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.政治  投稿日:2020/5/16

19式自走榴弾砲を安価に調達する方法


清谷信一(軍事ジャーナリスト)

【まとめ】

99式自走榴弾砲を分解、19式資材に再利用すれば19式を安価に調達可能。

・不要となった99式の車体は89式装甲戦闘車の後継の歩兵戦闘車の車体として利用。

・砲塔は外国製の無人砲塔を採用すれば安価で性能もよくなる。

 

陸上自衛隊が新たに採用した19式自走榴弾砲の調達を安く上げる方法がある。それは装軌式の99式自走砲を用途廃止にして分解し、そのコンポーネント流用することだ。

まずは19式の問題点を見てみよう。19式は安くするため、また空自のC-2輸送機に搭載するために調達単価と戦闘重量を低減するために安普請となって、自走榴弾砲としては極めて中途半端なものになった。

自動装填装置が装備されていないために、装填手を含めて乗員は5名となっている。対して同じ車体を利用したBAEシステムズのアーチャーは自動装填装置を装備しており、乗員は3名と少ない。近年の8輪の自走砲は同様に自動装填装置を持つものが主流だ。

自動装填装置を導入して重量の増加は実は問題がない。有事の際はC-2で空輸は不可能だからだ。C-2は当初の計画で調達が30機だったが、25機に減らされ、その後は22機まで減らされている。有事にはより優先順位の高い弾薬、人員、食糧、医薬品、トラックなどの輸送で手一杯で、19式や16式機動戦闘車などの重装備を輸送できる余裕はない。フィクションに基づいて仕様や運用を決めている。

自動装填装置を導入すれば当然その分重たく、調達単価も高くなるが、迅速に射撃や陣地変換が可能であり、装填手、二人分の人件費も浮く。これを30年間程度使用すると恐らく自走装填装置を導入した方が安いだろう。また自動装填装置を搭載しないのであれば6輪でもよかったはずだ。恐らくは6輪だと射撃時の反動を制御できなかったのだろう。

またコスト削減が目的化しているためか、いびつな設計となっている。3人用の非装甲のキャブを採用し。装填手席は車体中央の露天にキャンバス張りで、座席のクッションも、冷暖房もない。このようなレイアウトを行っている自走榴弾砲は存在しない。これでは装填手の疲労は大きくなり、また敵の砲撃での生存性は極めて低い。

防衛省は明言していないが、NBCシステムも搭載されていないようだ。トライアル時には装備されていた機銃も装備されていない。その割に調達単価は6.7億円であり、99式自走榴弾砲の9.7億万円と比べて大して価格が安いとはいえない

最大のコンセプトは安価で国産榴弾砲を調達することあり、実戦で使用することは想定していないとしか思えない。

榴弾砲だから防弾性能も機銃もいらないのだと19式を擁護する主張もあるが、それでは99式など、これまでの国産や外国製自走榴弾砲は装甲、機銃を有しているのか。こちらの弾が届くということは相手の弾も届くということだ。そのために対砲レーダーは存在している。

しかも陸自は火砲削減の一環でより長射程のMLRS(多連装ロケットシステム)を廃止するが、仮想敵の中国は155ミリ榴弾砲より長射程の地対地ミサイル、ロケットを多数揃えている。また中国は自衛隊よりも遥かにドローンの導入と運用が進んでいる。攻撃ヘリも多数揃っている。射程が同じ榴弾砲を有していても、情報化の遅れた自衛隊の特科は先に発見、攻撃されて殲滅される可能性が高い。自分が先に撃たれないというのは願望に過ぎない。

敵が大規模な部隊を揚陸してくるということは自衛隊や米軍の制海権、制空権の維持も怪しいということだ。制空権がなければ19式は容易に探知され、地対地ロケット、ミサイル、武装ドローン、攻撃ヘリ、特殊部隊などから攻撃されるだろう。つまり、19式は戦場では一方的に虐殺されて全滅する可能性が極めて高い

