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.政治  投稿日:2020/9/7

新総理は脱安倍路線で「ポスト安倍 何処へ行く日本」


安倍宏行(Japan In-depth編集長・ジャーナリスト)

【まとめ】

・自民党総裁選レース、菅官房長官頭一つ抜け出す。岸田、石破は2位争い。

・選挙の顔として党内から支持集めた菅氏。合流新党の体制整わぬうちに解散総選挙あり得る。

・新総理は「安倍路線」の継承では無く、新路線を敷くべき。

 

ポスト安倍は岸田か加藤か、などとつい最近まで言われていたのに、いつの間にか「菅首相」誕生目前だ。総裁選とは名ばかりの消化試合にしらけムードが漂う。

■ 自民党派閥の論理

加藤氏(加藤勝信厚労省)は今回名前すら出なかった。次期総理などと一時メディアに持ち上げられたのに、だ。それにしても気の毒なのは岸田政調会長、はしごの外され方があからさまだ。石破氏も党員票がカウントされないことになった時点で目はなくなった。今は岸田、石破のどちらが二番手になるかが焦点になっている。

▲写真 岸田文雄氏 出典:切干大根

それはともかく、何故菅官房長官だったのか。答えは簡単、解散総選挙が控えているからだ。実際、今年に入ってから、永田町には何度か解散風が吹いている。与野党、多くの衆議院議員が選挙の準備を始めていることを隠そうともしなかった。

自民党としては安倍首相が電撃辞任してしまったので、次の選挙の顔を決めねばならなくなった。その時点で、菅氏に内定したようなものだったろう。

何せ岸田氏は国民に全く知られていない。外相・防衛相を一時兼務していたことすらあるのに、筆者の周りでも彼を知っている人を探す方が難しい。岸田派(宏池会)は自民党最古参の派閥(47名)だが、石破氏の方が知名度がある。何故か?

まず石破氏の外見はインパクトがある。話し方も独特だ。一度テレビで見ると覚えてしまう。ソフトでスマートな語り口の岸田氏とは対極である。何より、鉄オタでアイドルオタクでもある。あだ名は「ゲル」。これも周知の事実だ。が、いかんせん派閥である水月会のメンバー19人と、数の上では圧倒的に不利だ。党員票はかなり集めるのだが、議員票が獲得できず、過去3回の総裁選で苦杯をなめている。

▲写真 石破茂氏(2017年9月25日。山梨市市長選応援演説にて) 出典:さかおり

こうみてくると、次の選挙の顔は菅氏しかいないと自民党の幹部が考えるのも当然だ。安倍首相の下、官房長官として毎日テレビの前に立ち、「令和おじさん」として一定の知名度がある。なにより、「安倍路線の継承」という看板にぴったりということなのだろう。そこに政策論争はない。単純に自民党の派閥の論理があるだけだ。国民不在である。

巷間言われているのは、9月末の解散、10月の総選挙だ。もしそうなったら国民はわけがわからないだろう。新政権が発足したばかりなのにもう選挙?そう思うに違いない。

だが、自民党には選挙を今やる明確な理由と目的がある。「政権基盤を固める」という明確な目的が。背後に野党の動きがあることは明白だ。「野党の息の根を止める」と言い換えてもいいかもしれない。

立憲民主党と国民民主党が合流するのをご存じだろうか?そう聞きたくなるほど、世間の関心は低いように見える。自民党新総裁が決まる14日の翌日15日に合流新党が誕生、衆参合わせて約150人に及ぶ巨大野党の誕生にも有権者の目は冷ややかだ。

合流が選挙目当ての野合と見られているのも、国民民主党の玉木雄一郎代表以下、20名以上が合流新党への参加を見送ったからだ。その最大の理由が政策だ。「原発ゼロ」や「消費税減税」、「憲法改正」など政策面での協議と一致を求める玉木代表の要望に枝野立憲民主党代表は乗らなかった。

結局両党の一本化はならず、分裂してしまった。そこを与党側が突かない訳がない。選挙区調整が整わないうちに総選挙をしかければ、議席は確保できる(少なくとも今より大きくは減らさない)と踏んでもおかしくない。なにせ、コロナ禍で景気は今後ますます停滞し、秋以降インフルエンザと新型コロナのダブルパンチも十分あり得る。うかうかしていると総選挙のタイミングを逸するのだ。だから、9月末解散、10月総選挙という憶測が現実味を帯びてくる。しかし、そんなこと言われても、国民は納得できるだろうか?

