いつ消える?「レイプ文化」
Ulala(ライター・ブロガー)
【まとめ】
・フランスでは3月8日は「女性の権利の日」
・性的暴力やストリートハラスメントは「レイプ文化」
・レイプで何度も告訴されているポランスキー氏の最優秀監督賞授賞に批判。
3月8日は、国際女性の日だ。1904年3月8日にアメリカ合衆国のニューヨークで、女性労働者が婦人参政権を要求してデモを起こした。その後、1910年にデンマークのコペンハーゲンで行われた国際社会主義者会議で「女性の政治的自由と平等のためにたたかう」記念の日とするよう提唱したことから始まった。
この日に先駆けフランスのマルレーヌ・シアパ女男平等・差別対策担当副大臣は、「いいえ、3月8日は女性の日ではありません!」という寄稿文を出した。フランスでは3月8日は「女性の権利の日」なのだ。
▲写真 マルレーヌ・シアパ女男平等・差別対策担当副大臣 (2019年3月)出典:Photo by Nantilus
シアパ副大臣は、マクロン政権で抜擢された人物であり、フランスの女性から高い人気がある政治家だ。「彼女は“普通”の女性に一番近いのよね。」と語られることもある。それは、元ブロガーでグランドゼコール出身者でもないという経歴や、見た目もこれまでに例のない政治家像であることが親近感を呼ぶのだろう。またその歯に衣着せぬ物言いも定評がある。例えば、性的暴力やストリートハラスメントを「レイプ文化」と呼び、社会全体に「意識を変化させるべき」と働きかける。
「性的暴行者に言い訳を見つけ、性的暴行の責任を被害者に負わせる傾向は「レイプ文化」の一部です。…性的暴行を女性の問題だと考えるのはいい加減辞めなければなりません。性的暴行は男性の問題なのです。…性的暴力のメディアの扱いが女性を苦しめています。…」(引用:ChEEk)
そして、このレイプ文化をあらためようとする活動は、就任した2017年からまったくブレがなく現在もグイグイと突き進んでいる。
写真家で元女優のヴァレンティナ・モニアさんが、18歳だった1975年にスイスのスキーリゾート“グシュタード”にある、映画監督ロマン・ポランスキー氏の別荘で、「極めて暴力的」に襲われ、レイプされたと訴えていたあとには、名指しはしていないが、かなり明白なメッセージを述べている。
「私の立場は確固たるものです。性差別および性的暴力の加害者に対して寛容さはありません!外国国籍の襲った犯人は国外に追放されるでしょう。性的暴行犯が問題なく国内にとどまることができるなんて、常識的に言えますか?」(シアパ氏のtwitterより)
▲写真 ロマン・ポランスキー氏 出典:Photo by Georges Biard
ポランスキー氏は、俳優ジャック・ニコルソンさんの米ロサンゼルスの自宅で当時13歳の少女をレイプしたことを認めアメリカで1977年に有罪判決を受けた後、保釈中に国外逃亡しフランスへ渡った。
保釈中に逃亡と言えば、レバノンに逃亡した日産自動車前会長、カルロス・ゴーン被告が記憶に新しいが、電子的に登録され、確認される現在においても逃亡が可能であったのだから、40年前はもっと容易かったことだろう。そしてこの時代は、未成年であるにもかかわらず有名な男性の犠牲になることを問題視する意識も低かった。それは2002年になっても変わることはなく続いていった。
2002年にポランスキー氏は、『戦場のピアニスト』でアカデミー監督賞を受賞した。このアカデミー授賞式にポランスキー氏は現れなかったが、会場では不在のポランスキーに拍手喝采が起こり、このとき負けたマーティン・スコセッシ監督も、当のレイプ事件の現場となった邸宅の持ち主だったジャック・ニコルソンも、プレゼンターのハリソン・フォードも、女優のメリル・ストリープも、立ち上がって拍手を送ったのだ。タランティーノもこの受賞についての取材で、「クールだと思うよ」と祝福さえした。
確かに、ポランスキー氏は、圧倒的な傑作を生み出した才能ある映画監督であるのは間違いない。ドイツのユダヤ人虐殺を免れた一人であり、そして妻が惨殺されるという凶悪な犯罪の被害者でもある。そして、これらの悲劇は彼の創造の源となり、さらに彼の才能の幅を広げている。
