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.国際  投稿日:2019/12/28

対中関係と民主化がカギ【2020年を占う・アジア】


大塚智彦(フリージャーナリスト)

「大塚智彦の東南アジア万華鏡」

【まとめ】

・東南アジア各国の経済の行方を左右するのは対中関係。

・2020年はASEAN加盟国が対中姿勢で二極化。

・各国、民主的改革への挑戦という問題が噴出。

 

2020年の東南アジアは主要国で予定される大きな国政選挙もなく、東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟10カ国は政治的課題よりも社会や経済の問題が国政主要課題となり、その経済の行方を左右するとみられるのが中国との関係で、中国政府が進める「一帯一路」構想への対応を巡り各国の対応の違いがより鮮明となり、明暗、功罪、深度などで二極化がより進むことが予想される年となりそうだ。

対中関係でASEANの中で最も是々非々を明らかにして一方的な中国の経済影響力に組さない姿勢を貫いているはマレーシアだ。2020年に95歳となるマハティール首相が20年ぶりに自国開催となるアジア太平洋経済協力会議(APEC)を11月に控え、米国トランプ政権による米国開催提案を拒否するなどして会議の成功に向けて指導力を発揮している。

ただ2020年末までには当初の「約束」を守りアンワル元副首相に首相職を譲ることを12月10日にロイター通信とのインタビューで改めて表明しており、禅譲による政権交代がありそうだ。アンワル氏はマハティール政治を基本的に継承することから、中国にとっては「手ごわい相手」が続くことは間違いない。

▲写真 マハティール首相 出典:flickr photo by Wazari Wazir

 

■ 親中国との2極化進むASEAN

ASEANで親中国の立場を示し、中国からの経済援助をなりふり構わず受け入れているカンボジアはフンセン首相により野党指導者や野党勢力への弾圧がさらに強化され、実質的な「独裁政権」となっている。

内政不干渉が建て前のASEANだが、マレーシアやインドネシア、フィリピンなどからあまりの「中国べったり」振りに苦言も出ている 。しかしフンセン首相はASEAN内での孤立も、中国という「頼もしい後ろ盾」があるため、意に介さない姿勢を取り続けている。

近年のASEAN関連の一連の会議でたとえば南シナ海領有権問題や中国からインドシナ半島を流れるメコン川の開発問題などで中国を牽制したり、自重を求めたりする文言、表現がことごとく共同声明や共同文書からトーンダウンさせられているのも中国を忖度するカンボジアが旗振りとなって「抵抗」しているからといわれている。

▲写真 フンセン首相 出典:flickr photo by World Economic Forum

カンボジアに次いで河川開発や領有権問題で時に中国に反発しながらも、基本的に親中国のラオスベトナムでは国内の政府批判勢力をマスコミ統制や民主化運動弾圧と力で封じ込んでおり、カンボジアに次ぐASEAN内の「非民主、独裁国家」として中国が巨額の経済支援を注ぎ込んでその経済的、政治的影響力の拡大を図っている状況だ。

こうしたASEAN内の中国による切り崩しは2020年もさらに激しくなり、他のASEAN加盟国との間で対中姿勢の2極化が明確に分かれる年となりそうだ。

 

■ インドネシア、タイなど4国が牽引

 ASEANを概観してみると、ベトナム、ラオス、カンボジアは1党支配あるいは実施的な独裁政権が続いている。いずれも完全に民主的手法かどうかは疑問が残るものの一応選挙で国民が選択した政治体制であり、大きな社会変動は起きそうにもない。

ミャンマーも少数派イスラム教徒ロヒンギャ族を巡る国際社会による「民族浄化」「人権侵害」の批判に対しアウン・サン・スー・チー国家顧問が12月11日にオランダ・ハーグでの国際司法裁判所(ICJ)に出廷してまで「直接的な証拠がない」と軍によるロヒンギャ族の集団虐殺を否定するなど頑なな姿勢を貫いている。

しかし国内では多数派の仏教徒や政治に強大な影響力を維持している軍からの支持を背景にして安定的な政権運営を続けているのも事実。ASEANや国際社会での孤立を利用して影響力を行使しようとする中国に対してもミャンマーは警戒感を高めており、中国の浸透は容易ではないのが現状だ。

こうした中で民政選挙を経たとはいえ実質軍政が継続しながらも国王の政治的影響力が強まっているタイ、健康問題を抱えながらも国民の高い支持率を背景に強権政治を続けるフィリピン。そして庶民派大統領が再選して民主主義がそれなりに機能しているインドネシアと、マハティール首相が率いて独自路線を力強く歩んでいるマレーシアという4カ国が2020年もASEANを牽引することは間違いなく、各々に問題、批判を抱えながらも一応民主国家として存在感を示している。

一方でタイは軍政時代を引き継いだ与党による野党への圧力が強まり、フィリピンでは正副大統領の対立から正副大統領をペアで選出する内容などを含んだ憲法改正案が審議されており、インドネシアも与党中心に大統領や地方自治体の首長を議会が選ぶ間接選挙制の復活が議論される中、3国とも報道の自由や表現の自由への制限、少数者への差別問題、イスラム教過激組織によるテロと民主主義の屋台骨を揺るがしかねない問題を抱えている。

2020年は対中国外交とともにこうした各国で進んできた民主的改革の後退、逆行、圧迫への挑戦という新たな問題も噴出しそうだ。

トップ写真:ASEAN加盟国の国旗 出典:flickr photo by stefanusss


この記事を書いた人
大塚智彦フリージャーナリスト

1957年東京都生まれ、国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞入社、長野支局、防衛庁担当、ジャカルタ支局長を歴任。2000年から産経新聞でシンガポール支局長、防衛省担当などを経て、現在はフリーランス記者として東南アジアをテーマに取材活動中。東洋経済新報社「アジアの中の自衛隊」、小学館学術文庫「民主国家への道−−ジャカルタ報道2000日」など。


 

大塚智彦

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