無料会員募集中
.国際  投稿日:2019/12/31

反政府ストライキ、長期化も【2020年を占う・フランス】


Ulala(ライター・ブロガー)

フランス Ulala の視点」

【まとめ】

・新年早々、大規模なデモとストが行われる予定。

・年金改革で1月にも政府と労働側が協議。

・2020年は統一地方選もあり、激動の年に。

 

フランス・パリでは、今月5日から続く年金制度改革に反対するストライキが、3週目に突入したが、フランスのマクロン大統領が提案した年金改革に反対している労働組合は19日、政府との協議に進展がなかったことを受け、クリスマス期間中も交通機関のストライキを続行すると表明した。

3週間と言えば、1995年にジャック・シラク大統領が率いるフランス政府が公務員特別年金制度の改革に着手した時のストライキ継続日数でもある。当時のストライキ時には、公共機関がマヒし、道路は地獄のように渋滞し、パリではヒッチハイクする人々の姿であふれ、従業員が会社にたどり着けず欠勤が増加するなど、かなりの混乱が生じた。その結果、最終的に政府は改革を撤回し、当時のアラン・ジュペ首相は辞任に追いやられたのだ。

▲写真 アラン・ジュペ首相 出典:flickr photo by The Official CTBTO Photostream

あの混乱から20年以上がたった。今回もストライキ中は、公共交通機関の運休や間引き運転が続く中、毎日満員電車に苦しめられ、通勤通学客は疲れ切っている。一部の大学では学生が来れず試験が中止になったり、学校が閉鎖したところもある。

商業面でも深刻な打撃となっており、売り上げは30%~60%落ち込み、クリスマス期間中も交通機関のストライキの影響で、過ごす予定だったバカンスに旅立つことができなくなったり、子供のためのアテンドサービスが中止となり、単独で祖父母などを訪れる予定だった約6000人の子供たちが足止めになったりと、確かに国鉄などのストライキが大きな影響をあたえていることは否めない。

が、しかし、最低限の運行の義務づけられ、インターネット、携帯の普及により、情報が取得しやすくなったり、相乗りサービスのブラブラカーなどの新規企業の発展、また、マクロン大統領が運行許可したことでマクロンカーと呼ばれる民間の長距離バスの普及で、混乱はしているものの、1995年よりもストライキに長く耐えられる環境になりつつあるようだ

また、ストライキ自体は、国民から支持は得ている。20日にフランスメディアRTL及およびAEFが発表したアンケート結果によると、62%のフランス人はストライキを支持している。68%が新しい年金システムの導入に不安を覚えていることも支持している理由の一つだろう。

改革後の年金システムでは、国鉄職員や教員など職種ごとに分かれた42の特別制度を徐々に廃止し、年金支給額の算出方法を現在の「期間」で決める方法から、「ポイント制」へ変更し、全て一本化する予定だ。定年退職の年齢については、現行の62歳を維持しつつも、より長く働くことを奨励する措置として「均衡年齢」を設定し、これより早く退職する場合は受給額が減り、遅く退職する場合は増える仕組みを導入する。そのため国鉄などの労働組合は、特権の喪失につながることへの警戒が強くなっている

19世紀以来の伝統で、昔は石炭を扱っていた鉄道員などには、その過酷な労働環境を考慮して50代で早期退職できる優遇制度が認められていた。しかしながら、もう電車を動かすのに石炭も使用しておらず、電車の運転手の労働条件も以前のような過酷とは言いがたい状況なのにもかかわらず、62歳が定年の一般の労働者はとは明らかに待遇に差がある。

そこで新しい年金システムでは、制度を一本化することにより職種による違いがなくなることになっているが、優遇されていた職種の労働者は、今後特権がなくなり不利益をこうむるのではないかという不安をつのらせているのだ。

しかしながら、クリスマス期間にストライキが続行されるのは耐えがたい。クリスマスは日本の新年同様、フランスでは家族と過ごす期間でもある。1948年から72年間、国鉄は毎年ストライキを行って来たが、クリスマス期間までストライキがあるのは1986年以来だ。68%のフランス人は、クリスマス期間の休戦を求めており、エドゥアール・フィリップ首相も、クリスマス休暇中の交通機関スト休戦を労働組合側に要請した

▲写真 クリスマス イメージ画像 出典:pxhere

これに対してフランス労働総同盟(CGT)が主導する労組連合は、クリスマス休暇期間も職場復帰をしないと宣言し強固な姿勢をとったが、規模としては2番目に位置するSNCFの独立組合全国連合(UNSA)は組合員に「クリスマス休戦」を提唱しているため、交通機関の不便さは多少緩和される可能性はあるので、希望は失わないでおきたいところだ。

組合側は来年1月9日にさらなる活動を行うと決めたと発言しており、2020年の新年早々、新たな大型のストライキとデモが行われることとなる。一方、フィリップ首相は、政府が年金財政の立て直しと一部の労働者が最高10年も通常より前倒しで年金を受け取れる制度廃止に全力で取り組むと強調し、また、労働組合との話し合いは進んでおり、残っている対立点は来年1月の新たな協議で解決可能だとの見方を示した。新年早々から見逃せない動きとなるだろう。

2020年には統一市町村選挙も控えている。フランスの2020年は今年に引き続きストライキも多く、激動の年でもあるが、その不便さを乗り越えながらも新しい体勢が築かれる進化の年にもなりそうである。

 

<参考資料>

SNCF

RTL

flanceinfo

leParisien

Parismatch

lefigaro

huffingtonpost

トップ写真:マクロン大統領 出典:flickr photo by euronews


この記事を書いた人
Ulalaライター・ブロガー

日本では大手メーカーでエンジニアとして勤務後、フランスに渡り、パリでWEB関係でプログラマー、システム管理者として勤務。現在は二人の子育ての傍ら、ブログの運営、著述家として活動中。ほとんど日本人がいない町で、フランス人社会にどっぷり入って生活している体験をふまえたフランスの生活、子育て、教育に関することを中心に書いてます。

Ulala

copyright2014-"ABE,Inc. 2014 All rights reserved.No reproduction or republication without written permission."