ポルシェ初フル電動スポーツカー“タイカン”新社長と共にデビュー
安倍宏行(Japan In-depth編集長・ジャーナリスト)
Japan In-depth編集部(小寺直子)
【まとめ】
・ポルシェジャパンは、初のフル電動スポーツカー「タイカン」を国内初公開。
・8月に就任したミヒャエル・キルシュ社長が、初めてインタビューに応じた。
・日本国内におけるサブスクリプションサービスに期待。
2019年11月20日、ポルシェ初のフル電動スポーツカー「タイカン」のジャパンプレミアが東京・表参道で行われ、報道陣に公開された。同日から事前予約を開始、納車は来年9月頃を予定している。
■ タイカンの性能
通常のEVの電気モーターは1基のみだが、タイカンには前後に2基搭載されている。ハイパワーかつ、反応が速い電動ならではの極めて高い加速性が特徴だ。3モデルのうち最上位の「ターボS」は、静止時から時速100キロまで2.8秒で到達し、駆け抜ける。また、加速を26回繰り返しても、そのタイム差は1秒未満で、パワーが衰えないとしている。
EVで懸念されるのが電欠、いわゆる電池切れだが、全国のポルシェセンターや公共施設に次世代CHAdeMOに対応した急速充電器(150kW)が設置される予定で、それを使用すれば、バッテリーを30分以内に80%まで充電することができる。
▲写真 急速充電器 提供:Porsche Japan
今回8月に就任し、メディアの前に初めて登場した、日本法人のミヒャエル・キルシュ社長は、「タイカンは、イノベーションと伝統、デザインと機能性を兼ね備えている。電動化されたポルシェの新たな魂だ。この車はEVの新たなスタンダードを設定する、真のスポーツカーだ。日本のお客さまの心をつかむことができる。」と自信を示した。
タイカンの開発に際して、もっとも重要視されたテーマの一つが、「デジタル時代への対応」だという。メーターはフルデジタル式で、自動車として世界で初めて音楽配信サービス「Apple Music」を車両の機能として組み込んでいる。サブスクリプション登録者であれば誰でも5000万以上の楽曲を車内で楽しむことができる。
▲写真 フルデジタル式メーター 提供:Porsche Japan
製造時の環境負荷にも配慮している。走行時にCO2を発生しないだけでなく、生産の新工場は、バイオガスで稼働するコジェネレーションプラントを設置し、再生可能エネルギーで生み出された電力を幅広く採り入れている。車体にはリサイクル可能なアルミニウムを37%使用し、シートなどにはリサイクル繊維を使っている。
■ キルシュ社長インタビュー
ミヒャエル・キルシュ社長は8月の就任から100日間、メディアには一度も露出せず、沈黙を続けていた。その理由を、「日本という国を学ぶ時間だった」と話す。
「中国、韓国、日本の各市場を欧米人は一緒くたにアジアとして語りがちだが、私は、日本市場は全く異なると思う。日本ではポルシェブランドの歴史が長い。そして”欲しいものが欲しい”という個人主義も強く、ハイクオリティを求めているのが特徴だ。そんな日本市場の要望に応えていくことができる。」と自信を示した。
▲写真 ポルシェジャパン株式会社代表取締役社長ミヒャエル・キルシュ氏 ©️Japan In-depth編集部
オリンピック後、景気後退の予測もある中、今後の日本のラグジュアリー車市場の動向をどう見ているか、との質問に対し、
「確かにオリンピック以降景気が安定化すると言われているが、どのような状況下でも、全力で戦い、適切な供給ができれば勝てると思っている。何もタイカンを500万台売ろうと考えているわけではない。熱烈な見込み客に供給していく。パラダイムシフトを起こすので、予測が難しいが、製品を柔軟に供給できるのが強みだ。バランスを見ながら供給していく。今日から開始したタイカンの予約プログラムで日本市場の感触を見ていくつもりだ。すでに海外では、見込み客の数は2万人と出ている。日本のお客様も早く予約した方がいい。(笑)」とタイカンの販売に自信を見せた。
そして“未来の社会を形作る人たち”にもタイカンの魅力を伝えたいと話した。
■ ターゲット層
