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.国際  投稿日:2020/10/28

米大統領選、保守主義はどこへ


宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)

宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2020#44

2020年10月26日-11月

【まとめ】

・米大統領選、来週投票日。

・真の議論は「米国内政、アメリカ保守主義の行方」。

・ホワイトハウス、上院、下院を民主、共和両党が支配する可能性は8通り。

今年も残り8週間となった。来週には米大統領選挙の投票日が来る。今年はどちらが勝つか、と4年ごとに聞かれる。昔は結構予測し易かったのだが、4年前から俄然難しくなった。多くの専門家がトランプ現象の広がりを予測できなかったからだ。勿論、今回も逆張りする手はあるのだろうが、それは邪道だ、と筆者は思う。

おそらく多くの専門家は今年どちらが勝つか、心の中では分かっているが、言えないのだろう。4年前の苦い教訓からか、今年は両論併記でお茶を濁す人が多いのではないか。しかし、彼らは競馬の予想屋ではない。真に議論すべきは、米国内政、特にアメリカ保守主義の行方ではないか。この点を今週のJapanTimesに書いた。

要約すれば、ホワイトハウス、上院、下院を民主、共和両党が支配する可能性は8通りある。それぞれについてその蓋然性と東アジアへの影響を簡単にまとめたものだが、実は9つ目のシナリオがある、というのがミソだ。お時間のある方は、英語で申し訳ないが、ご一読願いたい。

先週触れなかった菅首相のインドネシア訪問は概ねうまくいったようだ。首脳二人だけの会談(テタテと呼ぶ)も、中身は知らないが、良かったと側聞する。いずれにせよ、筆者の仕事は具体的会談内容に立ち入ることではないし、筆者の見解が政府を代表することもない。この点についてはくれぐれも誤解のないようお願い申し上げる。

今週筆者が注目するのは中国のいわゆる「五中全会」だ。正式には中国共産党第19期中央委員会第5回全体会議という。いつから「五中全会」と呼ばれるようになったかは知らないが、考えてみれば、この「重要会議」が26日から始まり、「2021年から5年間の経済運営方針を示す第14次5カ年計画」を議論するというから不思議だ。

▲写真 習近平主席 出典:ロシア大統領府

いくら「中国の特色ある」市場経済とはいえ、今時、しかもコロナ禍の真っ最中に、五か年計画で長期の目標成長率を設定するなんで余りにアナクロではないか。しかも、今回は「2035年まで15年間の長期目標も話し合う」と報じられた。習近平総書記の長期政権だけが決まる可能性すら噂されている。

中国の内政に茶々を入れるつもりはないが、「党の指導」で経済成長率が決まる経済システムを我々は如何に評価すべきか、真剣に考えるべき時期に来ているのではないか。問題が単なる経済貿易の話ではなく、国家安全保障の領域に迫りつつあるからだろう。この傾向は米国だけでなく、欧州でも顕著になりつつある。

〇アジア

タイのバンコクで大学生主導の反政府デモが行われた。非常事態宣言解除後、中心部の商業施設周辺を占拠してのデモは初めてだという。学生たちの要求は「現政権退陣と憲法改正、王室制度改革」なので、政府が対応を一つでも間違えると騒乱は一層深刻化しかねない。要注意である。

▲写真 2020年10月16日、BTSサイアム駅の下にあるバンコクのラーマ1世通りで、放水砲を使用して抗議者を解散させた警察。 出典:Wikimedia Commons; Prachatai

〇欧州・ロシア

アルメニアとアゼルバイジャンが米国の仲介で26日午前8時からの停戦で合意した。9月27日以来停戦合意は3回目だが、過去2回は、予想通り、いずれも長続きしなかった。停戦に向けまずロシアが試み、米国がそれに続いたが、両国が努力しても纏まらないこの紛争、当分続きそうである。

〇中東

2017年8月、アラブ首長国連合(UAE)の若い王族や兵士を乗せたヘリコプターがイエメンで墜落し、UAEが米軍に救出支援を要請、数時間後に米特殊部隊がUAEの王族と兵士を救出した話をWSJが報じている。こうした米軍とUAEの信頼関係がUAE・イスラエル関係正常化につながったのだそうだ。なるほど、凄い話ではないか。

〇南北アメリカ

直接アメリカではないが、ローマ教皇が13人の枢機卿を新たに発表し、その中でアフリカ系米国人を初めて指名したという。アフリカ系は初めてというが、元々キリスト教はローマに伝わる前に中東アフリカで広がった宗教で、アフリカのエチオピアには今も多数の「コプト(エジプト)系」キリスト教徒がいる。アフリカ系枢機卿など当然だ。

〇インド

ロイターによれば、米アップルの委託製造業者である台湾3社がインドでのスマートフォン生産に総額9億ドルを投じる計画だという。インドの補助金制度を活用するというのだが、先端技術の世界ではインド、中国、台湾、米国の競争が激化しつつあるようだ。

今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きは今週のキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。




この記事を書いた人
宮家邦彦立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表

1978年東大法卒、外務省入省。カイロ、バグダッド、ワシントン、北京にて大使館勤務。本省では、外務大臣秘書官、中東第二課長、中東第一課長、日米安保条約課長、中東局参事官などを歴任。

2005年退職。株式会社エー、オー、アイ代表取締役社長に就任。同時にAOI外交政策研究所(現・株式会社外交政策研究所)を設立。

2006年立命館大学客員教授。

2006-2007年安倍内閣「公邸連絡調整官」として首相夫人を補佐。

2009年4月よりキヤノングローバル戦略研究所研究主幹(外交安保)

言語:英語、中国語、アラビア語。

特技:サックス、ベースギター。

趣味:バンド活動。

各種メディアで評論活動。

宮家邦彦

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