 

 安倍路線の継承

菅官房長官は「安倍路線の継承」を標榜している。そもそも「安倍路線」とは何だろう?一番に思い起こされるのは、「アベノミクス」だろう。確かに第2次安倍政権下、異次元金融緩和で、円安になり株価は確かに上がった。

しかし、その景気回復も2018年10月で終わったと認定されている。元々アベノミクスは3本の矢で構成されていたはず。だが3本目の「成長戦略」は不発だった。

▲図 アベノミクス「3本の矢」 出典:首相官邸

政府の「成長戦略実行計画」にはきら星のごとく戦略が並んでいるが、遅々として進んでいないものばかりだ。「新しい働き方の定着」、「決済インフラの見直し及びキャッシュレスの環境整備」、「デジタル市場への対応」・・・

何でも菅氏は「デジタル省」創設を考えているようだが、問題は、何故日本経済が成長しないか、だろう。「安倍路線」の継承では駄目なのだ。根本的に政策を変えないと日本経済は「成長」するどころか、「後退」するだろう。

外交はどうだろう?トランプ大統領との距離が近く、そのおかげで関税を上げられずに済んだとか、「思いやり予算」を倍増させられずに済んだ、とか評価する声を聞くが、それは米中対立の構図の中での話。たまたまアメリカ側の優先順位が中国だっただけにすぎない。いつまた日本に矛先が向かうか誰も分からない。

日米関係は、広くアジアの安全保障の枠組みで考えるべきものだ。日米「矛と盾」の関係が大きく変質しようとしている中で、日本の役割分担をどうするか国民に問わねばならないが、安倍政権は、憲法改正の神学論争の隘路から抜け出すことが出来なかった。

そして、北方領土問題も、拉致問題も全く進展しなかった。前者は対ロシアの経済支援策まで用意したのになしのつぶて、後者はトランプー金正恩会談が3回も行われ一時は何らかの進展があるかと期待されたが、日本は米朝会談に一枚噛むことすら出来なかった。

対韓国関係も、文在寅政権の反日姿勢があまりにひどいとは言っても、「ホワイト国除外」から余計こじれたのは明白だ。勝手に言わせておけ、というのでは外交とは言えない。

つまり、「外交の安倍」とはいうものの、外交の「安倍路線」の継承もこれまたよろしくないのだ。従来と異なるアプローチが必要な段階に来ているのではないだろうか。

そういう意味において、安倍辞任は時宜を得たものだったのかもしれない。どんな組織も長期政権は腐敗するし、停滞する。安倍政権の後半は、お世辞にも褒められたものでは無かった。隠蔽、改ざん、無理な法解釈・・・枚挙にいとまが無い。野党で無くてもうんざりする。

次期総理には、「安倍路線」継承ではなく、「安倍路線」との決別、もしくは、「〇〇(次期総理の名前)路線」への進化を謳ってもらいたい。

まずは、迷走する「コロナ対策」を立て直すことだろう。過度の自粛は景気後退を加速させる。特効薬もワクチンも無い状態が当面続くであろう中で、過度の自粛が続けば、年を越せない企業が増える一方だ。国民に何を求め、政府は何をするのか、より明確に示すことが重要だ。

景気刺激策が「マイナポイント」だけというのではお寒い限りだ。消費税減税を考えるタイミングに来ているのではないか。総選挙となれば野党はそれを打ち出してくるだろう。対する与党はどんな政策を掲げるのか。

野党を野合と言うなら、自民党の総裁選も派閥の論理だけで進んでいる。どっちもどっちだ。総選挙をどうしてもやるというならそれもしかたない。我々に止めることは出来ない。しかし、これだけは忘れてはならない。日本は今、戦後最大のピンチに直面しているのだということを。

そして、私たちが票という武器を持っていることもお忘れ無く。

トップ写真:菅義偉官房長官 出典:内閣官房内閣広報室


この記事を書いた人
安倍宏行ジャーナリスト/元・フジテレビ報道局 解説委員

1955年東京生まれ。ジャーナリスト。慶応義塾大学経済学部、国際大学大学院卒。

1979年日産自動車入社。海外輸出・事業計画等。

1992年フジテレビ入社。総理官邸等政治経済キャップ、NY支局長、経済部長、ニュースジャパンキャスター、解説委員、BSフジプライムニュース解説キャスター。

2013年ウェブメディア“Japan in-depth”創刊。危機管理コンサルタント、ブランディングコンサルタント。

安倍宏行

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