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.社会  投稿日:2020/4/21

新型コロナが問う私達の覚悟


安倍宏行(Japan In-depth編集長・ジャーナリスト)

【まとめ】

・3月、「新型インフルエンザ等対策特別措置法」が成立。

・4月7日、政府は7都市に「緊急事態宣言」発出、その後全国に拡大。

・私権の制限がない日本的自粛の実効性をどう上げるか、問われている。

 

新型コロナウイルス感染症の拡大が止まらない。緊急事態宣言は4月16日、全国に拡大した。ゴールデンウィークの外出自粛を安倍首相は訴えている。しかし、強制力を持たない日本の緊急事態宣言はどれほどの効果があるのか。

海外の例を見てみると、外出禁止に罰則があるなど、日本に比べて遙かに厳しく私権が制限されている。一方、3月に施行された「新型インフルエンザ等対策特別措置法」(以下、特措法)は、私権の制限に極めて慎重だ。

私権の制限に関するものとしては、特措法第四十九条がある。臨時の医療施設を開設するため、土地、家屋または物資を使用する必要があるとき、土地の所有者の同意を得ないで使用することが出来る、としている。

そのほか、医薬品やマスクなどの物資の売り渡し要請やその保管・収容(特措法第五十五条)や、特定物資を隠匿し、損壊し、廃棄し、又は搬出した者に対する罰則(特措法七十六条)などがあるが、緊急事態宣言と言う割には、外出制限などに罰則はない。

緊急事態宣言下でも、テレワークの環境が整っていない、責任ある立場なので休めない、等の理由で出社するビジネスマンがまだかなりいる。公園や商店街の人手は場所によって平時より多い、等との報道が相次いでいる。

先週末の日曜日、天気が良かったこともあり、近所の小さな公園に行ってみると、バスケットボールやサッカーをやっている子供達が予想以上大勢いた。指導者らしき大人はマスクをしているが、子供らはしていなかった。

▲写真 サッカーに興じる子供たち ©Japan In-depth編集部

アメリカニューヨークからのリポートを見てもらいたい。とっくに公園は閉鎖され、濃厚接触の可能性が高いバスケットボールやサッカーは禁止されているのだ。

▲写真 誰もいなくなったバスケットボールコート。「グループ競技禁止」の英語と各国語の張り紙(ニューヨーク)©柏原雅弘

東京世田谷区の駒沢オリンピック公園では、人と人との間隔を開けずにジョギングする人が多いのに驚いた。ジョガーのマスク装着率は1割程度だった。確かにマスクをして走るのは息苦しかろうが、走っている人の息から吐き出されるウイルスは周囲の空気中に漂い、数メートル以上離れた人にも到達するとの実験結果もあるという。自分だけでなく、周りの人にも感染リスクがあるということだ。

こうした危機意識のなさはどこからくるのだろう。欧米の医療崩壊や、まるで戦時下のような感染爆発の実態が日がな一日テレビやネットから流れてくるのに、だ。

「自粛疲れ」などという言葉も一人歩きし始めた。まだ自粛が始まってから1ヶ月も経っていないのにだ。

確かに日本の感染者数・死者数は欧米諸国に比べて少ない。今のところ。しかし、着実にそれらの数値は増加している。しかも急速に。新型コロナウイルスは人類に平等に災厄をもたらす。日本だけが特別なわけはない。

他国に比べて数値が少ないのは医療従事者が必死に頑張っているからにすぎない。彼だとて生身の人間だ。感染者の治療に当たれば自分も感染するリスクが高まる。事実多くの医療施設で感染が拡大している。「医療崩壊はもう始まっている!」そんな悲鳴に近い医療従事者の声、いや、悲鳴そのものがネット上にはあふれている。しかし、多くの国民には届いていないかのようだ。

政府は私権を制限せず、国民の自主性に期待する道を選んだ。果たしてそれは正しかったのだろうか。5月6日に宣言が終息すると楽観視している人がいたら考えてもらいたい。多くの人の身勝手な行動で感染者は着実に増えるのだ。今の私たちはそういう状態にいる。

