山本太郎都知事はあるか? 東京都長期ビジョンを読み解く!その83
西村健(NPO法人日本公共利益研究所代表)
「西村健の地方自治ウォッチング」
【まとめ】
・東京都知事選で立憲民主党が山本太郎氏擁立検討の報道。
・高い対話能力、群衆に入る政治姿勢は評価。一部政策は疑問。
・山本氏出馬なら面白い。自民が独自候補擁立なら氏の当選も。
立憲民主党が山本太郎さんを東京都知事選の「野党統一候補として擁立すべく検討を始めた」というニュースが流れた。山本さん自身も「選択肢としては排除しない」と言っているそうだし、過去には「れいわ新選組として、絡んでいきたい」との発言もあったそう。
さてどうなるか。
この連載では前回、東京都知事選挙を占ったが、小池再選という結論。しかし、山本太郎さんが出馬すると大きく構図は変わる。その可能性を含めて、今回は山本太郎さんについて書きたいと思う。
■ 山本太郎さんの政治活動と政治的スタンス
山本さんの経歴を振り返ってみよう。
1974年兵庫県生まれ。元俳優。日本テレビの「天才・たけしの元気が出るテレビ!!」で一躍注目を浴び、「代打教師 秋葉、真剣です!」で映画デビュー。その後も「ふたりっ子」「バトル・ロワイアル」「難波金融伝 ミナミの帝王」「新選組!」などで熱演。東日本大震災を受けて、反原発運動に参加。メディアから干された状態になり、政治活動家に。2012年の衆院選で落選、2013年の参院選で当選した。反原発やその発言で注目を浴びる。「れいわ新選組」を立ち上げる。現在は党の代表。
参議院議員の任期を終えた後は、全国でのキャラバンを行っている。彼の強みは、コミュニケーション能力の高さである。
第一に、凄いのはその対話能力である。双方向のコミュニケーションがしっかりできている。言葉の使い方、動作・振る舞いがうまいなどの高いプレゼンテーション能力は彼の経歴から言って当然のことではあるが、注目すべきなのは対話能力を支えるその姿勢である。相手の聞きたいことに対して、しっかり答える。わからないことは、わからないと言う。反対意見にもじっくり耳を傾ける。多くの政治家ができていない(できるのだが、自分にとって大事な人相手にしかやらないことが多い)、こうした基本的なことが山本さんはできている。特にネガティブな意見にさらされても、丁寧に答える。彼の動画を見ればわかるが、煽る人、話を遮る人などのめんどくさい有権者相手にも丁寧に対応しているさまがわかる。相手の意見には、意見や立場の違いがあっても尊重したうえで、反論している。
第二に、有権者・主権者に懸命に、情熱的に語りかけるところ。相手の苦しい状況や困りごと、悩みに耳を傾け、その悩みの解決策(のようなもの)の必要性を訴える。そのまなざしはいつも真剣である。
相手の話を聞く態度、巧みな話術、プレゼン能力、主張、ベースにある有権者・主権者への敬意・・・。
こうした日本の伝統的な政治家にはあるまじき態度が、人々の熱狂を呼び込むのは当然のことである。
▲写真)山本氏は参院選落選後も全国で遊説をしている。(2019年10月26日 福岡・博多駅前) 出典) Public domain
■ 山本さんの政策は?
山本さんが訴えてきた、具体的な主な政策は以下の通り。
・消費税廃止
・奨学金チャラ、安い家賃で住める公的住宅を拡充
・最低賃金1500円に(中小零細企業に影響がない様に、不足分は国が補填)
・保育、介護、障害者介助、事故原発作業員など公務員化
・規制緩和・規制改革に反対
・ベーシックインカム
・指定管理制度や規制改革に反対
【参考】れいわ新選組HP
雇用重視、再配分、国民の安心を担保する政策である。こうした政策が公約や都政に反映されることになるだろう。東京都では、美濃部都政など過去にはリベラルな政策で、日本の政策を変えるまで先進的な役割を担ったこともあった。その再来を期待できるかもしれない。
ただ、個人的には、疑問は2つ。第一に、MMT理論をもとにした経済政策を信じていること。彼の政策アドバイザーを務める松尾匡氏(立命館大学経済学部教授)が主張している「通貨発行権のある政府はデフォルトしないから、
第二に、「○○が悪い」的な過激な意見が多いこと。組織が一体となって悪いとか、知的とは言えない。社会は複雑だし、これらは構造的な問題であるのに、物事を単純化しすぎるきらいがある。
■ 本物のリーダーなのかどうか?
山本太郎さんは、政治活動に参入して以来、かなりのバッシングを受けてきた。しかし、地道な活動を通して、誤解や不信、うがった見方を取り除いてきた。まだ「ポピュリズム」「大衆煽動」という批判を受けてしまうこともあるが、その主張はどうであれ、「政治家としてあるべき態度」を行動として示してきたことは確かである。
ここまで民衆に語り掛け、フラットな立場で触れ合う政治家はいただろうか。全国津々浦々にでかけ、群衆の中に入って対話する政治家はいただろうか。
私の知る限り、田中康夫さんくらいしか思い浮かばない。多くの政治家はこうしたことはできないだろう。自分が好きな、居心地のよい支持者以外の相手、彼ら・彼女らにとってストレンジャーと話をするのは大変だし、勇気のいることなのだ。
▲写真)小池百合子都知事(2019年1月12日)。山本氏は小池知事の対抗馬になるか。 出典)小池百合子ツイッター
ちなみに、私は大好きな小池都知事と対話したいと東京都庁によくいくが、この3年、お話させていただく機会すら与えられたことはない。
山本太郎氏が立候補すれば、面白い選挙になる。自民党が独自候補を擁立し、小池氏との三つ巴となれば、山本氏は確実に当選するだろう。
トップ写真:参院選時の山本太郎氏(2019年7月8日) 出典:山本太郎 facebook
2020年1月27日14:35 以下の通り修正いたしました。
【誤】
通貨発行権のある政府はデフォルトしないから、通貨を刷りまくって財政出動すればインフレは来ない
↓
【正】
通貨発行権のある政府はデフォルトしないから、通貨を刷りまくって財政出動すればインフレは来るが、制御できる
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この記事を書いた人
西村健人材育成コンサルタント/未来学者
経営コンサルタント/政策アナリスト/社会起業家
NPO法人日本公共利益研究所(JIPII:ジピー)代表、株式会社ターンアラウンド研究所代表取締役社長。
慶應義塾大学院修了後、アクセンチュア株式会社入社。その後、株式会社日本能率協会コンサルティング(JMAC)にて地方自治体の行財政改革、行政評価や人事評価の導入・運用、業務改善を支援。独立後、企業の組織改革、人的資本、人事評価、SDGs、新規事業企画の支援を進めている。
専門は、公共政策、人事評価やリーダーシップ、SDGs。