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.国際  投稿日:2018/12/11

中国系企業有害物質垂れ流し ラオスで環境汚染


大塚智彦(Pan Asia News 記者)

「大塚智彦の東南アジア万華鏡」

【まとめ】

・ラオスの中国系企業の工場周辺で環境被害発生。

・河川周辺で家畜や魚の異状死がつづく。

・経済援助と引き換えに深刻化する環境汚染にラオス政府の対応は?

 

【注:この原稿には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て表示されないことがあります。その場合、Japan In-depthのサイトhttps://japan-indepth.jp/?p=43178でお読みください。】

 

東南アジアのラオスで工場などからの廃液、有害物質が河川に流れ込み、それが原因とみられる家畜や魚の異常死が相次いでいる。異常死の原因とみられる化学物質を河川に垂れ流ししているのはいずれも中国系企業、工場とされ、ラオス政府は中国系企業に対してラオス国内の環境基準遵守を強く求める事態となっている。

ラオスはこれまで政府の親中国方針を受けて多くの中国資本、中国企業が進出、在ラオス中国人も増加傾向にあるとされるが、その一方で環境汚染や公害まで「持ち込みまき散らす」実情に工場周辺のラオス人住民は不満をつのらせており、地方政府や中央政府に断固とした姿勢をとるよう求めている。

11月30日に「ラジオ・フリー・アジア(RFA」が伝えたところによると、首都ビエンチャンに近い川で約300キログラムの大量の魚が死んでいるのが発見された。川の近くには中国資本が入ったバナナの加工工場があり、そこから川に垂れ流しにされた有害な化学物質が原因とみられている。

▲写真 ラオスのビエンチャン 出典:Gerd Eichmann

ラオス当局によると11月7日、9日にはさらにビエンチャンに近いサントン地方を流れるトン川周辺のタオハイ、クラ、ヤナ・ナチャレムなどの村でも死んだ魚が大量に発見されたという。

ラオス当局の調査に対しこのバナナ加工工場側は責任を認め「今後3年から5年の間に約10万匹の川魚の幼魚を放流する」としているが、汚染された川の水質に関する具体的対策は打ち出していないという。

一方で地元当局はトン川の周辺住民に対し「川の魚を食べないこと、川の水で水浴びをしないこと、川の水を飲まないこと」という警告を出して被害に遭わないように呼びかけている。

地元当局は「川への有害物質の垂れ流しは明らかにラオスの法律に違反している」とし、その上で「もう一度このバナナ加工工場が環境保護の法律を破るようなことがあれば、工場操業許可を取り消す可能性もある」と今後は厳しい姿勢で対処するとしている。

▲写真 ラオスの水牛(2009年)出典:Paulrudd

 

■ 別の地方でも同じような被害報告

また2018年5月には、ビエンチャンに隣接するラオス経済特区のひとつであるサイセタ総合開発区にある地区で多くの牛が原因不明の異常死する事案もあった。

同開発区に近いバン・フォック・ノイ村では四肢を硬直させた状態などで41頭の牛が死骸で見つかったほか、4月にはバンナ・ビアネ村、バン・ポン・トン村などで81頭の牛が同じように原因不明で死んでいる。

共通点はどの村も近くに流れる川があり、この川の上流に位置する開発区内の工場から廃液が川に垂れ流しにされているということで、地元当局、政府機関が現在原因を調査しているという。

サイセタ経済開発区はデベロッパーが「ラオ中国総合投資有限会社」という会社で中国資本が入っている。当局では「開発区にある全ての工場が川に流している廃液を調べて、原因が特定された場合は、その会社に被害に遭った牛の所有者への弁償を求めることになる」と責任を追及する構えをみせている。

▲写真 セイセタ経済開発区 出典:Yunnan Provincial Overseas Investment Co.,LTD.

バン・フォック・ノイ村では3、4年前に牛の異常死が続いたが、近くの工場が閉鎖されたらそれ以降は異常死がなくなった例もあるという。同村ではその時以来、川の水が汚染されているとして、住民が川の水を飲料とすることや川水での水浴びをすることをやめてという。

ラオス南部のセポン地方では中国系の製紙工場から川に有害物質が垂れ流され、牛の他に川魚、水中生物が次々と死んでいるとの報告もあるという。

▲写真 魚の大量死(イメージ) 出典:Frickr; Susan Frazier

 

■ 「質の高い投資者を」と政府に要求も

ラオス人の海外投資に関する専門家はRFAに対し匿名を条件に「政府は海外からの投資、工場進出に際し、それが地域住民にどのような影響を与えるかを最優先で考えるべきであり、その工場などが国内法に触れた場合は直ちに許可を取り消すなどの厳しい対応を取るべきだ」と話している。

さらに具体的な国名を挙げることは控えながらも「海外の企業や工場にはラオスの法を守らず、2回、3回と改善を促しても同じ過ちを繰り返すことが多い。政府はもっと質の高い投資者、企業を探すべきだ」と指摘している。

ラオスのNGOなどによると、海外の工場の環境汚染は河川への有害物質垂れ流しだけでなく、農園などで使用される殺虫剤や除草剤、化学物資の影響でラオス人労働者が頭痛やめまい、皮膚の疾患などの被害に遭うケース、そして今のところ数は少ないものの病死の例も報告されているという。

NGOなどでは全てが全て中国資本の会社という訳ではないが、相対的に中国系の工場はラオス国内の環境基準や規則を無視する傾向があるとみている。

さらに隣国のカンボジアでも2018年5月には中国系の鉱山会社からの廃液が河川の水質を汚染し、その川の水を飲んだ住民18人が死亡する事例も報道されている

この鉱山会社は2017年に採掘を開始したが、すぐに下流の地域で6頭の牛が原因不明で死亡、早くから水質汚染が疑われていたものの、放置された結果人的被害にまで及んだという。

ラオスもカンボジアも東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟国内では親中国として知られ、中国の多額の経済援助と引き換えに投資、企業進出、工場建設などを受け入れ、中国の存在感が強まっている。そうした中でこうした環境汚染、公害の問題が深刻化していることから、国民の政府に対する厳しい目が向けられようとしている。

トップ画像:工場からの煙・環境汚染(イメージ)出典:pixabay; nikolabelopitov


この記事を書いた人
大塚智彦フリージャーナリスト

1957年東京都生まれ、国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞入社、長野支局、防衛庁担当、ジャカルタ支局長を歴任。2000年から産経新聞でシンガポール支局長、防衛省担当などを経て、現在はフリーランス記者として東南アジアをテーマに取材活動中。東洋経済新報社「アジアの中の自衛隊」、小学館学術文庫「民主国家への道−−ジャカルタ報道2000日」など。


 

大塚智彦

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