自由を手放したくない。政府に強制されたくない。誰しもそう思うだろう。しかし、未知のウイルスという目に見えない敵に対峙している今、我々は無自覚に過ぎる。この敵と戦わなくてはいけないのは、私たちすべての国民だ。

頭の上をどこぞの無法者国家が発射したミサイルが飛んでいっても、なんとも思わない。そんな平和ボケがこの期に及んでまだ続いている。人はそれを「正常性バイアス」と呼ぶのかもしれない。

これは、未知との敵との戦争だ。自由を謳歌しつつ、敵を倒せると考えているのなら、大間違いだ。その代償は高くつく。

このウイルスは弱い者からじわじわと力を奪っていく。見えないところで心を蝕み、虐待や搾取が進行している。症状が高熱と肺炎だけではないところが、恐ろしい。

経済が停滞し、不況が襲いかかってくる。仕事を失う人が増加し、死を選ぶ人も増えるだろう。

これは眼を背ける事は出来ない事実だ。自粛の意味を問い直す時が、来ている。

 

新型インフルエンザ等対策特別措置法

施行日: 令和二年三月十四日

第四十九条 特定都道府県知事は、当該特定都道府県の区域に係る新型インフルエンザ等緊急事態措置の実施に当たり、臨時の医療施設を開設するため、土地、家屋又は物資(以下この条及び第七十二条第一項において「土地等」という。)を使用する必要があると認めるときは、当該土地等の所有者及び占有者の同意を得て、当該土地等を使用することができる。

2 前項の場合において土地等の所有者若しくは占有者が正当な理由がないのに同意をしないとき、又は土地等の所有者若しくは占有者の所在が不明であるため同項の同意を求めることができないときは、特定都道府県知事は、臨時の医療施設を開設するため特に必要があると認めるときに限り、同項の規定にかかわらず、同意を得ないで、当該土地等を使用することができる。

 

第五十五条 特定都道府県知事は、新型インフルエンザ等緊急事態措置を実施するため必要があると認めるときは、新型インフルエンザ等緊急事態措置の実施に必要な物資(医薬品、食品その他の政令で定める物資に限る。)であって生産、集荷、販売、配給、保管又は輸送を業とする者が取り扱うもの(以下「特定物資」という。)について、その所有者に対し、当該特定物資の売渡しを要請することができる。

2 特定物資の所有者が正当な理由がないのに前項の規定による要請に応じないときは、特定都道府県知事は、新型インフルエンザ等緊急事態措置を実施するため特に必要があると認めるときに限り、当該特定物資を収用することができる。

3 特定都道府県知事は、新型インフルエンザ等緊急事態措置を実施するに当たり、特定物資を確保するため緊急の必要があると認めるときは、当該特定物資の生産、集荷、販売、配給、保管又は輸送を業とする者に対し、その取り扱う特定物資の保管を命ずることができる。

4 指定行政機関の長又は指定地方行政機関の長は、特定都道府県知事の行う新型インフルエンザ等緊急事態措置を支援するため緊急の必要があると認めるとき、又は特定都道府県知事から要請があったときは、自ら前三項の規定による措置を行うことができる。

(埋葬及び火葬の特例等)

 

第七十六条 第五十五条第三項の規定による特定都道府県知事の命令又は同条第四項の規定による指定行政機関の長若しくは指定地方行政機関の長の命令に従わず、特定物資を隠匿し、損壊し、廃棄し、又は搬出した者は、六月以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する。

トップ写真:都内の公園でくつろぐ都民 ©Japan In-depth編集部


この記事を書いた人
安倍宏行ジャーナリスト/元・フジテレビ報道局 解説委員

1955年東京生まれ。ジャーナリスト。慶応義塾大学経済学部、国際大学大学院卒。

1979年日産自動車入社。海外輸出・事業計画等。

1992年フジテレビ入社。総理官邸等政治経済キャップ、NY支局長、経済部長、ニュースジャパンキャスター、解説委員、BSフジプライムニュース解説キャスター。

2013年ウェブメディア“Japan in-depth”創刊。危機管理コンサルタント、ブランディングコンサルタント。

安倍宏行

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