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.国際  投稿日:2020/1/8

ゴーン、レバノン逃避行の裏


安倍宏行(Japan In-depth編集長・ジャーナリスト)

【まとめ】

・ゴーン脱出で、プライベートジェットの大型荷物検査義務化へ。

・脱出手伝った元グリーンベレーのテイラー氏、レバノンに強い人脈。

ゴーン被告、8日に会見。メディア戦略の後手に回ってはならない。

 

■ プライベートジェット

カルロス・ゴーン被告は、プライベートジェットに積み込まれた荷物の中に隠れて国外に脱出したとされている。プライベートジェットはビジネスジェット、エグゼクティブジェットとも呼ばれ、数人から十数人程度を定員とする小型のジェット機のことをいう。主に、企業経営者やセレブリティが使う。

プライベートジェットの主なメーカーには、ブラジルのエンブラエル、米のガルフストリーム、セスナ、カナダのボンバルディアなどがあり、日本では本田技研工業のホンダジェットが有名だ。2017年には、世界の超小型機(パイロットを含めた乗員が10人未満)市場で世界首位に立った。

▲写真 デモ飛行するホンダジェット 出典:Photo by Sergey Ryabtsev

その国別保有台数を見てみると、2016年時点で米国が19,153機でトップ、次いでドイツ592機、フランス438機、英国393機、インド243機、中国157機、と続く。日本は57機にとどまる。

一方、プライベートジェットの発着回数は着実に伸びている。2018年に5,719回、5年で約1.7倍になった。今回ゴーン被告が飛び立った関西空港は年間716回と余りプライベートジェットは発着していない。ターミナルの人員配置も羽田空港などと比べて多くはなさそうで、敢えて関空を使ったのはその辺も関係しているだろう。一部報道では、関空のX線スキャナーが大型貨物に対応していないことも事前に調査されていたという。

▲図 日本におけるビジネスジェットの発着回数推移(国際)出典:国土交通省

 

■ ゴーンが隠れていたとされる楽器用ケース

マンガのような話だが、ゴーン被告は大型の楽器用ケースに隠れて関西空港から脱出した。そのケースの写真はウォールストリートジャーナルが入手し、公開している。

▲出典 Wall Wall Street Jounalのシニアエディター、Mark Maremontのツイート

今回、ケースは自前で事前に準備したと思われるが、人が隠れるに十分な大きさのケースは航空会社から借りることもできる。コントラバスなどの大型の楽器を入れるケースがそれだ。実際の大きさはというと、(内寸)長さ:206/196cm 幅:74/64cm 高さ:48cm なので、小柄なゴーン被告が隠れるには必要にして十分な広さではある。

▲写真 コントラバス用ケース (内寸)長さ:206/196cm 幅:74/64cm 高さ:48cm(外寸)長さ:211cm 幅:82cm 高さ:61cm 出典:全日空

プライベートジェットの貨物は保安検査が義務付けされていないので、ゴーン被告が忍び込んだ巨大な箱は難なく機内に積み込まれたわけだ。

「え?検査がないの?」と思った方。確かにプライベートジェットは、不特定多数の人間が登場する大型旅客機と比べ、ハイジャックされる可能性が小さいので義務付けしなくてもいい、という理屈でそうなっているのだそうだ。わからないでもない。しかし、危険物が入っているかもしれないし、密輸にだって悪用されかねないわけだから、プライベートジェットに荷物検査なしはおかしいと思うのは筆者だけではあるまい。

現に、今回の問題を受け、6日以降、羽田、成田、中部、関西の4空港で空港施設の管理側の責任で大型荷物検査を義務化した。当然だろう。今回の事件で、世界中に犯罪者であっても日本の空港からいとも簡単に国外脱出できることが白日の下に晒されてしまったのだから。

▲写真 プライベートジェットに大型貨物ケースを積み込む様子 出典:ASL

また、「貨物室は寒いだろうに」との書き込みも当初ネット上にあったが、今回使われたプライベートジェットは貨物室と乗客室の行き来が可能だったようで、ゴーン被告はジェットが飛び立ったらさっさと窮屈な箱から抜け出して悠々と優雅なフライトを楽しんだことだろう。

▲写真 ボンバルディア社グローバルエクスプレス6000のキャビン 出典:twitter:Bombarider

 

■ 逃亡請負人

今回、マイケル・テイラーなる元米グリーンベレーの男がコーン被告の脱出劇を演出したとされる。大阪―イスタンブール間の乗客者名簿にその名があったからだ。テイラー氏は、1994年に設立した、アメリカン・インターナショナル・セキュリティ・コーポレーション(American International Security Corporation)なる民間警備会社を運営している。人質救出も業務の一つだ。2009年にはアフガニスタンの反政府勢力タリバンに拘束されたニューヨーク・タイムズ紙の記者救出に関わったこともある。

ゴーン被告との接点は、レバノンだ。テイラー氏は1980年代初頭、レバノンでキリスト教民兵の訓練を行っていたが、軍を辞めた後、現地で結婚してしばらくレバノンにとどまった。今回乗客名簿に載っていたもう一人の米国人、ジョルジュアントワーヌ・ザイェク氏ともレバノンで知り合ったと言われている。

ゴーン被告はブラジル生まれだが両親はレバノン人であり、彼の妻、キャロル氏もレバノン出身だ。ゴーン被告がどのような経緯でこのテイラー氏なる人物を頼ったか、詳細は明らかになっていないが、誰かが手引きしたことが考えられる。フランスでもゴーン被告に対する捜査が進んでいることもあり、逃亡先としては自身のネットワークがあるレバノンしかなかったのだろう。

そして、1月8日、ゴーン氏は現地で会見を開く予定だ。日本の司法制度を批判し、国際世論を味方につける戦略だと思われる。ゴーン被告は、自分の逮捕、起訴に日本政府の関係者がいたと海外メディアに語っている。何が飛び出すか、世界中のメディアが注目している。

犯罪人引き渡し条約を結んでいないレバノンに逃げ込まれて打つ手のない日本は、ゴーン被告のメディア戦略の後手に回ってはならない。手をこまねいていては日本の国際社会におけるイメージが悪くなるばかりだ。日本もまた対抗措置としての情報発信を積極的に行う必要があろう。

トップ写真:カルロス・ゴーン被告 出典:Photo by BsBsBs


この記事を書いた人
安倍宏行ジャーナリスト/元・フジテレビ報道局 解説委員

1955年東京生まれ。ジャーナリスト、産業能率大学客員教授。慶応義塾大学経済学部、国際大学大学院卒。


1979年日産自動車入社。海外輸出・事業計画等。


1992年フジテレビ入社。総理官邸等政治経済キャップ、NY支局長、経済部長、ニュースジャパンキャスター、解説委員、BSフジプライムニュース解説キャスター。


2013年ウェブメディア“Japan in-depth”創刊。危機管理コンサルタント、ブランディングコンサルタント。

安倍宏行

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