったという。

▲写真 クリストフ・カスタネール仏内相(写真右)出典:Twitter:クリストフ・カスタネール仏内相

ミカエル・アルポン容疑者は朝8時58分に出勤した。そして、普通に午前の勤務を終えた後、12時18分に外出し、12時24分に近所の店で刃渡り20cmの家庭用ナイフと牡蠣用ナイフを購入。そして12時36分に部屋に戻り、仕事を再開している。12時47から12時51分に一度席を立ったが、12時53分に再び戻ってきた途端に事務所内の二人をナイフで刺した。その後、他の部屋でもう一人刺し、そのまま外に向かっていく途中の階段で二人を刺した。最終的には、階段を降りて中庭に出たところで、警官に射殺される。

容疑者を射殺したのは、なんと警察署に研修に来てまだ6日目の24歳の若い警察官であった。警察署の入り口で他の二人の同僚と共に警備をしていたところ、パニック状態の一人の女性が出て来た。

「早く来て!テロリストがナイフで何人か刺したわ!」

その時、アルポン容疑者は部屋を通ったところであり、そのまま階段を降り中庭に出たのだ。そして中庭に出た時に若い警察官と出くわした。警察官は「警察だ。武器を捨てろ!」と警告したが、容疑者は、右手に血のついたナイフをもち、こちらに水平に向けながら、ゆっくりと警察官の方に歩いてきた。警察官は、何回か警告を呼びかけたが男は警告を無視。しばらく止まったが、突然こちらに向かい走り出してきたのだ。

一発目は上半身に発砲したが、それでも前進は止まらなかった。後ずさり、壁にぶつかり追い込まれ、容疑者の前進を止めるためにもう一度撃つことを決めた。そして2発目を腹部に発砲。容疑者が地面に崩れ落ちた…その後、中庭に他の共犯者がいないかをそこら中探したという。

容疑者の射殺後、その若い警察官は、PTSDの発症予防または症状軽減するための緊急事態ストレスマネジメントの職員からの対応を受けた。ショックを受けていた。最初はお世話になった教官と話がしたいと言ったがそれはかなわず、ニームの警察学校の長官に電話をかけ自分が行った行為は正しかったかを確認した。長官からも決められた手順で行われたかの質問がされ、最終的には、よくやったとの言葉で会話は終了したのだ。

 

■ 事件後の報告

事件直後は、警察労働組合のクリストフ・クレピン氏は地元ラジオに対して、容疑者と上司の間に問題があったようだと話し、容疑者と面識があったというクレピン氏は、「これはテロ事件だとは思わない」との見方を示していた。

カスタネール内相も「容疑者の過激化を示す情報は一切なかった」とメディアに伝えた。また、庁舎内への刃物の持ち込みに関しても「職員の手荷物検査は一般企業と同様、行われていなかった」とも伝えている。

しかし、数日経って、事態は一変する。

容疑者は2008年にイスラム教に改宗したあとひげを伸ばすなど風体もかわり、厳格なサラフィー主義者と交流があったことが分かったのだ。また2015年のパリ同時多発テロの犯人に理解を示しており、何人かの同僚からそういった報告も受けていたという。

しかしカスタネール氏が受けた報告では「模範的な職員」と言われていたほどであり、職場で問題を起こしたことはなかったため監視などの措置は取られなかったという。また、他にも過激組織「イスラム国」の動画が保存されていたUSBメモリーも事務所から発見された。そこには十人ほどのの警察職員と連絡先もあったと言われている。

イスラム過激派と接触していた疑いが浮上し、カスタネール氏が容疑者の過激化を「知らなかったはずがない」と非難され、内相の辞任を求める声が野党を中心に高まった。その後、メディアも一斉に激しい批判を繰り広げたが、過激化の兆候については「差し迫った危険性の情報はなかった」と述べ、事前の把握が困難だったことなどを含む対策の甘さがあったことを認めたが、カスタネール氏は辞職を否定した。

 

■ 今後の課題

なんと言っても、今回の事件が浮き彫りにしたのは、防止策の難しさである。

政府は過激派対策を重要課題と位置付け、情報当局は過激化が疑われる1万人以上を監視対象としてきた。警察内部ににも約40人が過激派として監視対象になっている人物は存在し、今後もこういった事件が再び起こりうる可能性も否めないであろう。

容疑者の妻の話では、容疑者は事件の前夜に叫び声をあげながら起き、「アッラーの声を聴いた。」と言っていたと証言している。そして、事件直前には、妻と約30件のメッセージのやりとりが行われていた。事件を止められたとしたらこの時点しかなかったであろうとカスタネール氏は説明する。

しかし、要注意人物とされてもおらず、問題がないと思っている人物が何かを言い出しても、誰がそれほど危険だと思うだろうか?メッセージを受け取った妻自体も、容疑者が自殺をするかもしれないとは考えていたが、他人を傷つけるとは思っていなかったようだ。事前にどんな状態が報告されれば過激化を予測できると言うのであろうか。今後の対策をどうするかを考える必要がある。

過激化を予想するための問題行動の基準について、8日の下院委員会でも話し合われたが、もっと厳格にするために過激派の候補になる可能性がある“サイン”を、今回の容疑者の事例を踏まえカスタネール氏が例を挙げると、他の議員から一部の例について疑問の声があがった。「イスラム教への改宗」「ひげを生やし始める」ついてだ。

「あなた(カスタネール氏)自身もひげを生やしている。もしあなたがイスラム教だったとしても、ひげがあるために通報されるなどということが無いことを願いますね。」

的確な兆候の“サイン”を見極めることはかなりの困難が予想されるが、今回の容疑者の行動は今後も引き続き捜査が行われる。その結果も考慮しながら、兆候の判断を誰がどのように行っていくのか、今後も話し合われていくことになるのは間違いない。

【参考】

https://www.linternaute.com/actualite/societe/2310890-prefecture-de-police-des-nouvelles-rassurantes-dans-l-enquete-sur-l-attaque/

https://www.lest-eclair.fr/id100185/article/2019-10-10/tuerie-la-prefecture-le-recit-de-jonathan-le-policier-stagiaire-qui-abattu

https://www.huffingtonpost.fr/entry/la-femme-de-mickael-harpon-pensait-quil-allait-sen-prendre-seulement-a-lui-meme_fr_5d9ecdace4b06ddfc513af86

https://www.lci.fr/terrorisme/video-attaque-prefecture-police-paris-terrorisme-ce-que-l-on-sait-sur-la-cle-usb-retrouvee-dans-le-bureau-de-mickael-harpon-et-les-inquietudes-qu-elle-suscite-2134381.html

https://www.francetvinfo.fr/faits-divers/police/attaque-a-la-prefecture-de-police-de-paris/video-vous-avez-une-barbe-vous-meme-un-depute-met-en-garde-castaner-sur-la-pertinence-des-signes-de-radicalisation_3650427.html

トップ写真:亡くなった4人のパリ警視庁職員を悼む献花台 出典:Twitter: パリ警視庁


この記事を書いた人
Ulalaライター・ブロガー

日本では大手メーカーでエンジニアとして勤務後、フランスに渡り、パリでWEB関係でプログラマー、システム管理者として勤務。現在は二人の子育ての傍ら、ブログの運営、著述家として活動中。ほとんど日本人がいない町で、フランス人社会にどっぷり入って生活している体験をふまえたフランスの生活、子育て、教育に関することを中心に書いてます。

Ulala

copyright2014-"ABE,Inc. 2014 All rights reserved.No reproduction or republication without written permission."