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.国際  投稿日:2020/1/12

ゴーン広報戦略担う「女王蜂」


Ulala(ライター・ブロガー)

フランス Ulala の視点」

【まとめ】

・ゴーンの広報担当、メディアを巧みに操る広報戦略専門家。

・アンヌ・メオ氏は政財界で手腕振るう。

・世界の広報戦略を日本も積極的に採用せよ。

 

1月8日午後10時(日本時間)、国外逃亡した日産自動車前会長のカルロス・ゴーン被告がレバノンで記者会見を行った。しかし、この会見ではゴーン被告よりもなによりも、もっと注目してもらいたい人物がいる。質問の際にマイクを回すなど会を仕切るブロンドの女性だ。実は、彼女こそがフランスで「女王蜂」と呼ばれ、政界、産業界の有力者と依頼者との仲を取り持ち、メディアをたくみに操る広報戦略の専門家、アンヌ・メオ氏である。

広報会社「イマージュ7」を率いるアンヌ・メオ氏は、政治家の間に極めて大きなネットワークを持ち依頼者と有力者のコミュニケーションを援助するだけではなく、依頼内容を成功させるための宣伝活動を行っている。

▲写真 イマージュ7の社員 出典:イマージュ7

窮地を救うための支援活動としては、不正給与払い疑惑のフランソワ・フィヨン元首相に対して働いていたことでも有名である。ゴーン被告の妻であるキャロル夫人、およびフランスの人権派弁護士が頻繁にテレビに出演していたのも、全ては、アンヌ・メオ氏の戦略によるものだったのだと考えられるのだ。

1954年7月7日生まれのアンヌ・メオ氏は現在65歳。学業終了後、1970年代に最初に足を踏み入れたのは政治の世界だった。GUD(極右の学生組合の一つ)である。この時代に、産業相や経済相を務めたジェラール・ロンゲ氏、アラン・マドラン氏、またエルヴェ・ノヴェリ氏など、政界の著名人との人脈を築いている。GUDでの活動後は、大統領官邸の広報として働いた。

1979年に、第20代フランス大統領ヴァレリー・ジスカール・デスタン氏が、中央アフリカ帝国のボカサ1世から賄賂としてダイヤモンドを受け取ったとする事件が起こった時に、アンヌ・メオ氏は驚いたと言う。公式な見解があまりなかったのだ。「大統領。これは大きな問題になりますよ。」と言う人が誰もいなかったという。この経緯を通して、主張したい言葉をダイレクトに伝える手段が必要だと確信した。

その後、当時のアラン・マドラン産業相の事務所でコミュニケーション担当をしたのち、1988年に広報会社「イマージュ7」を設立。政界からは離れ、産業界で活躍し始める

特に有名なのは、世界で有数の資産家であるラクシュミー・ミッタル氏をフランスの億万長者でビジネスマンであるフランソワ・ピノー 氏に引き合わせるなどし、有力者とのコミュニケーションと広報を支援し、2006年には無事アルセロール・ミッタル社を作り上げるのにも貢献したことだろう。

ちなみに、ラクシュミー・ミッタル氏が、日本円にして75億円相当を費やし娘の結婚式をヴェルサイユ宮殿を借りて行ったことは逸話にもなっているが、その結婚式の企画にもアンヌ・メオ氏の影が見え隠れする。

フランス産業の影の立役者として活躍したのち、2017年に政治の世界に戻る。当時、大統領選の共和党候補フランソワ・フィヨン元首相の家族が議員秘書として不正に給与を受給していたとの疑惑が持ち上がったのだ。

フランスの新聞ル・カナール・アンシェネは、ペネロピ夫人が、フィヨン氏とその後任の議員秘書として数年間にわたり83万1400ユーロ(約1億円)の報酬を受け取っていたものの、議会への入館証を持っていなかったと報じた。このメディアからの暴風のような追及をフィヨン氏が乗り越えることを望んだアンヌ・メオ氏は、絶対的な信頼の下、フィヨン氏のために働いたという。

このように、関係者を引き合わせるなどのコミュニケーションや、意思を明白に、大々的に伝える広報の仕事を通して、フランスの政界、産業界に幅広くかかわり続けてきた人物なのである。

そんな「女王蜂」と呼ばれるフランスで強力な力を持つアンヌ・メオ氏を、ゴーン被告が知らないはずがない。逮捕後、真っ先に契約したのがの広報会社「イマージュ7」であった。

