島耕作型経営者が企業滅ぼす
清谷信一(軍事ジャーナリスト)
【まとめ】
・バブル以降日本企業がパッとしないのは島耕作に代表される日本型サラリーマン経営者が無能だから。
・新しい発想や独創性なく、組織変革の気概にも欠ける。
・矢島金太郎のような改革型蛮人タイプこそ大企業に必要。
80年代のバブル以降、日本の大企業は衰退が続いている。我が国を代表する大企業、NEC、東芝、富士通など中国や韓国などの追い上げて受けて、青息吐息だ。
バブル以降日本企業がパッとしないのは島耕作に代表される日本型のサラリーマン経営者が無能だからじゃないか。バブル時代を引きずっている「島耕作」をヒーローと捉えるようなメンタリティが企業の改革を阻んでいるのではないか。
漫画島耕作シリーズは「課長島耕作」から始まって会長シリーズが終わり、次は相談役になるようだ。島耕作は一見一匹狼風ですが、実は大した経営能力があるわけではない。上司に可愛がられ、女にモテ(これはファンタジー)、あとは探偵使って裏工作でのし上がってきた。事実、漫画でフィクションにも関わらず、彼の経営してきたテコット社は難しい経営環境に陥っている。
島耕作はある意味典型的な大企業のサラリーマン経営者だ。基本的にゴルフや銀座のクラブで、経費で飲み食いして仕事の話をする昭和なサラリーマンのスタイルの仕事ぶりだ。
他の社員と同じような金太郎飴タイプである。彼らには新しい発想や独創性もなく、組織を変革しようという気も実績もない。意思決定も遅い。結局バブルまでと同じ経営手法、すなわちキャッチアップ時代のガンバリズムで乗り切ろうとする。
▲写真 サラリーマンイメージ 出典:Pixabay: mercado2
大企業に入ってくる社員は、大抵勉強はできるけども、寄らば大樹の陰志向だ。だからリスクをとって新しい提案をしたり、挑戦したりする気概も発想もない。会社にしがみついて美味しい思いをしたいだけだ。つまり会社にぶら下がり、しがみついているだけだ。会社に過剰適応しているので自社については詳しくなっても、他の会社では使い物にならない。
しかも同質の金太郎飴体質だ。会社内の「常識」が「常識」で、付き合いも社内、精々業界内だけなので世間の常識を知らない。また今の会社の文化や発想と異なる人材を毛嫌いし、保身が第一なのでますます純粋培養化が進む。いちばん大事なのは現状維持だ。率直に申し上げればナイーブで世間知らずで、逞しさがない。だからパラダイムの転換をするような改革ができない。セクハラ、パワハラもそういう「内輪の常識」を基準としているからだろう。
筆者の世代は昔は新人類と呼ばれ、いまはバブル世代と呼ばれている。新卒当時できが悪ても就職に苦労しなかった世代だ。いまも仕事ができないのに人件費が重いこの世代が企業に重荷になっている。彼らはバブル時代の常識が抜けなくて、自社の事情だけには詳しくて、他流試合ができない無能が社内に滞留している。彼らは高給をとって働かないだけの社内失業者ならまだしも、若手や経営者の改革を妨害したり、仕事に茶々をいれる。
最近は小さい企業の経営効率が悪いと盛んにいわれているが、むしろこういう高給取りの「社内失業者」、穀潰しを飼っている大企業の方が、経営効率が悪いだろう。事実、中国や韓国などの企業に遅れをとっている。
それを変えられないのは経営者の質が悪いからだ。旧態依然の行動成長期の夢に浸っていて、漫然と構えて、ハングリー精神もなく、改革を先送りしている。だからアグレッシブで経営判断の早い韓国や中国企業に押されている。
だがアイリスオーヤマはこれらの駄目な企業からリストラされた社員を中途採用で雇って家電事業で業績をあげている。つまり経営者が優秀であれば大手の社員でも利益をあげられる、すなわちこれは既存の大手家電メーカーの経営者が無能という証拠だ。
防衛部門を持っている大企業もそうだ。利益も低く、右肩下がりで、輸出市場で稼いで巻き返してやろうという気位もなく、漫然と継続してリソースを無駄使いしている。どうやっても防衛事業は国内市場だけでは開発のペースも遅く、コスト意識も芽生えない。先にあるのは緩慢な死でしかない。それがわかっていても事業統合や事業を畳む経営力もない。行き着く先は緩慢な死だろう。NEC、富士通、住友重機、東芝皆同じだ。やる気がないならば防衛部門に見切りをつけて、浮いたヒト・モノ・カネといった資源を本業に集中すべきだだが、それができない。