しかしながら、ポランスキー氏は、国際刑事警察機構(インターポール)が国際指名手配されていた明白な犯罪者なのである。しかも複数の未成年者にレイプを行ったという証言が次々とあがってきており、再犯した可能性もあるのだ。
ポランスキー氏の新作『J’accuse(英題An officer and a spy)』が昨年11月13日にフランスで封切りになったときには、フェミニスト団体の抗議行動で上映を中止する映画館が出て、物議を呼んだ。今年に入りフランス映画界最大の賞セザール賞にノミネートされたときには、シアパ副大臣も「ボイコットを呼びかけたり、映画自体を検閲することはないが、レイプで何度も告訴されている男が作った映画に会場全体が立ち上がって拍手することは、性暴力や性差別と闘う女性たちに誤ったメッセージを送る。」と言っている。そして同時に「司法が何か声を上げるべきだ。」と指摘しているのだ。
また、授賞式の数時間前にもフランスのフランク・リステール文化大臣が、ポランスキーの授賞に反対する考えを表明し、「ポランスキーが最優秀監督賞を授賞するのは象徴として良くない」と誤ったメッセージを伝えることに対して警告した。
そして2月28日、ポランスキー氏は監督賞を受賞した。セザール賞の授賞式の外ではフェミニスト団体が抗議活動を行い、会場内では女優のアデル・エネルさんが「恥だ」と叫んで退席し、女性映画監督のセリーヌ・シアマさんら数人も彼女に続いた。そしてエネルさんはロビーでは「ペドフィル万歳!ブラボー、ペドフィル!(小児性愛者万歳)」と叫びながら会場を去ったのだ。
▲写真 女優アデル・エネル氏 出典: Photo by Georges Biard
時代は、#MeToo運動をきっかけに、確実に動いている。「私生活と公生活は関係ない」という考え方が主流だったフランスですら、作品の鑑賞が性犯罪の許容につながるのでがないか?という議論を巻き起こし、犯罪を犯した人間を称賛するべきなのだろうか?という意識が大きく表面化している。起訴されて罪を犯したことを認めたのにまだ罪も償っていない人間が、釈放中に国外に逃亡し、何もなかったように生活しているどころか、賞を受けあがめるられる場面が放送されることは、同様な被害にあった被害者たちをさらに傷つける。「もう、レイプ文化に我慢ができない。犯罪者を称賛することで発せられるメッセージに我慢ができない。」と、昔と違い権力者が弱者を抑えておける時代でもなくなった現在は、そんな声であふれているのだ。
3月8日は「女性の日」だ。フランスでは、「女性の権利の日」である。この20年でフランスの女性の権利は大きく前進した。それでもまだまだ十分ではない。権利を向上させる活動はまだまだ行われていかなくてはならない。
そしてそんな活動を、自身が先頭になり行っているシアパ副大臣はこう呼びかける。
「この20年でフランスの女性の権利は大きく前進しました。活動を行い続けることによってさらに20年後には、この「女性の権利の日」が、他の日と変わりない日になることを切望しましょう。女性の権利は一年中守られ、男女ともに、自分が導きたい職業的および個人的な生活を送るれるようになることを。」
参考)
Non, le 8 mars n’est pas la Journée de la Femme!
Après les César, Schiappa demande au milieu du cinéma de “croire” et “soutenir” les victimes
トップ写真:女性の権利省の予算の削減に反対して、パリの経済財務省の前に集まっているフェミニスト(2017年)出典:Photo by Jeanne Menjoulet
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この記事を書いた人
Ulalaライター・ブロガー
日本では大手メーカーでエンジニアとして勤務後、フランスに渡り、パリでWEB関係でプログラマー、システム管理者として勤務。現在は二人の子育ての傍ら、ブログの運営、著述家として活動中。ほとんど日本人がいない町で、フランス人社会にどっぷり入って生活している体験をふまえたフランスの生活、子育て、教育に関することを中心に書いてます。