ポルシェ、急速充電器を開発
安倍宏行(Japan In-depth編集長・ジャーナリスト)
【まとめ】
・EV普及のカギは、走行距離と充電環境。
・ポルシェジャパン、EV専用急速充電器開発しネットワーク構築に乗り出す。
・日本車メーカーの商品開発に影響も。
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電気自動車(EV)普及のカギは、走行距離と充電環境と言われてきた。走行距離については、電池の性能向上により、一充電走行距離は500kmに近づいてきた。(日産リーフ62kWhバッテリー搭載車の場合、一充電走行距離458km:WLTCモード)1日に走る距離としては十分であろう。もはや走行距離がEV普及のネックにはならない時代に入った。
▲写真 日産リーフ 出典:日産自動車
では、EV普及のもう一つのネックといわれる充電環境はどうだろうか?確かに国内で充電器台数は年々増えてはきているが、普通充電器が約2万基、急速充電器に至っては約7000基(経産省調べ、2017年3月時点)と、まだまだ十分とは言えない。高速道路のサービスエリアなどで充電器の取り合いなどの問題も起きている。充電器の普及台数次第では、将来のEV普及にブレーキがかかりかねない。
▲図 急速充電器と普通充電器の内訳 出典:経済産業省
こうしたEV普及の制約要因の他に、日本国内ではトヨタ自動車プリウスなどのハイブリッド車がEVより先に市場投入されていたこともあり、EVの普及台数は思ったほど伸びていないのが現状だ。
▲写真 次世代自動車(乗用車)の国内販売台数の推移(単位:台)出典:日本自動車工業会調べをもとに編集部作成
しかし、中国をはじめ北米や欧州市場においてEVシフトの勢いは増す一方だ。EV最大市場である中国の「新エネルギー車(NEV)規制」は、HVをカウントしない方針を打ち出しており、自動車メーカーにとってEVの開発と普及は生き残りをかけた至上命題と言える。
こうした中、自動車メーカーが自ら急速充電器を開発し、EV用の急速充電ネットワークを構築する試みに乗り出した。ポルシェジャパン株式会社は、日本国内におけるポルシェのEV専用の急速充電機開発に関し、EVインフラのリーディングカンパニーであるABB株式会社と業務提携することを12日、発表した。2020年半ばまでに150kWを超える急速充電を可能とする次世代のCHAdeMO(注1)を展開することを目指すとしている。
▲写真 急速充電器 出典:Porsche Japan
背景には、ポルシェジャパン初のフル電動スポーツカー「タイカン」の日本市場投入(2020年予定)がある。ポルシェには2025年までに販売台数の半分をEVまたはPHV(プラグインハイブリッド車)にするプロジェクトがある。日本市場で初投入となる「タイカン」の販売促進はマーケティング上重要だ。自ら急速充電器を開発することは、世界的なEVシフトで勝ち残ろうというポルシェの決意を感じさせる。
▲写真 モータースポーツ・ 2019年シーズン・Formula E 出典:Porsche Japan
ポルシェジャパンはABBと共同開発した急速充電器を、全国の正規販売店であるポルシェセンターと公共施設に設置するとしており、EV購入を検討するユーザーにとって大きなインセンティブとなろう。
日本車メーカーのみならず、欧州高級自動車メーカーがEV普及に本腰を入れ始めることは、現時点で日本市場にEVモデルを持たないトヨタ自動車の商品開発戦略にも少なからず影響を及ぼしそうだ。
注1)CHAdeMO
日本初のEV急速充電規格の名称で、「CHArge de MOve = 動く、進むためのチャージ」、「de = 電気」、「充電中にお茶でも」の3つの意味をもつ。チャデモ由来の中国系規格「GB/T」とCHAdeMOの間で、次世代規格の統一に向けての動きがある。
トップ写真:タイカン ミッションE 出典:Porsche Japan
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この記事を書いた人
安倍宏行ジャーナリスト/元・フジテレビ報道局 解説委員
1955年東京生まれ。ジャーナリスト。慶応義塾大学経済学部、国際大学大学院卒。
1979年日産自動車入社。海外輸出・事業計画等。
1992年フジテレビ入社。総理官邸等政治経済キャップ、NY支局長、経済部長、ニュースジャパンキャスター、解説委員、BSフジプライムニュース解説キャスター。
2013年ウェブメディア“Japan in-depth”創刊。危機管理コンサルタント、ブランディングコンサルタント。