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.国際  投稿日:2019/12/31

対中強硬姿勢でトランプ再選【2020年を占う・米中関係】


岩田太郎(在米ジャーナリスト)

「岩田太郎のアメリカどんつき通信」

【まとめ】

・米中テック戦争や知的財産権の争いが激化。

・中国が軍事拡張や国内政治弾圧をエスカレートさせる。

・トランプ氏、貿易以外に対中強硬姿勢を強め、再選へ。

 

2020年は、

米中貿易戦争の一時的な「休戦」で神経質になっていた市場が落ち着く一方で、米中テック戦争や知的財産権の争いが激化し、

中国が軍事拡張や国内の政治的弾圧をエスカレートさせ、北朝鮮の核兵器や大陸間弾道弾(ICBM)ミサイル開発を陰で援助することに対する米国の不満が高まり、

「永遠に終わらない弾劾の中間地獄」の中で大統領選挙を戦うことを強いられるトランプ大統領が貿易以外の面で対中強硬姿勢を強め、それが多くの米国民の支持を得てトランプ氏が再選される、と予想する。

 

■ 米中貿易戦争の一時的な「休戦」

トランプ大統領が2019年にエスカレートさせた中国からの輸入品に対する関税引き上げは、中国の習近平国家主席による報復関税を招き、米中両国の経済が打撃を受けた。

たとえば、米連邦準備制度理事会(FRB)が2019年12月23日に発表した報告書によれば、2018年および 2019年にトランプ政権が発動した報復関税により、米製造業の雇用が1.4%押し下げられる一方、製造コストが4.1%上昇するなど、じわじわと悪影響が増大している。農家も大口顧客を失い、苦しんでいる。

一方の中国でも、国内総生産(GDP)の実質成長率が鈍化し、2020年には6%台から5%台へとさらに落ち込むことが確実視されるなか、企業、地方政府、家計がそれぞれに過剰債務という「時限爆弾」を抱えることが懸念視されている。

このような状況下で、国内からの突き上げが無視できないトランプ・習両氏が一時休戦に合意するのは、自然の成り行きであったといえよう。だが、多くの識者が指摘するように、中国の構造改革や知的財産権の問題、その底流にある中国の覇権拡張などの構造的な問題は何も解決されておらず、米中テック戦争や知的財産権の争いが2020年にさらに激化しよう。

そうしたなか、米国にも痛みが大きい報復関税はこれ以上エスカレートさせずに、中国により象徴的・効果的に痛みを与えられる代替案が実行に移されるだろう。

具体的には、米国における特定の中国企業の上場廃止やそれら企業への投資制限を通して、マネーの流れを止める「資本規制」が見られるようになる。米市場に上場する中国企業の時価総額は130兆円を超えており、狙い撃ちで効果的に中国に打撃を与えることができる。

米投資信託や年金基金などの公的なマネーが、「米企業並みの金融透明性が確保されていない」中国企業に流れることを防止し、米国で上場する中国企業が知的財産権の面で問題があれば、投資制限を行えるようになる大統領令が発出されるか、同様の趣旨の法案が超党派の賛成で成立する可能性は低くない。すでに2019年に米国内で議論や準備が着々と進められてきたものであるからだ。

 

■ 覇権拡張をあきらめない中国への不満の高まり

米中貿易戦争の休戦が両国で発表された後の2019年の暮れに、大変興味深い現象が起こった。経済面における緊張の表面的な緩和にもかかわらず、中国共産党の対米宣伝戦が強化されたのだ。

たとえば、中国国防部の呉謙報道官は12月26日の定例記者会見で、「近年、米国は世界各地で戦争を発動し、他国の主権を侵害している。その行く先々で硝煙が四方から上がり、無辜の民衆多数が死傷し、大量の難民が発生している」と述べ、「米国の2019財政年度国防費は7160億ドルにも達し先般可決した『2020財政年度国防権限法』は国防費を7380億ドルにまで増やした。これは世界全体の軍事費の40%以上を占める。それでも中国の軍事費を巨額だと非難するのか」と強く批判した。

さらに、「中国の発展に対する米側の圧迫と抑止は、その『中国観』が誤った道に入り込んだことに源がある。自国の絶対的安全保障への米側の過度の追求は、その『安全保障観』が狭隘で利己的であることに源がある」と決めつけ、「中米は和すれば共に利し、争えば共に傷つく。米側が大局に着眼し、過ちを正し、中国側と向き合って進み、非衝突・非対立、相互尊重、協力・ウィンウィンの実現に努力することを望む」と強調したのである。

これは、中国のウイグル人や香港人への弾圧に対する米国の圧力をはね返す意味合いを持つと同時に、米国に対して、「中国を西太平洋地域における排他的な強国として認め、その『二大強国』の枠組みにおいて手を組もう」という従来からの呼びかけの焼き直しだ。だが、米国に遠慮した友好的な姿勢は影を潜め、トーンが強化されている。

さらに、中国共産党に近いとされる「中国人権研究会」は12月26日発表の論評で、「米国は一貫して民主と人権の『模範』を標榜しているが、至る所に存在する根深い金権政治が米国の嘘を徹底的に暴露している。金銭が政治を支配する米国では、金銭がなければ政治参加に関する一切の議論は空論であり、金権政治が『米国式人権』を容赦なく押し潰している」と米国を非難した。

