無料会員募集中
.国際  投稿日:2022/12/9

ラオス・中国高速鉄道 問題山積


大塚智彦(フリージャーナリスト)

「大塚智彦の東南アジア万華鏡」

【まとめ】

ラオス・中国間の鉄道による貿易は中国政府の「ゼロコロナ」政策による規制で著しく不均衡になっている。

・同鉄道は中国側が建設費の大半を負担した肝入りのプロジェクト。

・東南アジア諸国は中国の同地域の権益拡大への警戒感を抱きながらも経済援助や投資に頼らざるを得ない。

 

ラオスの首都ビエンチャンから北方の中国国境までを結ぶ同国初の高速鉄道が2021年12月に開通して1年が経過したが、貨物輸送が中国からの一方的になり、期待されたラオス・中国間の鉄道による貿易は著しく不均衡に陥るなどの問題が噴出している。

この高速鉄道は中国の習近平国家主席が主導する一帯一路」構想の一環で大半が中国による投資、技術協力、車両提供で建設されたもので、中国政府寄りとされるラオス政府は鉄道開通を諸手を挙げて歓迎している。 

ところが開通から1年が経過し、貨物輸送で国からは大量に輸出されるもののラオスからの物資はわずかにしか輸出されない事態に陥っていることが米の「ラジオ・フリー・アジア」の報道で明らかになった。

■国境での厳しいコロナ対策が影響

ビエンチャンから中国国境のボーデン駅まで貨物列車でたどり着いたラオスからのゴムキャッサバ、鉱物などが国境の中国側から輸入許可が得られないなどの状況が続いているという。

中国政府による「ゼロコロナ」政策で、コロナ対策が緩いとされるラオスからの輸出や人の出入りに中国入管、税関当局が神経過敏になっていることがこうした事態の背景になっているとの見方が有力だ。

報道によればラオスの運輸当局者は「ラオスからの輸出は国境で中国の厳格なCOVID政策やその他の構造的障壁によって妨げられている」と不満を露わにしている。

これに対し中国側からは貨物列車で機械、自動車部品、電子機器、消費財などが大量に輸出されている。

ラオス側は通常の手続きを続けているため、中国からの輸出品を特に制限することはしていないという。

ラオス産のバナナやスイカなどの生鮮食料品も中国に輸出しているが、高速鉄道の貨物での輸出に関しては「鉄道コンテナを借りる手続きが煩雑、駅での待ち時間が長く商品の品質が落ちる」などから依然としてトラック輸送による輸出を継続しており、高速鉄道の恩恵を受けるところまでは至っていないのが現状という。

■中国肝いりの高速鉄道

中国政府はラオス政府との間で高速鉄道建設で合意して2016年から建設工事が始まった。

ラオスではそれまでタイ東北部のノンカイ駅からタイ国境から約5.2キロにあるラオスのタナレン駅までの3.5キロを運行する鉄道しかなく、高速鉄道は流通や観光促進、人の移動スピード化などラオス政府の大きな期待を担って2021年12月3日に開通し、翌4日から旅客輸送を開始した。

首都ビエンチャンから中国国境のボーデンまで414キロを約3時間半で走るこの高速鉄道はボーデンから国境を越えて中国のモータン駅に接続し、その路線は雲南省昆明まで繋がっている。

中国側は「国境を越えて中国の鉄道網と繋がった初めての海外鉄道である」としてラオスの高速鉄道完成を歓迎している

それには中国側が約60億ドルの建設費の大半を負担し、鉄道運行技術や車両も中国製であり「中国のラオス鉄道」と周辺国からは呼ばれているという。

貨物列車は時速120キロで運行され、旅客車両は時速160キロで1日2便が運航されている。

この1年間に高速鉄道を利用した旅客数は中国側の発表では中国での運行区間が述べ720万人、ラオス国内の区間で130万人となっている。

■切符購入が困難な状況も

ラオス国内での高速鉄道利用は高速鉄道が珍しいこともあり人気が高く、切符入手が困難な状況となっているという。このため切符を大量に買い占めたダフ屋や仲介業者、詐欺師が横行して定価よりかなり高額で売りつける事態も報告された。

このためラオス鉄道当局などは切符販売を1人3枚まで、運行の3日前から発売することを決めたほか、モバイルアプリを介するオンラインでの販売方式の導入も開始している。

■中国の遠大な構想

中国は国内の鉄道網がラオスの首都ビエンチャンにまで通じたことを受けてさらにビエンチャンからタイ国境を越えてタイ国内の鉄道網に連結し、その後タイの首都バンコクを経由してミャンマーの南部ダウェイまでを繋ぐ鉄道網を整備する構想を抱いている。

ダウェイはアンダマン海洋への港湾都市として有名で、この鉄道網が完結すれば中国はアンダマン海経由でインド洋への海洋拠点を確保することも可能となる。

バンコクからはタイ、マレーシアを経由して最終的にシンガポールまで鉄道網はすでに整備されていることから、中国は東南アジアでの鉄道網整備を進め、人と物資の輸送を強化して「一帯一路」により東南アジアで自国の権益拡大の一助としようとしていることは明白だ。

東南アジアの中ではラオスとカンボジア、ミャンマーが最も親中国の立場を鮮明にしている一方でマレーシアやフィリピン、インドネシアなどは中国による経済的野心への警戒感を抱きながらも中国の経済援助や投資に頼らざるを得ないという現状がある。

ラオス運輸当局にある中国への不満がどこまで深刻化して高速鉄道が中国への輸出で均衡を取り戻すことができるのかが問われている。

トップ写真:ラオスと中国を繋ぐ高速鉄道 出典:Photo by GanzTwins/Getty Images




この記事を書いた人
大塚智彦フリージャーナリスト

1957年東京都生まれ、国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞入社、長野支局、防衛庁担当、ジャカルタ支局長を歴任。2000年から産経新聞でシンガポール支局長、防衛省担当などを経て、現在はフリーランス記者として東南アジアをテーマに取材活動中。東洋経済新報社「アジアの中の自衛隊」、小学館学術文庫「民主国家への道−−ジャカルタ報道2000日」など。


 

大塚智彦

copyright2014-"ABE,Inc. 2014 All rights reserved.No reproduction or republication without written permission."