▲写真 99式自走榴弾砲が活躍するような大規模着上陸作戦を防衛大綱では想定していない ©清谷信一

陸自はイージス・アショア、オスプレイなど高額で不要な装備を官邸から押し付けられており、予算が非常に乏しい。しかも今後は70~90年代に導入された装甲車輌の更新や、UH-2ヘリコプターの調達も待っている。怪しげな新型榴弾砲を導入する余裕は本来ない。

だが、どうしても19式の調達を続けたいならば調達単価を劇的に下げ、かつ実用的に改善する方法がある。

それは130両以上ある99式自走榴弾砲をバラして、19式の資材として再利用することだ。基本的に19式も99式も砲は同じものだ。その他多くのコンポーネントも流用できる。そうすれば劇的にコストを削減できる。

防衛大綱では敵が大規模な部隊を本土に上陸させてくる可能性は極め低いとしている。主たる脅威は弾道ミサイル、ゲリラ・コマンドウによる攻撃、島嶼の防衛だ。そうあれば大規模機甲戦闘を想定した99式は過去の遺物だ。しかも装軌式であるために維持・整備費が高い。これを用途廃止する方がメリットは大きい。

99式の榴弾砲を19式に流用し、キャブは5人乗りの装甲型に変更する。NBCシステムも搭載する。あるいは99式の自動装填装置を再利用して採用し、キャブは装甲化した3人乗りとする。武装として12.7ミリ機銃を搭載したRWSを採用する。これらの変更で重量は増えるが、C-2への搭載を諦めればなんの問題もない。このような生存性と性能を向上させてもコストは現在の調達価格よりは相当安くなるだろう。

国内のメーカーができないと言うならばイスラエルかフランスあたりに丸投げしてもいい。どうせ大した秘密などはない。未だに日本が一流の軍事技術があると思っているのは当の自衛隊と蒙昧な軍オタぐらいのものだ。他国が公表している数値を「手の内を知らせないため」と納税者に公開していないのは滑稽であるとすら言える。自衛隊自身が何を重要か分かっていない証左だ。

当然99式は廃止して、自走榴弾砲は19式に一本化する。数は150両もあれば十分だろう。すでに発注した19式もこれにあわせて改修を行う。これに加えて、島嶼防衛用として30門程度超軽量法のM777を調達して合わせて180門程度とする。

次の防衛大綱で書き直せよい。現在の防衛予算規模では300門の火砲の維持は不可能だ。大規模な機甲戦闘を想定していないので、これでも多いぐらいだ。何なら火砲は100門程度まで減らしても問題はないだろう。

これによって火砲の定数も減らせるので特科の維持整備費も大幅に減らせる。装軌式の99式が無くなるから尚更運用コストは下がる。浮いた予算で精密誘導弾やその誘導システム、ドローンを導入すべきだ。まともな索敵手段も誘導砲弾もない「昭和の軍隊」レベルの300門の自走砲より、これらのシステムを導入した方が戦力は圧倒的に高くなる。人口の7割が都市部に密集している我が国では精密誘導砲弾の導入は必要不可欠だ。だが現状では火砲の数を維持するためか、榴弾砲はもとより、迫撃砲にすらどうにゅうされていない。因みに人民解放軍はすでにこれらの精密誘導砲弾を導入している。

また合わせて普通科から特科へと移管された120ミリ迫撃砲の自走化を進めるべきだ。ゲリコマ対処であれば迫撃砲の方がよほど有用だ。

不要となった99式の車体は89式装甲戦闘車の後継の歩兵戦闘車の車体として利用すればいい。89式は調達が始まって30年以上経っているが能力向上も近代化もされておらず、完全に旧式化している。この歩兵戦闘車は130両もあれば数は十分だろう。99式の車体のベースは89式の車体だ。これの全長を延長して転輪も一つ増やしている。このため車内の容積は大きく冗長性もある。それで数が足りなければ89式の車体を延長して、これも再利用すればいい。そうすれば最大200両程度の歩兵戦闘車が製造できる

▲写真 89式装甲戦闘車の後継も決まっていない Ⓒ清谷信一

砲塔は外国製の無人砲塔を採用すれば安価で性能もよくなる。無人砲塔であれば車長や砲手用席とバスケットがなくなり、装甲車のルーフに装着するので車内容積が広く使える。また重量も有人砲塔よりも軽量である。先述のように車体は89式よりも大型であり、より大きな容積がある。しかも155ミリ砲や砲弾を積む必要もないので、ペイロードには余裕がある。このため装甲などの防御を強化したり、RWSなどを装備することもできる。

