空自戦闘機が比クラーク基地訪問飛行
大塚智彦(フリージャーナリスト)
「大塚智彦の東南アジア万華鏡」
【まとめ】
・航空自衛隊のF15戦闘機が太平洋戦争以降初めてフィリピンのクラーク空軍基地を訪問した。
・南シナ海は中国を筆頭に多くの国が権益を主張し、緊張続く。
・日本は中国を念頭に警戒感を示し、米やフィリピンとの関係強化の重要性を、フィリピンは日本との同盟関係を改めて強調。
航空自衛隊のF15戦闘機が12月6日、フィリピン・ルソン島西部パンパンガ州にあるクラーク空軍基地に着陸した。日比両国空軍の友好親善のための訪問飛行で、日本の戦闘機がクラーク基地を訪れるのは太平洋戦争以後初めてとなった。
首都マニラの北西約60キロにあるクラーク基地は太平洋戦争中、日本軍の輸送、出撃基地として利用され、上陸して来た米軍とフィリピン軍との間で激しい戦闘が繰り広げられた激戦地の一つとされる。
戦後長く在比米空軍の基地として同じルソン島のスービック海軍基地とともに同盟国米国の安全保障関係を示す象徴となっていた。
その後米軍が撤退し、比空軍の主要基地としての機能を有しているが2012年に米軍が再び駐留し、現在は米比空軍の基地となっている。
6日正午ごろ、クラーク基地の滑走路にF15戦闘機2機が到着した。2機は空自第5航空団第305飛行隊所属で九州宮崎県の新田原基地から約4時間の長時間飛行の末到着したもので、F15戦闘機が外国を訪問するのは同盟国米国とオーストラリアに次ぐもので東南アジア地域では初めてとなる。
フィリピン空軍はF15を上空で比空軍のFA50戦闘機4機で出迎え、クラーク基地上空では初の日比戦闘機による編隊飛行を披露した。
F15戦闘機と派遣された約60人の空自隊員は、今回の訪問目的である部隊間の友好親善を図る「パレホ22(結束22)」で日比両国空軍の間で防衛に関する各種意見交換などが行われ親善と理解を深めた。
■南シナ海の緊張に対処
クラーク空軍基地はスービック海軍基地と共にルソン島西部に位置し、南シナ海に直面している。南シナ海は中国がその大半を自国の海洋権益が及ぶ海域であると一方的に主張する「九段線」として線引きし、海域内の環礁や島嶼に埋め立て工事などを次々と行い、建物や滑走路、レーダー施設を備えた軍事基地化している。
フィリピンは2014年に当時のベニグノ・アキノ大統領が中国の主張は不当だとしてオランダ・ハーグにある常設仲裁裁判所に訴えた。
常設仲裁裁判所は審理の結果2016年に「九段線とその囲まれた海域に対する中国が主張してきた歴史的権利は国際法上の法的根拠がなく、国際法に違反する」との判断を下した。しかし中国政府は一貫してこの判断を無視し続けて現在に至っている。
一方南シナ海の環礁、島嶼を巡ってはフィリピンのほかにもマレーシア、ベトナム、ブルネイなどが領有権を主張して中国と対立している。
米や豪などの艦艇や航空機が九段線内は国際海域であるとして航行、飛行する「航行の自由作戦」を実施し、中国が強く反発するなど南シナ海は緊張が続く海となっている。
特にフィリピンは南シナ海で中国の海警局船舶による漁船や民間船舶に対する進路妨害や放水銃による放水などの危険と隣り合わせの状況が続いている。
アルベルト国軍西部本部長は12月6日にパラワン島リサールの北西にあるイロコイ礁付近で2022年初めから中国の民兵が乗り込んだとみられる中国船数十隻が集結を続けていることを明らかにし、フィリピン政府が外交ルートを通じて中国側に抗議しているという。
また米海軍は11月29日に第7艦隊所属のイージス巡洋艦「チャンセラービル」が南シナ海南沙諸島近海で「航行の自由作戦」を実施したことを明らかにした。
中国政府はこれに対し「中国領海に侵入した米巡洋艦を追い払った」と発表したが、米軍側は「それは誤った発表である」と反論する事態となっている。
さらに11月22日には米カマラ・ハリス副大統領がフィリピンを訪問した際、南シナ海に面する南部パラワン島を訪問し比沿岸警備隊などを視察した。
現地でハリス副大統領は「国際的なルールに基づく秩序がどこか一カ所で脅かされればそれはあらゆる場所で脅かされることになる。違法で無責任な行動に対しては同盟国や友好国と結集する」と述べて直接の名指しこそ避けながら中国を強く牽制した。
F15の飛行に合わせてフィリピンを訪問した空自の井筒俊司幕僚長は地元メディアに対し「日本近海や南シナ海では力による一方的な現状変更の試みが続いている。空自はこうした事態を深い懸念を以って注視している」と中国を念頭に警戒感を示し、米やフィリピンなどとの関係の深化とさらなる発展の重要性を強調した。
フィリピンのコニー・アンソニー・カンラス空軍参謀長も日本に対して「もはや日本は私たちと同盟関係にある」と今回の空自戦闘機訪問を歓迎する意を示したと現地メディアは伝えている。
トップ写真:南カリフォルニアの空を飛ぶF-15
出典:Photo by DG303Pilot/Getty Images
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この記事を書いた人
大塚智彦フリージャーナリスト
1957年東京都生まれ、国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞入社、長野支局、防衛庁担当、ジャカルタ支局長を歴任。2000年から産経新聞でシンガポール支局長、防衛省担当などを経て、現在はフリーランス記者として東南アジアをテーマに取材活動中。東洋経済新報社「アジアの中の自衛隊」、小学館学術文庫「民主国家への道−−ジャカルタ報道2000日」など。