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.国際  投稿日:2020/9/11

安倍政権の媚中派名指しした米報告書(2)今井氏が安倍首相を説得?


古森義久(ジャーナリスト・麗澤大学特別教授)

「古森義久の内外透視」

【まとめ】

・米シンクタンク報告書、IR事業をめぐる汚職事件について報告。

・安倍首相が対中姿勢をより融和的にするよう、秋元被告が説得と記述。

・米政府の「一帯一路」反対を二階氏が無視と指摘。

 

今井尚哉氏や二階俊博氏についての記述は次のような構成のなかの重要な位置づけだった。

「中国の対日影響力行使戦術」という章のなかに「中国のコロナウイルス危機利用」「日本での孔子学院」「中国の対日情報活動」などという項目が並ぶなかでも「中国の日本でのシャープ(鋭い)パワー・汚職」という項の記述だった。

同項はまず冒頭で中国がかかわる日本では珍しい明確な汚職の事例としてカジノ開設を伴う統合型リゾート(IR)事業をめぐる汚職事件について報告していた。

この汚職事件とは2020年1月に収賄罪で起訴された自民党衆議院議員の秋元司被告を主役とする贈収賄事件である。報告書はまず秋元被告の逮捕や起訴が日中関係への悪影響や安倍政権の経済成長政策への汚点ともなるということを強調していた。

▲写真 秋元被告 出典:Yanagimotoso

そこでさらに注視すべきは同報告書がこの秋元被告の刑事事件の意味や影響を詳しく述べた後、そのすぐ直後に同被告が自民党の二階派の議員だったことを強調し、二階氏や今井氏についての指摘に入っていく点だった。あたかも秋元事件と二階、今井両氏が関連するかのような構成の記述の流れなのである。

その核心の記述は以下のようだった。

秋元は自民党内のパワフルな派閥である二階派に所属してきた。和歌山県選出の自民党幹事長の二階俊博の名から二階派と呼ばれるこの派閥は自民党内の親中派である。同派閥は『二階・今井派』と呼ばれることもある」

「今井とは首相補佐官で経済産業省出身の今井尚哉のことで、今井は安倍首相が中国や中国のインフラ・プロジェクト(「一帯一路」やアジアインフラ投資銀行)に対する姿勢をより融和的にするように説得してきた

以上の記述は今井氏が安倍首相の対中政策に関して二階氏と同等ともいえる影響力を発揮してきたとする認識だともいえる。今井氏の安倍首相への「説得」についても原文の英語では「すでに説得した」という意味の完了形が使われていた。

アメリカの学術機関が他国政府の対外政策についてのこの種の調査報告で政治指導者や閣僚ではなく本来は裏方の補佐官の特定な名をあげてその影響力を指摘することは珍しい。アメリカ側はそれだけ今井氏の役割に強い関心を持っているといえる。

同報告書はさらに今井氏の役割への指摘に続いて二階氏について自民党内の親中派の領袖であることを強調したうえで以下の要旨を述べていた。

「二階は中国のパンダを五頭も自分の選挙区の和歌山の動物園に持ってきた実績がある。2019年4月には二階は安倍首相の特使役として習近平主席と会談し、アメリカの意見にかかわりなく、日本が中国の「一帯一路」に協力することを主張してきた」

二階はまた習近平主席を日本への国賓として招くことを主唱してきた。同時に二階は長年にわたり日本の中国に対する巨額の政府開発援助(ODA)の供与を一貫して求めてきた」

同報告書の二階氏についての記述で注目されるのは、同氏の対中政策の主張がアメリカの政策を無視していることを指摘した点だった。

報告書は客観的な筆致を通しながらも、習近平政権の「一帯一路」構想に対する二階氏の態度についてはあえて「アメリカの意見にかかわりなく」と記して、アメリカ政府の「一帯一路」への明確な反対を二階氏が無視して、賛成論を唱える点への批判をにじませる形となった。

同報告書のこの「中国の日本でのシャープパワー・汚職」と題する項目の今井氏、二階氏に関する記述はこの二階氏の「一帯一路」への態度を説明した後、またすぐ秋元被告の汚職事件に戻っていた。

だからこの項目全体としてみると、主題はあくまで秋元被告の中国がらみの汚職事件であり、同被告が自民党内の二階派所属だからという点から今井、二階両氏の親中言動に触れていき、また秋元被告の汚職事件に記述を戻すという構成なのである。

うがって考えれば、報告書の作成側は今井、二階両氏の日本の対中政策への動きも秋元被告と同次元の不透明な中国との結びつきと同じカテゴリーに含めているとも解釈できる。

だがこの点は今井、二階両氏の名誉のためにも強調しておくべきだが、両氏が秋元被告と同様の不正にかかわったという記録はなにもない。「二階派」という一点の共通項だけで秋元汚職事件といっしょに扱われるのは不当だともいえよう。

(3に続く。はこちら。全4回)

 

※この記事は月刊雑誌『WILL』2020年10月号の掲載された古森義久氏の論文『米国に「媚中」と名指された二階幹事長と今井補佐官』の転載です。4回に分けて連載します。(編集部註)

トップ写真:経済政策に関する申入れをする二階氏(2016) 出典:首相官邸


この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授

産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。

古森義久

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