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.国際  投稿日:2020/5/20

ラオス、中国企業が環境汚染


大塚智彦(フリージャーナリスト)

「大塚智彦の東南アジア万華鏡」

【まとめ】

・ラオス北西部の河川流域で住民に皮膚病などの健康被害多発。

・中国人経営のバナナ工場が原因か。住民の訴えに当局は消極的。

・親中派ラオスは、新型コロナでも環境汚染にも中国に忖度か。

 

ラオス北西部にありタイとメコン川を隔てるボーケーオ県の支流河川流域に住む住民の間で最近、皮膚病などの健康被害が急増している。流域のある地点を境にしてそこから下流域の住民に健康被害が出ているものの、その地点から上流に住む人々には同様の皮膚の疾患などの症状はほとんど出ていないという。この健康被害の境界にあたる川沿いの地点には中国人が経営するバナナの加工工場がある。

ラオス国内の中国人経営の工場は以前も周辺に広がる住民地域への深刻な公害問題が発覚して、新規の営業許可が認められない事態となっているが、すでに営業許可を得ている工場は現行の操業許可の期限が切れるまでは操業が許されており、そうした工場での環境汚染、ラオス人住民への健康被害があちこちで深刻化する事態となっている。

米政府系放送局「ラジオ・フリー・アジア(RFA)」が5月15日に伝えたところによると、ボーケーオ県にあるナムファ村で最近、川で水浴びをした子供や村人の間で深刻な皮膚障害が起きているという。川の水を浴びた後全身に発疹ができて次第にかゆみが増し、そのかゆみをひっかくと皮膚がただれ、赤い斑点が全身にできる症状の被害が頻発しているというのだ。

 

皮膚病の原因はバナナ工場の化学汚染水

同村の住民らがRFAに語ったところによると、雨が降ると当該バナナ工場敷地内から化学物質を含んだ汚水が川に流れ込むほか、工場労働者が直接川に汚染水を棄てるところも何度も目撃されているという。

問題の工場は中国人が経営するバナナを輸出用に加工する工場で加工に際して使用する化学物質の廃液をきちんと処理せずに河川に不法投棄している疑いが濃厚となっている。

地元住民によると工場の下流域にあるナムファ村やナムマ村などの地帯では村人の皮膚病被害が相次いで報告されているが、上流域にあたる地域ではそうした被害はこれまで発生していない。

こうしたことから皮膚病の原因がバナナ工場からの垂れ流し化学物質にあるのは間違いないとみられているが、地元ボーケーオ県庁農業森林局担当者は「最近ナムファ村を訪問して村人から聞き取り調査をしたが、発疹やかゆみなど皮膚病の不満は聞かなかった」としたうえで「とはいえそうした被害の情報がある以上は情報収集と解決策を模索したい」と述べるにとどまっているという。

工場経営の中国人への配慮なのか、中国と蜜月関係にあるラオス政府からの指示があるのかは不明だが、ラオス当局は度重なる住民からのバナナ工場の環境破壊、公害に関する訴えに積極的に対応しようという姿勢をみせていないのが現状だ。

▲写真 メコン川で遊ぶ子どもたち(2006年3月 ラオス

出典: flickr; Paul Arps

 

過去には大量の魚や家畜の異常死

ラオスでは以前から中国資本の工場などによる公害問題が指摘されており、2018年11月には首都ビエンチャンに近い川で約300キログラムの大量の魚が死んでいるのが発見されたほか、ビエンチャン近郊のサントン地区のトン川周辺の村でも死んだ魚が大量に見つかる事案が起きた。

この時は有害物質を川に廃棄していた中国資本のバナナ工場が責任を認めて「今後川に大量の魚の幼魚を放流する」としながらも化学物質の垂れ流しにはどう対処するのか具体策は明らかにせず、地元当局も周辺住民に「川の水を浴びるな、飲むな、川の魚を食べるな」と警告するだけだった。参考:20181211日「中国企業有害物質垂れ流し ラオスで環境汚染」

そして行政側は「今後再び環境保護違反があれば工場の操業許可を取り消す」と警告すれども、実際に工場から汚染物質の川への投棄がなくなったことも、さらに当該工場の操業許可が取り消しになったこともその後全く情報がなく、当局によって情報操作が行われている可能性すら指摘されている。

ラオスはカンボジアと並んで東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟10カ国の中では政府が親中国の立場をとっており、中国からの多額の経済支援と中国資本の工場、企業を受け入れてきている。ビエンチャン市内には中国語の看板や表示が非常に多く、中国資本、企業そして中国人の存在感はとても大きい。

▲写真 中国の習近平国家主席(右)とラオスのトンルン・シースリット首相(2020年1月6日 北京)

出典:中国外務省ホームページ

こうした状況を背景にラオス国内での中国資本工場による公害はその被害報告が増える一方で政府や地方自治体、取締当局などは効果的な環境保護策や公害防止策、摘発などをとれていないのが現状だ。

 

新規工場の操業許可は凍結するも

こうしたラオス国内各地で中国資本によるバナナ工場の公害問題がクローズアップされたことからラオス政府は2017年1月に新規のバナナ工場の操業を禁止する措置をとった。しかしそれ以前から操業許可を得ている工場に対しては操業許可の期限が切れるまでの操業は認めているため、公害垂れ流しのバナナ工場が依然としてラオスでは堂々と操業しているのだ。

RFAによると、ナムファ村で皮膚に異常がでた村人は近くの医療施設で治療を受けているが、明らかな症状がないと診察もしてくれず、発疹やかゆみ程度では「かゆみ止め」の薬を処方されるだけという。皮膚がただれるなどの症状が進んだ村人には「さらに強力な薬を与える」だけで皮膚病の根本的な原因への言及や追究もなく「患者の体に起きている症状への対処に終始している」と不満が高まっていると伝えている。

▲写真 新型コロナウイルス感染症への支援のため、ラオスに到着した中国の医療専門チーム(2020年3月29日 ラオス・ビエンチャン)

出典:China International Development Cooperation Agency

 

コロナ感染でも中国に忖度か

東南アジア各国を襲っている新型コロナウイルス感染拡大だが、ラオスは5月18日現在の感染者数が全土で19人に留まり感染による死者に至ってはゼロの状況が続いている。

親中国のカンボジアも感染者数は同日現在で122人だが、死者は同じくゼロが続いている。両国の医療水準や治療機器の整備環境、検査体制などからこの数字には大きな疑問が国際社会からは寄せられている。

新型コロナウイルス感染に関する対処、感染情報でもラオス政府は中国政府に気を遣って忖度している可能性があり、実際の感染状況は深刻なのではないか、との見方があることも事実である。「中国か自国民か」新型コロナウイルス問題でも環境汚染問題でもラオス政府の立ち位置が問われている。

 

▲トップ写真 メコン川(ラオス・ボーケーオ県 2010年3月8日撮影)

出典:flickr; Prince Roy


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