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.国際  投稿日:2020/10/9

CO2排出問題で出遅れる日本      


嶌信彦(ジャーナリスト)

「嶌信彦の鳥・虫・歴史の目」

【まとめ】

・中国、2060年までに温室効果ガスの排出量ゼロを宣言。

・日本は石炭からの脱却が進まず、世界の脱炭素の動きに遅れを取る。

・米大統領選の結果いかんで、米のCO2排出への政策が変化する可能性。

 

気候変動問題が再び世界の大きな争点になってきた。中国は最近、2060年までに温室効果ガスの実質的排出量をゼロにする」と宣言したのに対し、アメリカのトランプ大統領は温暖化対策を決めた「パリ協定」の国際ルールからの離脱を表明し、真っ向から対立しているからだ。「パリ協定」では今年中に温暖化対策の目標更新と長期目標の提出を求めているが、CO2排出量の米・中、2大国が対立していては前に進まない。

 

温暖化の元になるCO2排出量は世界全体で約331億トン(2018年)。うち27.5%を中国、14.8%をアメリカ、3位はインドが7.3%を排出している。(この3国で、対前年比の排出量増加分85%という大きな割合を占めている。)次いでロシアの4.7%で、日本は第5位の3.2%を排出している。2016年に発効したパリ協定では、温暖化による危機的状況を防ぐため、産業革命前からの気温上昇を2度より低く、できれば1.5度以下に抑えることを目標とし、今世紀後半には世界全体で実質ゼロにすることを宣言。各国に5年ごとの目標値を出すように呼びかけ、今年中に点検と見直しを行ない新たな目標値を出すように求めている。

 

これに対し、中国は9月22日の国連総会で習近平国家主席が「30年までに排出量を減少に転じさせ、60年までにゼロにする」と表明した。中国では気候変動の影響を受けた今年の大雨で7000万人が被害を受け、石炭産業に頼るエネルギー構造を転換することが課題とされている。と同時にその宣言は、パリ協定からの脱退を表明し「気候はすぐに涼しくなる。中国は科学をわかっていない」と中国批判を続けるトランプ米大統領への反論でもあった。これに対しアメリカはシェールガスの採掘によってエネルギーの純輸出国になりつつあり、温暖化に対する環境規制、緩和をゆるめている最中でその撤廃、緩和数は160にも上っているといわれる。

写真)スモッグ(イメージ) 出典)Pixabay; Ralf Vetterle

 

世界ではEUが「欧州は2050年に世界初の排出量実質ゼロの大陸になる用意がある」(フォンデアライエンEU委員長)と表明。ロシアのプーチン大統領は「今世紀末に実質ゼロを目指す」といい、グテーレス国連事務総長も「化石燃料への補助を終わらせ、炭素排出に価格を設けるべきだ」と表明している。

 

こうした世界の動きに対し日本は、2018年現在で天然ガス38%、石炭32%、再生可能エネルギー17%と依然CO2を出す石炭の比率が高く、2030年においても天然ガス27%に次いで石炭26%と大きな減少見通しが立っていない。このため国際NGOから小泉進次郎環境相に化石賞が贈られるという事態になっている。

写真)小泉進次郎氏 出典)小泉進次郎Facebook

 

日本は97年の環境会議(COP3)を開催し、環境先進国になることを表明したが、CO2を大量に排出する石炭からの脱却が進まず世界の脱炭素の動きから遅れがちだ。今のところ菅・新首相は2050年のできるだけ近い時期に脱炭素社会を実現できるようにしたいと表明しているが、日本には石炭の火力発電所が140基あり、うち非効率とみられるものが114基もある。このため、政府は当面は非効率な石炭火力100基を休廃止するとし、電力会社にその数を提出するよう求めるとしているが業界の抵抗も根強い。

 

問題は今後のアメリカの動向だ。気候変動、温暖化の影響でアメリカでは毎年大きな山火事が続き、今年は西海岸で過去最大規模の山火事とハリケーンの上陸で西海岸や南部海岸で大被害をもたらした。(※1)11月3日の大統領選挙でトランプ大統領が再選されるとアメリカの姿勢は変わりそうにないが、もし民主党のバイデン候補が大統領になるとアメリカの政策が変化する可能性も大いにあり得る。バイデン氏は「トランプ氏は気候変動をでっち上げだと言っているが、私は科学を信頼するし、雇用のチャンスだと考えている」と発言し、経済回復に温暖化対策を掲げ、再生エネルギーの拡大や脱炭素化のインフラ投資によって50年までに実質排出ゼロを目指すとしている。またハーバード大学の若者18~29歳が対象の世論調査(※2)によると、トランプ政権の温暖化対策への取り組みに反対する人が全体で73%に上ったという。

 

気候変動問題とこれに伴うCO2排出問題はアメリカと中国の論争だけでなく、世界も大統領選の結果に注目しているのだ。日本はまだ石炭火力を重要なエネルギー構成源と見立てているが、アメリカ大統領選の結果次第では、気候変動問題の風向きが大きく変わる可能性があるといえよう。

 

【参考情報】
(※1)「世界の大気汚染、米西海岸が最も深刻に 山火事で」9月16日付日経新聞

(※2)4月23日発表「Harvard Youth Poll」 該当の設問は25問目(原文)

ハイライト (https://iop.harvard.edu/youth-poll/harvard-youth-pollhttps

 

 トップ写真)イメージ画像   出典)Pixabay; kalhh


この記事を書いた人
嶌信彦ジャーナリスト

嶌信彦ジャーナリスト

慶応大学経済学部卒業後、毎日新聞社入社。大蔵省、通産省、外務省、日銀、財界、経団連倶楽部、ワシントン特派員などを経て、1987年からフリーとなり、TBSテレビ「ブロードキャスター」「NEWS23」「朝ズバッ!」等のコメンテーター、BS-TBS「グローバル・ナビフロント」のキャスターを約15年務める。

現在は、TBSラジオ「嶌信彦 人生百景『志の人たち』」にレギュラー出演。

2015年9月30日に新著ノンフィクション「日本兵捕虜はウズベキスタンにオペラハウスを建てた」(角川書店)を発売。本書は3刷後、改訂版として2019年9月に伝説となった日本兵捕虜ーソ連四大劇場を建てた男たち」(角川新書)として発売。日本人捕虜たちが中央アジア・ウズベキスタンに旧ソ連の4大オペラハウスの一つとなる「ナボイ劇場」を完成させ、よく知られている悲惨なシベリア抑留とは異なる波乱万丈の建設秘話を描いている。その他著書に「日本人の覚悟~成熟経済を超える」(実業之日本社)、「ニュースキャスターたちの24時間」(講談社α文庫)等多数。

嶌信彦

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