米中対立激化と国家主権強化【2020年を占う・国際政治】
古森義久(ジャーナリスト・麗澤大学特別教授)
「古森義久の内外透視」
【まとめ】
・2020年の二大潮流は、“米中対決激化”と“国家主権の拡大”。
・日本が米の政策に反する道を選ぶ場合、摩擦が起きかねない。
・日本の米依存の安全保障、国家防衛のあり方が問われる。
2020年の世界はどうなるのか。現実の世界がカレンダーに合わせて、そのうねりに区切りをつけることはない。だが人間の側が一年の終わりと始めという分水嶺に立って、国際情勢を考えることには意味があるだろう。そんな前提で新たな年の国際情勢を展望すると、少なくとも二つの大きな潮流が予測される。その第一はアメリカと中国との対決の激化である。第二は、主権国家の「主権」部分の拡大である。まず米中関係について述べよう。
私が報道活動の拠点として在住するアメリカの首都ワシントンでは2019年も中国のこれまでの膨張を抑えることが熱っぽく語られた。政府や議会ではそのための諸政策が形を成した。単にトランプ政権だけではない。中国に対して抑止や封じこめといえる強硬策をつぎつぎにとるトランプ政権に対して野党の民主側からも「もっと強固に」という叱咤の声が絶えないのだ。
2019年末には米中間の貿易面での交渉で「第一段階の合意」が明らかとなった。だからいわゆる関税戦争では一種の凪がきた観が生まれた。しかしいまの米中両国の対立は関税だけではない。経済面での対立でも関税はあくまで手段なのだ。米中両国がたがいに関税を高くしあう背後にはアメリカが非難する中国側の「不公正な貿易慣行」が存在する。さらにその背後には中国共産党独特の独裁統治がある。トランプ政権はその独裁統治に対して中国内部の状態についても、国外での中国の膨張についても、正面からの対決、そして抑止の態勢をとっている。
▲写真 G20でのトランプ大統領と習近平国家主席の会談 出典:Frickr: The White House
こうした状況は2020年もより明確に、より先鋭になるだろう。アメリカは中国との対決を対外政策の基軸に据えて、日本との関係をも考慮するようになるだろう。日本がアメリカの政策にまったく反する道を選ぶような場合、アメリカとの摩擦が起きることとなる。
第二には世界での国家主権が強まる動きである。近年、グローバリゼーションのほころびが目立ってきた。「各国家の境界線を越えて人、物、カネがより自由に動く」というグローバル化がいまの世界に数々のプラスをもたらしてきたことは疑いがない。その一方、トラブルも多くなった。自国の本来の経済への外部労働力流入による悪影響、本来の文化や伝統、社会秩序への変動、そして外国からの勢力によるテロリズムなどがアメリカやヨーロッパ諸国を揺るがすようになった。国連のような国際機関に頼って様々な問題を解決するという傾向が薄れてきた。主権国家がそれぞれの課題に取り組んでいかなければならない度合いが強くなってきた。その潮流の中で、国家主権という概念が見直されるようになってきた。
その最大の実例が「アメリカ第一」の基本を鮮明にするトランプ大統領が国家主権の優先、そして国益を内外の政策の柱としたことだった。同大統領は2019年にも国連で「人類の未来はグローバリズムではなくナショナリズムだ」とも演説した。
国家主権の再重視という潮流は、ヨーロッパではイギリスのEU(欧州連合)離脱の動きでも顕著となった。EUというグローバリズム的な存在に依存しては自国が抱える課題をきちんと解決できない。経済も対テロ対策も、移民や難民の問題もより困難になった。自国の問題は自国が主体で解決せねばならない、という自明の基本に国家のあり方が戻る傾向だといえよう。こうした国家主権という課題は日本にとってとくにアメリカ依存ですませてきた安全保障、国家防衛という領域で大きく迫ってくるだろう。
トップ写真:米中の貿易、関税に関する会談の様子 出典:Tia Dufour, White House
あわせて読みたい
この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授
産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。