キルシュ社長は、マーケティング戦略上のターゲット層として、“未来の社会を形作る人たち”を想定、以下の3つのタイプに分けた。
①次世代の台頭する若い女性層:独立意識、目的意識が強く、パワーも自信もあるタイプ。
②アーバンクリエーティブ層:エッジがきいたものが好きで、クリエイティブ。本質を求めているブランドを好む。流行りのホットなものではなく、クールなものを求める人。クールとは環境配慮も含まれる。
③若いキーオピニオンリーダー層:向上心、野心がある人たち。いわゆるインフルエンサー。資金力がなくても必ずタイカンを運転したい、と思っていて、それを所有するということに限らず、シェアリングしたい、というような意見をも持っている人。ブランドを目的意識を持って選ぶ人たち。
11月22日から12月7日まで開催される、次世代向け独立型ブランドエキシビション「SCOPES Tokyo 」は、この”未来の社会を作る人たち”との交流の場になる予定だ。
▲写真 ポルシェジャパン株式会社代表取締役社長ミヒャエル・キルシュ氏 ©️Japan In-depth編集部
■ 日本でもサブスクリプション
次に、トヨタ自動車の「KINTO」のような「サブスクリプションサービス」をどう見ているか聞いた。
「モビリティというコンセプトをどう解釈するかを考えている。日本でもパイロットプロジェクトを始める。既にアメリカでは、“ポルシェ・パスポート”(注1)というサービスがスタートしている。メンバーシップを購入してもらい、ポルシェを自在に使える。週末は911、スキーにはカイエンなど自在にポルシェを使える仕組みだ。」
日本でも「ポルシェ・ドライブ」と名付けて同様のサービスを始める考えを示した。日本におけるポルシェユーザー層のすそ野を拡大する効果が期待できそうだ。
続いてキルシュ社長は、近未来のモビリティの姿について熱く語ってくれた。
「100%コネクティビティを実現したのはタイカンが初めてだ。モビリティの将来として、色々な夢が叶っている状態を想像している。例えば、東京の自宅からポルシェで羽田空港に行き、ポルシェ専用の駐車場に停め、そこで車は充電される。空港には専用ラウンジがあり、ミュンヘン空港に着くとポルシェ車が迎えに来ている。その車には、あなたのアドレス帳の電話番号や、スケジュールなどの全ての情報が事前にプログラミングされている。馴染みのあるコンシェルジュの声で日本語でガイドしてくれ、ついでに日本食レストランを探してくれたりする、といった具合だ。エンジニアリング、モビリティの使い方、コネクティビティの3つが揃うことで、ポルシェのブランドの目的が達成できる。」とポルシェが築こうとしている、近未来のモビリティの世界観を熱っぽく語ってくれた。
タイカンのコピーは「ポルシェの電動化された魂」。ポルシェがラグジュアリースポーツカー市場に投入したフル電動スポーツカーは、モビリティそのものの変革を加速させる可能性を秘めている。それを「体感」する日はそう遠くないかもしれない。
注1)ポルシェ・パスポート
アメリカで2017年からスタートしている、サブスクリプションサービスの名称。最大22車種のポルシェカーをオン・デマンドでレンタルできる。月額会費は2000ドルから3000ドル。月額料金には、自動車税や登録費用、保険料、メンテナンス費用などが含まれる。
トップ写真:ポルシェジャパン株式会社代表取締役社長ミヒャエル・キルシュ氏、展示車両 新型ポルシェタイカンターボ 提供:Porsche Japan
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この記事を書いた人
安倍宏行ジャーナリスト/元・フジテレビ報道局 解説委員
1955年東京生まれ。ジャーナリスト。慶応義塾大学経済学部、国際大学大学院卒。
1979年日産自動車入社。海外輸出・事業計画等。
1992年フジテレビ入社。総理官邸等政治経済キャップ、NY支局長、経済部長、ニュースジャパンキャスター、解説委員、BSフジプライムニュース解説キャスター。
2013年ウェブメディア“Japan in-depth”創刊。危機管理コンサルタント、ブランディングコンサルタント。