▲写真 カルロス・ゴーン被告 出典:Photo by Thesupermat

「イマージュ7」を率いるアンヌ・メオ氏の戦略の一つなのだろう、フランスの弁護士、およびキャロル夫人が頻繁にメディアに登場し、彼らの主張を広めていった。結果、現在、控えめに言って「日本はとても厳しい国」、もしくはゴーン被告がキャロル夫人とも会えないという、信じられないほど「人権が尊重されていない国」と言うすり込みが、フランス、および海外のよく日本を知らない人たちの間に広く浸透したことは間違いない。

そして、ゴーン被告の一連の逃亡劇は素晴らしいものだった。昨年の12月31日、逃亡後、安全を確保すると、アメリカの広報担当からゴーン被告の「私はレバノンにいる」との声明が発表された。会見前には、事前にフランスの弁護士から声明が出され、日本の政府関係者を含めた人物名の公表、および、証拠の提示が行われると大々的に宣伝。メディアでは嘘とも本当ともわからない、英雄の脱出劇のイメージが流された。

そんな渦中で行われた会見はまさに注目の的になり、世界中から多くの記者が集まり、ゴーン被告を知らない人たちにまでゴーン被告に興味を持たせることにも成功したのだ。

しかし、あまり成功していない点もある。キャロル夫人が次々とメディアに出ていたため、ゴーン被告が逃亡した時に、真っ先に逃亡計画をたてたと疑われたのがキャロル夫人となった。また、キャロル夫人が「フランス政府は何も動いてくれない」というような内容を繰り返すことに、政府側はあまりよく思っていなかったようだ。その状況をアンヌ・メオ氏も察したのか、会見前に既に、ゴーン被告自身が逃亡には家族が関与していないことを主張、また会見では、フランス政府に信頼を置いていることが強調され、その負の印象の払拭をはかっているのが印象的だった。

しかも会見前の弁護士の言葉とは裏腹に、会見でゴーン被告が、レバノン政府を考慮して政府関係者の名前があげられることもなく、フランス政府、日本政府をけなすことがなかったのも、アンヌ・メオ氏の助言から来ているのだろうと思われる。その点をしっかり押さえたことは賢明であっただろう。

会見の内容自体は、感情論も多く、説得力に関しては日本やフランスでは意見が2分しており、現在、挽回が試みられている状態と言えるだろう。

そう、ここまで言えばおわかりだろう。現在、日本が足りないものは、勤勉さや正確さでも、完璧な司法でもない。まさに、アンヌ・メオ氏のような、広い人脈を持ち、大胆なメディア戦略ができる人物の存在ではないだろうか。各業界や政府、各分野の人々の間でコミュニケーションを取りつつ、適切な広報を行う存在である。

それでも、今回は、異例ながらも、各部署個別にではあるがかなり日本側も健闘した。その結果、森法務大臣の言葉は世界にながれ、フランスの新聞 Le parisienでは、ゴーン被告が攻撃している内容と、森法務大臣および専門家の言葉を引用し、特定の誰かの主観によってゆがめられていない日本の主張が同時に書かれた記事が出された

これだけを見ても、公の立ち場の人がどんどん発言していくことの重要性が理解できる。例え一部に言葉の間違いがあっても、さらりとかわして修正していけばいい。それこそ、アンヌ・メオ氏の助言の元であろうと思うが、ゴーン被告がやっていることだ。

言わなければ何も伝わらない。アンヌ・メオ氏の活動を見てもわかるように、世界ではそんな広報戦争が普通に行われている。今回を異例とせず、今後も何が起こっても、海外に向かって主張、反論を続けていくことはとても重要だ。ぜひ、今回の騒動から教訓を得て、その他の問題に対しても積極的に主張していって欲しいと切に願う。

トップ写真:アンヌ・メオ氏 出典:イマージュ7


この記事を書いた人
Ulalaライター・ブロガー

日本では大手メーカーでエンジニアとして勤務後、フランスに渡り、パリでWEB関係でプログラマー、システム管理者として勤務。現在は二人の子育ての傍ら、ブログの運営、著述家として活動中。ほとんど日本人がいない町で、フランス人社会にどっぷり入って生活している体験をふまえたフランスの生活、子育て、教育に関することを中心に書いてます。

Ulala

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