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.国際  投稿日:2020/4/27

産油国、原油安とコロナ直撃


宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)

「宮家邦彦の安保カレンダー【速報版】2020#18」

2020年4月27日-5月3日

【まとめ】

・米国では州によって部分的ながら経済活動が再開。

・産油国が原油余剰とウイルスのダブルパンチで困難に直面している。

イラク、国家収入の9割は原油、公務員給与などに深刻な問題。

 

皆さま、今日は御在宅ですか?「緊急事態宣言」から早くも3週間、先々週末の湘南海岸には人が押し寄せ、海岸通りも車で渋滞していたが、先週末は「漸く」閑散とするようになった。これだけ民度の高い国民でも、一億人に「強制力のない外出自粛」を順守してもらうのは難しい。しかも、これでコロナ問題が解決する訳ではないのだ。

米国では州によって部分的ながら経済活動が再開されている。これが凶と出るか吉と出るかは判断の分かれるところ。二週間後に今回活動再開した州で再び感染例が急増したら、一体どうするのだろう。最近のニュースはCOVID-19関連ばかりで面白くない。コロナに関係なく変化する国際情勢をフォローする必要性を痛感する。

旧聞だが4月23日のNYT一面に、世界各国、特に産油国が原油余剰とウイルスのダブルパンチで困難に直面しているとして、イラク、メキシコ、ヴェネズエラ、エクアドル、ナイジェリア、サウジアラビア、ロシア各国の現実を比較する記事が出ていた。国家収入の多くを原油に依存するこれら諸国がウイルス騒ぎで危機に瀕しているのだ。

詳しいコメントは詳細版に譲るが、筆者が2003-4年、戦争直後のバグダッドに赴任したこともあり、ここではイラクの惨状を取り上げる。NYT記事によれば、イラクの国家収入の9割は原油、これで公務員給与や年金システムを維持しているのだから深刻だ。何故この国にサダム・フセインなる独裁者が生まれたか理解できる気がする。

▲写真 サダム・フセイン氏 出典:U.S. military or Department of Defens

先週お知らせしたとおり、先日はワシントンのスティムソンセンターとCIGS(キヤノングローバル戦略研究所)が共催する「The Road Ahead: The Post-COVID-19 International Order」というWebinar(ウェブ上の仮想空間で行うセミナー)にスピーカーの一人として参加した。

このWebinar、使用言語は英語だったので、ちょっと勝手が違ったが、お相手が旧知の友人達だったので、何とかなったのかなぁと自分では勝手に思っている。スティムソンセンターによれば、web上ながら参加者は世界各国から100人を超えたという。それが良いのか悪いのかは不明だが、ご参加頂いた方には心より御礼申し上げたい。

今後はこの種のWebinarを日本語で定期的に開催することも考えないと・・・。こうした外交安保カレンダーをライブWebinarでやることも考えたいが、それにはかなりの準備が必要だ。しかし、従来のような会合やセミナーが事実上開催できない以上、この種のことを真剣に考えないといけない。いずれシンクタンクの淘汰が始まるからだ。

日本ではコロナ関係検査にかかる日数が平均5.5日から7.3日に延びているという。そこで今週のJapanTimesには、日本にとり新型コロナウイルス禍は一種の「外圧」であり、今こそ日本は国内の抵抗勢力を押さえ、医療、年金、教育、金融などサービス関連諸制度をデジタル化すべし、というコラムを書いた。ご一読願いたい。

 

〇 アジア

金正恩が重体だ、死亡したなどという噂が流れているが、考えてみればこれまでもよくあることだ。北朝鮮一流の観測気球かもしれず、過剰反応は慎みたい。

▲写真 トランプ大統領、金委員長、文大統領 出典:Flickr; The White House

 

〇 欧州・ロシア

スペインやイタリアでコロナ関係規制の緩和が始まった。だが、これで本当に大丈夫なのか。米国での実験とも併せて、2週間後の欧米が気になるところだ。

 

〇 中東

OPECプラスの減産合意後、先週遂に先物がマイナス40ドルを付けたそうだ。売り手が40ドル払って購入者に買ってもらうなんて、不思議な時代になったものだ。

 

〇 南北アメリカ

トランプ氏がアザー厚生長官更迭検討なる報道が流れたが、翌日大統領自身が報道を否定。だからといってこれが「事実ではない」訳では必ずしもないので皆困るのだ。

 

〇 インド亜大陸

インド首相が感染抑制策を順守するよう国民に再度強く呼び掛けているが、どうなることやら・・・。インドは人口過密、衛生インフラ不備、国内の人的移動による拡散が懸念されるなど問題は山積だ。欧米の後に地獄が始まるのは途上国とインドかもしれず、恐ろしい。

今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きは今週のキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。

トップ写真:アバダン製油所(イラン)出典:Catherine Legrand, Jacques Legrand: Shah-i Iran. Creative Publishing International (farsi edition), Minnetonka, MN 1999, S. 110. IR/RR


この記事を書いた人
宮家邦彦立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表

1978年東大法卒、外務省入省。カイロ、バグダッド、ワシントン、北京にて大使館勤務。本省では、外務大臣秘書官、中東第二課長、中東第一課長、日米安保条約課長、中東局参事官などを歴任。

2005年退職。株式会社エー、オー、アイ代表取締役社長に就任。同時にAOI外交政策研究所(現・株式会社外交政策研究所)を設立。

2006年立命館大学客員教授。

2006-2007年安倍内閣「公邸連絡調整官」として首相夫人を補佐。

2009年4月よりキヤノングローバル戦略研究所研究主幹(外交安保)

言語:英語、中国語、アラビア語。

特技:サックス、ベースギター。

趣味:バンド活動。

各種メディアで評論活動。

宮家邦彦

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