コマツはそのいい例だ。稀代の経営者と謳われた坂根正弘元会長ですら、防衛部門には手を付けずに先送りして退任した。結果、散々税金食い散らかしたら挙げ句に装甲車からは事実上撤退した。防衛の売上の6割を占めてきた砲弾のビジネスも、戦車や榴弾砲の大幅削減が進んでおり、同じ道を辿るだろう。せめて後10年前に装甲車両は三菱重工と、砲弾はダイキンあたりと事業統合していれば生き残ることができ、体質も改善できて状況は大きく違っていただろう。自分の任期の間は面倒くさいこことに手を付けず、無難に過ごすことしか考えていない経営者には改革はできない。
▲写真 コマツ96式装輪装甲車 出典:flickr:JGSDF
ヘリ産業も3社も機体メーカーが存在するが、売上はほぼ100パーセント防衛省に依存している。事業規模は小さく、自主開発も満足にできず、内外の民間市場で打って出るきはない。他国の何倍も高く、性能が低いヘリ防衛省に売って税金を食んでいるが、これが長く続くことはないだろう。無能な経営者は納税者や国にも迷惑をかけるので罪が大きい。
島耕作型の旧態然とした昭和型のサラリーマン社長、あるいは島耕作を礼賛するようなメンタリティのサラリーマンでは大企業の改革や立て直しは不可能だ。むしろ、本宮ひろ志氏の「サラリーマン金太郎」シリーズの主人公、矢島金太郎のような既存の大企業経営者の考え方を否定しつつ、仲間や同調者を増やして改革をしていく蛮人タイプこそ今の日本の大企業には必要だろう。
トップ写真:島耕作イメージ 出典:Frickr:fuba recorder
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この記事を書いた人
清谷信一防衛ジャーナリスト
防衛ジャーナリスト、作家。1962年生。東海大学工学部卒。軍事関係の専門誌を中心に、総合誌や経済誌、新聞、テレビなどにも寄稿、出演、コメントを行う。08年まで英防衛専門誌ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー(Jane’s Defence Weekly) 日本特派員。香港を拠点とするカナダの民間軍事研究機関「Kanwa Information Center 」上級顧問。執筆記事はコチラ。
・日本ペンクラブ会員
・東京防衛航空宇宙時評 発行人(Tokyo Defence & Aerospace Review)http://www.tokyo-dar.com/
・European Securty Defence 日本特派員
<著作>
●国防の死角(PHP)
●専守防衛 日本を支配する幻想(祥伝社新書)
●防衛破綻「ガラパゴス化」する自衛隊装備(中公新書ラクレ)
●ル・オタク フランスおたく物語(講談社文庫)
●自衛隊、そして日本の非常識(河出書房新社)
●弱者のための喧嘩術(幻冬舎、アウトロー文庫)
●こんな自衛隊に誰がした!―戦えない「軍隊」を徹底解剖(廣済堂)
●不思議の国の自衛隊―誰がための自衛隊なのか!?(KKベストセラーズ)
●Le OTAKU―フランスおたく(KKベストセラーズ)
など、多数。
<共著>
●軍事を知らずして平和を語るな・石破 茂(KKベストセラーズ)
●すぐわかる国防学 ・林 信吾(角川書店)
●アメリカの落日―「戦争と正義」の正体・日下 公人(廣済堂)
●ポスト団塊世代の日本再建計画・林 信吾(中央公論)
●世界の戦闘機・攻撃機カタログ・日本兵器研究会(三修社)
●現代戦車のテクノロジー ・日本兵器研究会 (三修社)
●間違いだらけの自衛隊兵器カタログ・日本兵器研究会(三修社)
●達人のロンドン案内 ・林 信吾、宮原 克美、友成 純一(徳間書店)
●真・大東亜戦争(全17巻)・林信吾(KKベストセラーズ)
●熱砂の旭日旗―パレスチナ挺身作戦(全2巻)・林信吾(経済界)
その他多数。
<監訳>
●ボーイングvsエアバス―旅客機メーカーの栄光と挫折・マシュー・リーン(三修社)
●SASセキュリティ・ハンドブック・アンドルー ケイン、ネイル ハンソン(原書房)
●太平洋大戦争―開戦16年前に書かれた驚異の架空戦記・H.C. バイウォーター(コスミックインターナショナル)
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