米でコロナ、ミニパニックも
宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)
宮家邦彦の外交・安保カレンダー【速報版】 2020#10 2020年3月2-8日
【まとめ】
・米国でもコロナ感染広がる。今後ミニパニックの予想も。
・日本、官民一体で感染拡大防止のため、政治判断、決断を下す時期。
・サウスカロライナ州予備選挙ではバイデン氏が圧勝。
遂に米国で新型コロナウイルス感染者から二人目の死者が出た。二人とも西海岸ワシントン州だそうだ。同じワシントンでも、東海岸にある首都ワシントン特別区では未だ、中国は勿論、韓国や日本でも顕在化しつつある危機感があまり感じられない。これからは米国でも多数の感染者が出て、全米でミニパニックが始まるだろう。
先週末までのトランプ氏といえば、コロナウイルスの話は「トランプ政権を貶めようとする民主党側のペテン(hoax)だ」などと嘯いていた。今回のウイルスは致死性が低い分、感染性が高いので、完全に封じ込めるのは難しいそうだ。されば、今週も日米で狂騒曲が続くだろう。筆者は今週米国出張を予定しているが、どうなることやら。
今参議院予算委員会での質疑をNHKの生中継で見ているが、野党側の「専門家会議の議事録は作っているか、詳細を公表するか、概要のみにとどめるのか」といった細かい質問で、予想通り、議事が中断している。こうした歌舞伎は日本では当たり前だが、米連邦議会でこんな枝葉末節の議論はあり得ない。何故かって?
そもそも、今は各担当大臣が24時間働くべき時だろう。官民が一体で如何に感染拡大を防止するかにつき情報を集め、政治判断を行い、矢継ぎ早に決断を下す時期ではないか。その担当大臣たちを全員予算委員会室に缶詰めにし、専門家と協議する時間を奪っている姿は滑稽としか言いようがない。米国では起こり得ない光景だ。
写真)第18回新型コロナウイルス感染症対策本部
出典)首相官邸Twitter
サウスカロライナ州予備選挙では予想通りバイデン元副大統領が圧勝した。詳細については最新版の「デュポン・サークル便り」をお読み頂きたいが、これでバイデン候補が優位に立つかは未知数だ。一時はダークホースと見られたブティジェッジ候補も脱落したが、サンダース候補を過小評価してはならない。3月3日のスーパーチューズデーの結果は今週後半に掲載する「デュポン・サークル便り」を読んで欲しい。
写真)バイデン元副大統領
今週の詳細版では、米国とターリバーンのアフガニスタン和平合意について書く予定だ。未だ合意内容の詳細が不明なので早とちりは避けたいが、これって早い話が、1973年1月のベトナム和平に関するパリ協定と同様、米国の勝利なき、保証なき、一方的撤退合意ではないのか。やはり歴史は押韻するのか。
ちなみに同パリ協定では、すべての参加国が「1954年のジュネーヴ協定が承認したベトナムの独立・主権・統一性・領土を尊重する」こととなったが、北ベトナム軍の南ベトナム領域から撤退する義務が明確ではなく、実際1975年には北ベトナム軍がホー・チ・ミン作戦を開始、翌年には南ベトナム政府が無条件降伏する。今回はこれとどう違うのか。
〇アジア
習近平国家主席の訪日が揺れている。事務レベルの協議が進んでいないので、日中間で新たな政治文書をまとめるのは無理ではないかな?やはり延期だろう。
〇欧州・ロシア
英首相が噂されていた若い交際相手と結婚するという。それ自体は彼の勝手だろうが、その女性が反捕鯨問題の活動家であることがちょっと気になる。
〇中東
イランでコロナウイルス感染者が急増している。厳しい経済制裁下で十分な衛生環境を維持するのは容易ではなかろうが、これで反米感情は増々拡大するだろう。
トルコ軍とシリア政府軍の衝突が気になるが、シリアの裏にはロシアがいる。今週のロシアとトルコの首脳会談の結果次第ではEUに再び大量の難民が流入する。
〇南北アメリカ
米大統領選は今週3月3日のスーパーチューズデーで一定の方向性が見えてくるかもしれないが、バイデン候補とサンダース候補が拮抗しても、ブルームバーグ候補が善戦しても、民主党にとって何一つ良いことはない。今週民主党は正念場を迎える。
〇インド亜大陸
先週の米インド首脳会談は両首脳にとって実に美味しい「選挙キャンペーン」だった。CNNで見る限り、米国はインドとの連携アピールを優先し、貿易、関税、5Gなとの懸案は事実上先送りとなったが、トランプ氏にとってはこれで十分なのだろう。
今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きは来週のキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。
(この記事は3月2日に書かれたものです)
トップ写真)マスクをしている女性(イメージ)
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この記事を書いた人
宮家邦彦立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表
1978年東大法卒、外務省入省。カイロ、バグダッド、ワシントン、北京にて大使館勤務。本省では、外務大臣秘書官、中東第二課長、中東第一課長、日米安保条約課長、中東局参事官などを歴任。
2005年退職。株式会社エー、オー、アイ代表取締役社長に就任。同時にAOI外交政策研究所(現・株式会社外交政策研究所)を設立。
2006年立命館大学客員教授。
2006-2007年安倍内閣「公邸連絡調整官」として首相夫人を補佐。
2009年4月よりキヤノングローバル戦略研究所研究主幹(外交安保)
言語:英語、中国語、アラビア語。
特技:サックス、ベースギター。
趣味:バンド活動。
各種メディアで評論活動。