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.国際  投稿日:2020/4/2

NY、9.11に匹敵する惨状に


柏原雅弘(ニューヨーク在住フリービデオグラファー)

【まとめ】

NY市、死亡者数1100人突破。

・市内各地に病院が臨時設置され、2週間前とは変わり果てた姿に。

・自制心を持ち他人と距離をとることの徹底が肝要。

新型コロナウイルスの感染者、死亡者数はさらに増え続け、ニューヨーク市内だけで死者の数はついに1100人を突破した。日本で客船の集団感染騒ぎが発生したころ、ニューヨークではまだ皆「対岸の火事」程度の意識しかなかった。

結果論なので、対策を講じなかったことをいまさら嘆いても仕方ないとは思うが、毎日1000人単位で増え続ける感染者はニューヨーク市内だけで現在およそ4万4000人。ニューヨーク市の人口は1880万人であるから、ニューヨーカーの430人に一人が感染したことになる。

東京都の人口は1395万人で23区だけでは965万人。ニューヨーク市の数字を単純に23区に当てはめてみると、区民の220人に一人が感染した計算になる。山手線の通勤満員電車の人数が1車両300人程度らしいので、1車両に1人以上の感染者が「必ず」乗り込んでいることになる。実感としてこの数字を日本の人にはこれがこれから自分たちの身の上に「起き得ること」として、考えられないだろうか。

初動は後手にまわったが、その後のアメリカの対応は迅速だ。

先日、米海軍の病院船「コンフォート(ベッド数750床)」がニューヨークのハドソン川に到着し、国の支援で同じくハドソン川のほとりにある巨大見本市会場「ジャービッツ・コンベンションセンター」に病院(2910床)が整備され、ともに新型コロナウイルスに関係ない一般患者用病院として開設された。この2つの施設は既存の市内の病院が新型コロナ対策に集中出来るよう、新たに設置されたものだ。

写真)病院船コンフォート

出典)U.S.IndoーPacifc Command

セントラルパークにも「病院」が作られた。新型コロナ感染者用のベッドを置ける適当な市内の施設がきちんと確保できず、緊急援助支援団体の協力で68床の野戦病院型のテントが設営された。

写真)セントラルパークの「野戦病院」

筆者撮影

個人的に驚いたのが、私も何回も取材で訪れたことのある、世界最大のテニス会場である「ビリージーン・ナショナルテニスセンター」も350床のベッドを備える病院として転用されることになったことだ。全米オープンに先駆けて6月29日から開催される予定だった全英オープンが今日新型コロナの盛況でキャンセルされたとのことだが、このまますぐにでも収束に向かう傾向が見られなければ、全米オープンも今年無事に開催(8月31日開催予定)できるか危うい感じがする。

写真)ビリージーンキングナショナルテニスセンター

出典)flickr : Ajay Suresh

改めてニューヨーク州知事、市長が声を大にして言うのは「在宅の徹底、家族・同居者以外の他人と物理的距離置くことの徹底」であり、外出禁止10日目を超えようとしている今、知事はそれぞれの個人の自制心(individual discipline)を持って団結することが肝要である、と語っている。

テレビでもネットでも盛んに言われているのが他人と6フィート(180センチ)の距離を置く、ということの徹底である。

例えば私が地元で毎日見ているニュース局は徹底していて、通常キャスターが並んで出演するような報道番組は、キャスターすべてが局内の別々の違うスタジオから出演。生放送中、顔を合わせない。現場で取材する他の記者、キャスターは局に戻らず、基本、自宅から顔出しのレポートである。おそらく裏方のスタッフも同じであろう。今後、厳しい展開が予想される今、この先、市民の重要な情報源であるテレビ局が放送を出せないような事態にならぬよう、先を見越した対応であろうことに感心する。

写真)各キャスターが局内の別々のスタジオから出演している様子

筆者撮影

写真)ケーブル局・NY1ニュース。新型コロナがニューヨークで出始める前の通常の放送の状態(局のオフィシャルコマーシャルからの画像キャプチャ)。

筆者撮影

こういう徹底ぶりは、メディア内にも感染による死者も出て、おのずと危機感が高まっていることも大きいと思う。仕事を失ってしまった私は、当初、仕事がある彼ら同業人を羨ましく見ていたが、今働いている人は皆、命がけになってしまった。

病院は言うに及ばず、警官、消防士、公共交通機関で働く人、いろいろなエッセンシャル・ビジネス(必要不可欠な仕事)で感染者・死者が多く出始めている。今必要不可欠、と言われる仕事現場で働くどれほどの人が、現場から逃げ出したいと思っていることだろう。現にニューヨークのアマゾンで働く従業員は、会社が従業員の新型コロナ関連における安全への配慮をしていない、とストを決行したが解雇され、アマゾンが州当局から激しく非難される展開となっている。

買い物にでて、近所を歩いてみた。

市長が警告したにも関わらず、先日までバスケットボールを楽しむ若者が多くいた公園のバスケットボールコートに行ってみると、各国語で「グループでコートの使用しないこと」と市当局の張り紙があり、人影はなかった。

写真)誰もいなくなったバスケットボールコート。「グループ競技禁止」の英語と各国語の張り紙

筆者撮影

そしてその近くの病院を通りかかってみると、先日は病院の救急車の出入り口の駐車場に漠然と放置されていたかに見えた大きな保冷車のモーターがうなりをあげていた。トレーラーの搬入口には大きな白い布がかけられ、その下にはシーツも敷かれていない無人の黒いストレッチャーが無造作に置かれていた。

写真)病院の裏口に放置されていた保冷トレーラー

(3月27日 筆者撮影)

写真)保冷車のモーターが激しく動いていた。白い布がかけられ、ストレッチャーが置かれていた

(3月31日 筆者撮影)

私の住むニューヨークで今、起きていることは、映画の上の話でも、近未来をテーマにしたSF映画の話でもない。

2001年同時多発テロが起きた時、ニューヨークに住むものはそれが映画でもなく、現実のものであると理解するのにひどく苦労した。現実が自分たちの想像を上回ってしまったからである。そして現実に起きてしまったあの惨劇さえ、今回の出来事を経験してしまうと、まだ一片の想像くらいは出来たのかもしれない、と思ってしまう。

先日の日本のニュースでとにかく衝撃的だったのが新型コロナに罹患して死去した志村けん氏の訃報だ。私も含めたドリフ世代は言うに及ばず、こちらにいても日本でのみなさんの衝撃は想像に難くない。

新型コロナがまだ、自分とはあまり関係ない、と思える日本の人がいたら、数週間後に見たこともない大変な展開が待っているかも知れないとお伝えしたい。そして、数週間前の私もまた、今の日本の皆さんと同じような意識でいた、ということもあえてお知らせしたいと思う。

 

トップ写真)手袋にマスク姿のニューヨーク市警の警官。

ニューヨーク市警では1400人もの警官が新型コロナの検査で陽性、5人がすでに亡くなっており、現場の警官のうち、15%が欠勤状態であるという(筆者妻撮影)

 


この記事を書いた人
柏原雅弘ニューヨーク在住フリービデオグラファー

1962年東京生まれ。業務映画制作会社撮影部勤務の後、1989年渡米。日系プロダクション勤務後、1997年に独立。以降フリー。在京各局のバラエティー番組の撮影からスポーツの中継、ニュース、ドキュメンタリーの撮影をこなす。小学生の男児と2歳の女児がいる。

柏原雅弘

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