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.国際  投稿日:2020/10/21

米大統領選とメディアその4 人種差別でトランプを倒せ


古森義久(ジャーナリスト・麗澤大学特別教授)

「古森義久の内外透視」

【まとめ】

・主要メディアの「人種差別」印象操作でトランプ支持率最低に。

・「人種差別主義」武器にトランプ倒せ。米紙社内会議録が流出。

・メディアの政治活動優先姿勢に非難殺到。トランプ陣営は反撃。

2020年5月末から6月にかけての全米の人種差別反対デモではワシントン・ポストもニューヨーク・タイムズも、トランプ糾弾の報道に全力をあげた。「トランプの人種差別」というイメージを濃縮して拡散したのだ。

この点についてはおもしろい資料がある。ニューヨーク・タイムズが2019年夏に次のトランプ攻撃は「人種差別」を武器に使用しようという方針を社内でひそかに決めていたことを示す記録である。

ニューヨーク・タイムズが同大統領を倒すためにそれまで「ロシア疑惑」を利用してきたが、こんごは「人種差別主義(レーシズム)」を最大の武器として使うという方針を決めた社内の会議記録が外に流出してしまったのである。その結果、当時、同紙に対しては報道機関の任務を離れての政治活動プロパガンダ機関になったという批判が広まった。

ニューヨーク・タイムズは昨年8月12日、ディーン・バケイ編集局長の下、幹部が集まって、こんごの方針を協議した。この会議の全記録がインターネット・メディアに流れてしまったのである。

2019年8月といえば、「ロシア疑惑」の特別捜査が完全に終わり、捜査責任者のロバート・モラー特別検察官が議会での証言も終えて、もう追及の余地なしという総括がいやというほど明示された時期だった。

この「疑惑」をクロとして、トランプ政権を追い詰めるような報道を長い期間続けてきたニューヨーク・タイムズにとっては、挫折の時期だった。そんな時期の編集会議だった。

その会議での総括は次のような内容だったという。

「トランプ大統領を辞任に追いこむことを大目標とする紙面づくりを続ける方針の下に、これまでは『ロシア疑惑』報道を最大の手段としてきたが、効果がなかった」

「こんごはトランプ氏がレーシスト(人種差別主義者)だとする主張を最大の手段とする方針が効果があると考えられる」

レーシズム(人種差別主義)をトランプ攻撃の主材料にするという宣言だった。ニュース報道よりも政治キャンペーンを優先というスタンスの確認でもあった。

この内情が他のメディアで報道された。

▲写真 社内会議録が流出したニューヨーク・タイムズ本社(ニューヨーク市) 出典:Jimmy Baikovicius

反発は激しかった。ニューヨーク・タイムズが日ごろから敵とする共和党保守派は同紙をとくに強く糾弾した。

大統領選ではトランプ氏と共和党の指名獲得を争ったテッド・クルーズ上院議員はツイッターで「ニューヨーク・タイムズはトランプ憎悪により自壊を始めた」と批判した。

クルーズ議員は「ジャーナリストが政治プロパガンダ拡散に熱中することは報道の自由にとっても有害だ」と述べるともに、「人種差別をあえて政治的な武器とすることはかえってそれを広めることにもなる」と警告した。

メディア界でもニューヨーク・ポストのベテラン・コラムニスト、マイケル・グッドウィン記者は次のように酷評した。

「特定の政治勢力へのここまでの反対や賛成を本来の報道活動に優先させるのはニュースメディアとしての腐敗だ。ニューヨーク・タイムズはもう報道機関としての責務を放棄し、民主党と一体の政治機関になった」

FOXテレビも「大手新聞の極端な偏向」として批判的に報道した。

肝心のトランプ大統領も8月18日のツイッターで厳しく反撃した。

「衰退するニューヨーク・タイムズがまた失敗をした。私を攻撃する手段として、でっちあげのロシア疑惑からこんどは魔女狩りのレーシズムへとシフトしたことが内部情報の流出でばれてしまったのだ」

同大統領はすでに同紙を「フェイクニュース新聞」とか「衰えた古い新聞」と断じて、糾弾してきた。

さて2020年5月末から6月にかけてアメリカ国内で起きたことは、まさにこのニューヨーク・タイムズの戦略と合致していた。

人種差別反対から起きた騒動はトランプ大統領の支持率を就任以来の最低レベルまで下げたからだ。

トランプ陣営も座視はしていない。反撃として訴訟という手段にまで訴えるようになった。

トランプ大統領の再選を目指す「トランプ再選運動本部」はニューヨーク・タイムズ、ワシントン・ポスト、CNNテレビをあいついでトランプ氏に対する名誉棄損で正式に告訴したのだ。

2020年2月から3月にかけての動きだった。

その5につづく。その1その2その3。全5回)

*この記事は一般財団法人「交詢社」発行の「交詢雑誌」令和二年九月特集号に「アメリカ大統領選とメディア」という題で掲載された古森義久氏の寄稿論文の転載です。

トップ写真:トランプ大統領の顔写真に「人種差別主義を排斥しよう」のスローガンを重ねるデモ参加者(2020年6月13日 ワシントンD.C.) 出典:Ted Eytan




この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授

産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。

古森義久

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