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未分類  投稿日:2020/10/1

米大統領候補論戦の勝敗は


古森義久(ジャーナリスト・麗澤大学特別教授)

「古森義久の内外透視」

【まとめ】

米大統領選、テレビ討論は視聴者の6割がバイデン候補が優勢と判断。

・中立大手新聞社は「気のめいる討論の展開」と酷評。

・前回の大統領選、テレビ討論ではクリントン優勢が62%だった。

 

アメリカ大統領選での共和党現職のドナルド・トランプ大統領と民主党候補のジョセフ・バイデン前副大統領とのテレビ討論が日本時間の9月30日、オハイオ州のクリーブランドで催された。全世界から注視されたこの一対一の論戦はアメリカでも日本でも「どちらが勝ったか」という即断が問われている、しかし単純な白黒の勝敗では決められないのが現実だといえよう。

アメリカの大手メディアでも正面から民主党のバイデン候補を支持するCNNテレビは討論会の直後の視聴者調査で「全体の6割ほどがバイデン候補が優勢だったと判断した」という結果が出たと報じた。

ところがCNNがその調査の対象としたテレビ視聴者全体では民主党支持が39%、共和党支持が25%という結果が出たという。調査の対象自体がそもそも民主党支持者が多数という実態だったわけだ。だからいまや民主党支持を顕著にするアメリカの主要メディアのこの種の「世論」の判定は額面どおりに受け取れないことがここでも印象づけられた。

一方、政治的には中立に近い大手紙ウォールストリート・ジャーナルは討論直後に掲載した「気のめいる討論の展開」という見出しの社説で、トランプ、バイデン両候補とも有権者を失望させる「プロレスのような口論だった」と断じた。同社説は両候補いずれもが「悪口雑言、相手の発言の阻止、誇張、虚偽に満ちた発言だった」とけなしていた。

確かに両候補とも司会者のFOXテレビのクリス・ウォレス記者の進行や整理の言葉に従わず、質問にも答えず、一方的な発言を続けるという場面が多かった。ちなみにFOXテレビは全体として共和党傾斜、トランプ支持だが、ウォレス氏はトランプ批判の傾向もあるベテラン記者で、トランプ大統領も今回の討論でウォレス氏の質問や総括に激しく反発することが何回かあった。

アメリカの多様なメディアの論評のなかでも今回の討論の特徴づけでは「両者ともに敗者となった」(ワシントン・フリー・ビーコン紙)とか「勝者も敗者もいない討論だった」(ワシントン・タイムズ)という、「どっちもどっち」という判定が多かった。

しかし全体の印象ではトランプ大統領がバイデン候補をじっとみすえて、積極果敢な舌戦を挑み、勢いや活力をより多く感じさせたといえる。一方、バイデン氏はこれまでの失言や放言から認知症疑惑までが指摘されていたが、今回の討論では大きなミスはなく、民主党支持層を安心させたといえる。バイデン氏のあえてトランプ氏を見ずに、司会者とカメラに向かってだけ語るという姿勢もそれなりの特色を出していた。

だが一般の最大の関心事はこの第一回の討論が実際の選挙情勢にどれほどの影響を与えるかだろう。ここで参考になるのは前回の2016年の民主党ヒラリー・クリントン候補と共和党ドナルド・トランプ候補の第一回テレビ討論の結果である。

▲写真 トランプ大統領とヒラリー・クリントン氏 出典:Wikimedia Commons; パブリックドメイン

このときの討論ではクリントン氏が圧倒的に優勢だったとされ、当時のCNNの事後世論調査ではクリントン優勢と答えたのが62%、トランプ優勢とみたのが27%という大差だった。だが実際の選挙ではトランプ候補が圧勝したのだ。

そのほかにも近年の大統領選挙では候補者同士の一対一の討論は重要とされ、一般の熱い関心を集めるが、その論戦で勝者とされた側の候補が実際の選挙では敗者となるという先例が多数、記録されている。

だから今回の討論会もその種の距離をおいての観察が適切ということになろう。

トップ写真:バイデン候補 出典:Utica College Center of Public Affairs and Election Research


この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授

産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。

古森義久

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