更に履帯はゴム製にすれば維持費も下がるし、重量も1トンほど軽くなる。防衛装備庁でもゴム製履帯の開発が進められている。こうすれば安価に歩兵戦闘車が調達できる。車体部分はタダだし、新たに歩兵戦闘車をいちから開発したり、輸入するよりは遥かにコストが低いはずだ。しかも国内に相応のカネも落ちる。

あるいは重装甲のAPC(兵員輸送車)型と、下車歩兵を搭乗させない火力支援車にわけて調達することも考えられる。例えば99式の砲塔を利用して、これに50~76ミリ砲などを搭載すればいい。砲塔が大きいために被断面積は大きくなるが、防衛大綱にもあるように、日本本土で大規模な機甲戦闘は想定していないので問題ないだろう。

通常の歩兵戦闘車より大口径の砲を搭載することによってより大きな火力を獲得できるし、火力支援にも使える。主砲は海自用の76ミリ砲を転用すればいい。それならば国産だ。南アフリカの偵察装甲車、ロイカットの主砲は実際に海軍用の76ミリ砲を転用している。

その一部をオト-メララの砲塔システム、ドラゴのように、対空と火力支援用にしていいだろう。そうすれば87式自走対空砲の後継を調達できる。

ドラコは同社の海軍用ベストセラーである62口径76ミリ砲を採用している。通常この手の自走対空砲は30~40ミリクラスの中口径機関砲が使用されるが、76ミリ砲は射程が長く、また弾頭も大きく殺傷半径は約10メートルで破壊力もカーバ範囲も大きい

このためドラコはヘリならば最大8キロ、巡行ミサイルや小型のUAVならば最大6キロで迎撃が可能である。また非直接照準による火力支援は有効射程15キロ、海上の艦艇などの攻撃であれば22キロまで有効である。また直接照準による火力支援であれば有効射程は3キロとなっている。

砲塔上部には探知と追尾用、誘導弾のガイダンスを行うレーダーが装備されており、早期警戒にも使用が可能である。ただ対空戦闘に関しては更に広範囲を探知する外部のレーダーなどから情報を得ることとなっている。直接交戦用として車長用の昼夜兼用のパノラミックサイトが装備されている。車長が目標を確認した後、これを砲手に引きつぎ、同じサイトを見て射撃することも可能である。砲塔はNATOレベル3の防御力を有し、重量は5トンとなっているがレベル4まで防御力をあげることができる

▲写真 ドラコ砲塔システム。車体はチェンタウロのものを使用。 Ⓒ清谷信一

ドラコは安定化装置を有しており、極めて高い精度で毎分80発の発射速度を有している。砲塔内には装弾数12発のリボルバー型弾倉を有し、更に24発が自動装填装置に収納されている。12発の再装填は60秒で完了する。砲の仰俯角は-10~+75度と極めて大きい。

弾種は海軍用の榴弾、半徹甲弾などがあるが、同社が新たに地上用として開発したAPFSDS-T(離脱装弾筒付翼安定徹甲曳光)弾は90ミリのAPSSDS(装弾筒付翼安定徹甲)弾と同程度の威力があるとしている。

また同社は高周波ビームを使用した誘導弾、DART(Driven Ammunition reduced Time of Fright)を開発中で、2011年から生産に入るとしている。DARTは近接信管を有しており、レーダーの誘導で前方のカナードで方向を変更し、後尾のフィンで弾体を安定させる。このDARTの採用と、レーダーシステムの向上で長期的にはC-RAM(ロケット弾及び迫撃砲弾迎撃)機能を付加できるという。

99式の砲塔を流用してより、ドラコのような小口径の砲を搭載すれば、砲塔が大きい分多量の弾薬、弾種が搭載できる。そうすれば対空、対装甲車両、直接、間接支援射撃にも使える。人口密集地が多い我が国では16式機動戦闘車の105ミリ砲よりも使い勝手がいいはずだ。あるいはドラゴをそのまま採用しても良いだろう。その方がコスト的にも性能的に有利だろう。

