憲法で逃げる枝野立民代表と山尾造反
島田洋一(福井県立大学教授)
「島田洋一の国際政治力」
【まとめ】
・山尾志桜里衆院議員が枝野代表を「愚民思想」と発言。
・憲法改正を発議するのは国会であって時の政権ではない。
・枝野氏にはかつて明文改憲を進め、批判された過去がある。
立憲民主党を離党した山尾志桜里衆院議員が、時事通信のインタビューに答え重要な発言をした(3月29日配信記事)。
山尾氏自身同日のツイッターで、「【インタビュー掲載】率直にお話ししたら、文字になって率直感がアップしています!」と記事の真実性に太鼓判を押している。
最も注目すべきは次の箇所である。
(質問)立憲の改憲論議に対する姿勢をどう評価するか。
(山尾)私が憲法の中身の議論をすべきだと言った時、枝野幸男代表が不快感を表明した。それは立憲主義に反している。国会議員は国民に(憲法について考える)素材を提示する責任がある。安倍政権の土俵で憲法を論じるな、というのは愚民思想だ。
「愚民思想」とは適格な表現である。国民の多数は誰の土俵かなど関係なく、議論の優劣、真贋を見分けるだけの判断力を備えている。
そして、そもそも憲法改正を発議するのは国会であって時の政権ではない。基本を確認しておけば、憲法改正案は国会における次のような手続きを経て国民に提示される(以下、総務省HPより)。
▲写真 枝野代表(奥)出典:Flickr; World Trade Organization
《国会議員(衆議院100人以上、参議院50人以上)の賛成により憲法改正案の原案が発議され、衆参各議院においてそれぞれ憲法審査会で審査されたのちに、本会議に付されます。
両院それぞれの本会議にて 3分の2以上の賛成で可決した場合、国会が憲法改正の発議を行い、国民に提案したものとされます。なお、憲法の改正箇所が複数ある場合は、内容において関連する事項ごとに区分して発議されます》。
以上のどこにも内閣の文字は出てこない。もちろん安倍首相は与党自民党の総裁を兼ねるが、憲法改正案の発議は国会の専権事項であって内閣は関与できない。
誰が原案を作ろうが、まず衆議院議員100人以上、参議院議員50人以上の賛同を得なければならず、その後、衆参両院の憲法審査会で仔細にわたる審議が行われる。国民注視のその「土俵」上で大いに論陣を張ればよいのである。
なぜ立憲民主党の枝野幸男代表はそれを恐れるのか。答えは明らかで、党内分裂を恐れるからである。さらには「野党共闘」の障害になると危惧するからである。要するに目先の政局しか念頭にない。
枝野氏がかつて、「自衛権に基づく実力行使のための組織」を認める規定を憲法に追加すべきと主張していたことはよく知られている(文芸春秋、2013年10月号)。
この時共産党は、「この時期に改憲案を発表することは、内容とともに安倍晋三首相の狙う9条改定を後押しする意味しか持ちません」「明文改憲を進めることは、議論の軸を右に持っていくだけです」と枝野氏の姿勢を批判した(しんぶん赤旗、2013年9月10日)。同様の意見は立憲民主党内にも根強い。
枝野氏には、党内の憲法論議をリードするといった信念も勇気もないようだ。山尾氏はその逃げ腰を正面切って批判した。改正の中身について氏がどれだけの見識を有するかは疑問だが、少なくとも入り口における姿勢は立派である。「愚民思想」とまで言われても、まだ枝野氏は逃げ続けるのだろうか。
トップ写真:山尾志桜里衆院議員 出典:山尾志桜里衆院議員Facebook
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この記事を書いた人
島田洋一福井県立大学教授
福井県立大学教授、国家基本問題研究所(櫻井よしこ理事長)評議員・企画委員、拉致被害者を救う会全国協議会副会長。1957年大阪府生まれ。京都大学大学院法学研究科政治学専攻博士課程修了。著書に『アメリカ・北朝鮮抗争史』など多数。月刊正論に「アメリカの深層」、月刊WILLに「天下の大道」連載中。産経新聞「正論」執筆メンバー。