このような強硬な論調の高まりが、同国内ですべてを指導統制する中国共産党の習近平国家主席の意図を汲んでいないとは考えづらい。

▲写真 習近平国家主席 出典:President of Russia

一方の米国でも、中国のウイグル人イスラム教徒の弾圧、香港での警察の暴力、市場規模を背景にした欧米企業に対する価値観の押し付け、習近平思想の行き過ぎとしての焚書、軍事拡張のエスカレート、北朝鮮の核兵器や大陸間弾道弾(ICBM)ミサイル開発への陰の援助などに対する批判がじわじわと超党派で高まりを見せつつある。

▲写真 北朝鮮金正恩委員長と会談する習近平国家主席(2019年6月)出典:中国外務省

2020年の大統領選を前に、現職のトランプ大統領や民主党の対立候補も、手っ取り早く人気取りができるため、ポピュリスト的な民意に基づく中国たたきを行わざるを得ず、米国民の対中感情はさらに悪化しよう。

しかし、選挙を勝つための「道具」に過ぎない中国たたきも、その言霊(ことだま)が独り歩きを始め、選挙期間を超えて米国民の心に深く根差すようになる。同じように中国の米国批判も抑制をしなければ、2010年代初頭の反日言説の利用が一時、共産党のコントロールできない事態に陥ったように、共産党の意図を超越して独り歩きしかねない。

このようにして安易に発動されるナショナリズムによって2020年には米中両国で互いへの反感が強まり、中長期的な米中戦争への秒読みが早まるターニングポイントの年になるだろう。

 

■ 反中を掲げるトランプ大統領の再選

こうしたなかトランプ大統領は、民主党のコントロールする米下院において「権力乱用」及び「議会妨害」で弾劾され、同党のナンシー・ペロシ下院議長がこれら2つの条項を上院に送付しないために、共和党がコントロールする上院で自己に有利な裁判が開かれる目途が立たない。

こうして、進むに進めず、退くにも退けない「永遠に終わらない中間地獄」で苦しむトランプ大統領は、再選を確実にするために反中の姿勢を強化させると予想する。民主党の候補も誰であろうが対抗上、中国を攻撃するだろう。

しかし、トランプ大統領には中国に打撃を与えられる大統領令をかなり自由に発出できる現職の強みがある。前にも述べた個別の中国企業の上場廃止などを通して、投資制限によるマネーの流れを止める「資本規制」を行い、ファーウェイ(華為)など中国製品や技術の締め出しを強化して、米国で活動する中国人スパイの大々的な摘発を実行、さらには予期されていない突然の対中報復関税復活など、使える「武器」の種類は多い。

トランプ大統領は、反中で手っ取り早く米国民の支持を取り付け、その勢いに乗って再選を果たすだろう。民主党候補たちとのギリギリの接戦になることは確実だが、中国カードを切ることは、生活がいっこうに向上せず不満を抱える中間層や低所得層の白人に、非白人国家の中国をたたくという逃避的快楽を与えることになり、移民を攻撃するポピュリスト的な言説で2016年にトランプ大統領が勝利したパターンが繰り返されることになる。

▲写真 2016年の大統領選にてトランプ大統領が誓約に署名した際に行った演説 出典:Wikimedia: Michael Vadon

ここで注意が必要なのは、習近平思想に染まった勢力が中国で米国批判を強めるほど、「反中のトランプ」の再選の可能性が高くなることだ。うがった見方をすれば、中国にとって対中姿勢がより強硬になる恐れのある民主党候補が当選するよりは、トランプ再選がベターなシナリオなのかもしれない。

だが中長期的にはやはり、米中両国の互いに対する感情が悪化し、将来の米中戦争への秒読みが早まることになる。このように2020年は、米中対立が激化して、トランプ大統領や習近平主席が意図しなくても、長期的な米中衝突の可能性が大いに高まる年になろう。

従って2020年に日本が行うべきことは、必然的に米中対立に巻き込まれる立場を逆利用して米中からできる限り有利な条件を引き出すとともに、米国のアジア関与の低下を見越した真の独自路線の可能性を探っていくことではないだろうか。

トップ写真:米中会議の様子(2017)出典:The White House


この記事を書いた人
岩田太郎在米ジャーナリスト

京都市出身の在米ジャーナリスト。米NBCニュースの東京総局、読売新聞の英字新聞部、日経国際ニュースセンターなどで金融・経済報道の訓練を受ける。現在、米国の経済・司法・政治・社会を広く深く分析した記事を『週刊エコノミスト』誌などの紙媒体に発表する一方、ウェブメディアにも進出中。研究者としての別の顔も持ち、ハワイの米イースト・ウェスト・センターで連邦奨学生として太平洋諸島研究学を学んだ後、オレゴン大学歴史学部博士課程修了。先住ハワイ人と日本人移民・二世の関係など、「何がネイティブなのか」を法律やメディアの切り口を使い、一次史料で読み解くプロジェクトに取り組んでいる。金融などあらゆる分野の翻訳も手掛ける。昭和38年生まれ。

岩田太郎

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