この案ならば19式の調達単価を下げることが可能となるだけでなく、火砲の削減、そし維持費も大きく低減できる。しかも89式装甲戦闘車、87式対空自走高射機関砲の後継も安価に調達できる。これで浮いた予算や人員を、特科の近代化あるいは海空自の強化や陸自の近代化当てることが可能となる。全体としてみれば陸自の戦力アップになるだろう。

トップ写真:19式自走榴弾砲走行姿勢 出典:防衛装備庁

 

【訂正】2020年5月17日

本記事(初掲載日2020年5月16日)の【まとめ】の中で、「19式自走榴弾砲」とあったのは「99式自走榴弾砲」、「軍事技術があると持っているのは」とあったのは「軍事技術があると思っているのは」の間違いでした。お詫びして訂正いたします。本文では既に訂正してあります。

誤:・19式自走榴弾砲を分解、19式資材に再利用すれば19式を安価に調達可能。

正:・99式自走榴弾砲を分解、19式資材に再利用すれば19式を安価に調達可能。

 

誤:未だに日本が一流の軍事技術があると持っているのは当の自衛隊と蒙昧な軍オタぐらいのものだ。

正:未だに日本が一流の軍事技術があると思っているのは当の自衛隊と蒙昧な軍オタぐらいのものだ。


この記事を書いた人
清谷信一防衛ジャーナリスト

防衛ジャーナリスト、作家。1962年生。東海大学工学部卒。軍事関係の専門誌を中心に、総合誌や経済誌、新聞、テレビなどにも寄稿、出演、コメントを行う。08年まで英防衛専門誌ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー(Jane’s Defence Weekly) 日本特派員。香港を拠点とするカナダの民間軍事研究機関「Kanwa Information Center 」上級顧問。執筆記事はコチラ


・日本ペンクラブ会員

・東京防衛航空宇宙時評 発行人(Tokyo Defence & Aerospace Review)http://www.tokyo-dar.com/

・European Securty Defence 日本特派員


<著作>

●国防の死角(PHP)

●専守防衛 日本を支配する幻想(祥伝社新書)

●防衛破綻「ガラパゴス化」する自衛隊装備(中公新書ラクレ)

●ル・オタク フランスおたく物語(講談社文庫)

●自衛隊、そして日本の非常識(河出書房新社)

●弱者のための喧嘩術(幻冬舎、アウトロー文庫)

●こんな自衛隊に誰がした!―戦えない「軍隊」を徹底解剖(廣済堂)

●不思議の国の自衛隊―誰がための自衛隊なのか!?(KKベストセラーズ)

●Le OTAKU―フランスおたく(KKベストセラーズ)

など、多数。


<共著>

●軍事を知らずして平和を語るな・石破 茂(KKベストセラーズ)

●すぐわかる国防学 ・林 信吾(角川書店)

●アメリカの落日―「戦争と正義」の正体・日下 公人(廣済堂)

●ポスト団塊世代の日本再建計画・林 信吾(中央公論)

●世界の戦闘機・攻撃機カタログ・日本兵器研究会(三修社)

●現代戦車のテクノロジー ・日本兵器研究会 (三修社)

●間違いだらけの自衛隊兵器カタログ・日本兵器研究会(三修社)

●達人のロンドン案内 ・林 信吾、宮原 克美、友成 純一(徳間書店)

●真・大東亜戦争(全17巻)・林信吾(KKベストセラーズ)

●熱砂の旭日旗―パレスチナ挺身作戦(全2巻)・林信吾(経済界)

その他多数。


<監訳>

●ボーイングvsエアバス―旅客機メーカーの栄光と挫折・マシュー・リーン(三修社)

●SASセキュリティ・ハンドブック・アンドルー ケイン、ネイル ハンソン(原書房)

●太平洋大戦争―開戦16年前に書かれた驚異の架空戦記・H.C. バイウォーター(コスミックインターナショナル)


-  ゲーム・シナリオ -

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清谷信一

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