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.国際  投稿日:2020/12/7

仏、ホームレスの4割が女性


Ulala(ライター・ブロガー)

フランスUlala の視点」

【まとめ】

・仏ホームレス10人に4人は女性だが、その存在はなかなか見えない。

・レイプにあわぬよう女性らしさを消し、姿を隠すため支援が届かず。

・ようやく女性専用施設ができ、つかの間の休息も、苦難は続く。

手厚い補助も受けられる女性たちが華々しく働いているイメージがあるフランスだが、実はフランスには人目に触れないように隠れて生活している女性たちがいる。それはホームレスの女性たちだ。

■ 隠れて生きるフランスの女性ホームレスたち

12月2日に France2にて、ドキュメンタリー『女性たち、路上から避難所に』が放送された。番組冒頭で話はじめるのは、「哲学の修士卒で、高校で教師をしたこともあるホームレスの女性」だ。高学歴を取得していてもある日住む家がなくなることもある。女性であってもホームレスになることは誰にでも起こること。そんな現実を突きつけられる瞬間でもある。

フランスでは、ホームレスの10人のうち4人が女性です」そう語るのは、このドキュメンタリーの制作者クレア・ラジュニー氏だ。ラジュニー氏は、自身もホームレス支援施設で6カ月間過ごした経験があり、女性ホームレスと彼女たちを支えるソーシャルワーカーを描いた映画『社会の片隅で(邦題)』の原作者でもある。

この映画のフランスの原題は『Les invisibles』であるが、残念なことに邦題はこの原題を忠実に訳しているとはいいがたい。なぜならラジュニー氏が一番伝えたかったのは、社会の片隅で生きているというよりも、こういったホームレスの女性たちは「人目を避けているため、その存在が表に出ない」ことだからである。

フランスでは自分の存在をアピールしていかなくては誰も振り向いてくれないし、何もしてくれない。だから人々は年がら年中デモやストをやっている。主張することが当然とされる社会の中で、ホームレスの女性たちは目立たないように隠れて生活しているのだ。それ故にあまり考慮されないできたともいえる。

では、なぜ彼女たちは姿を見せないのだろうか。それは、レイプなどの暴力から身を守るためである。

■ 8時間に一人がレイプなどの暴力にあっている現実

ホームレス受け入れ施設で働いている職員はこういう。

「ここにくる女性たちは、100%レイプなどの暴力を受けています」

彼女たちは、すでに路上に出る前に伴侶や家族からの暴力にあっている場合も多い。しかし路上で生活することはさらにレイプというリスクが日常的につきまとう。夜一人で歩いていると怖いと感じることはないだろうか。女性のホームレスはそれを一日中感じて生きているのだ。被害にあわないように女性らしい恰好はしない。夜は特に危険だ。ならば夜はホームレス支援の施設で寝た方がいいと思うかもしれないが、施設は男女混合がほとんどなのだ。そのため施設に行ってもレイプの恐怖にさらされる

受け入れ施設に行くバスに乗るために並んだところ、人数制限でバスに乗れず帰ろうとする時にもレイプ被害にあうのだ。そんなことが続くことで、女性のホームレスは受け入れ施設に行くことを恐れるようになっていく。そして、施設に行くよりも路上で身を隠すことを選択するのだ。しかし、身を隠せば隠すだけ、周囲からは存在することが見えなくなる。そして、孤立し、さらに被害にあいやすくなるという悪循環が続いていた。

元ホームレスのアンヌの体験談は衝撃的だ。アンヌは18歳のとき近親相姦を強要された家庭から脱出した後、17年間路上で過ごした。家から出てパリに行ったが、泊まる予定だった場所に受け入れてもらえなかったため野外で夜を明かすことになった。

しかしその初日にレイプ被害にあったのだ。そのショックは体だけではなく心もむしばんだ。被害にあってからの3年間はショックで口がきけない状態だったという。考える力もないまま生きていた。そしてさらに繰り返されるレイプに苦しめられる。男女混合のホームレス受け入れ施設に行ってもレイプ被害にあった。

それ故に、毎晩、橋の下、壁の後ろに身を隠して生きてきた。そんな中ホームレスの男性と恋に落ちたが、二人で居たとしても安心なわけではない。二人でいた時にも襲われたことがある。その後、妊娠、出産。

ホームレス最後の2年間は子供を連れての日々となるが、その時期が一番夜を長く感じた。その上、ソーシャルワーカーに路上で子供を育てることは許されないと言われ、子供を取られるかもしれない恐怖に怯えた。路上で子供を育てれば、書類もない。学校にもいかせられない。ホームレスには母親になる権利もない、そんな苦悩の日々を送ったのだ。

▲写真 イメージ 出典:Pixabay

■ 女性専用施設でつかの間の休息

このように、女性がホームレスとして路上で生きることは男性以上に大きなリスクがあるにもかかわらず、身体のケアをしたり、女性をレイプ被害から守る女性専用施設がほとんどなかったことに問題があった。

そこで、2017年にはマクロン政権がホームレスのために支援施設を増やすことを公約にかかげたことも後押しとなり、同じ年に、ホームレス支援をしているSamusocial de Parisが中心になり、#LaRueAvecEllesのハッシュタグで各方面に支援を呼びかけたのである。その結果、2018年末には、少なくともパリで、女性専用施設の増設が実現したのだ。

今回のドキュメンタリーではそんなパリの女性専用施設の様子が紹介されている。初めて女性専用時間が設けられた「12区のバスシャワー施設」、2018年12月1日設置された13区の初めての「女性専用の緊急避難施設」、及び2018年12月11日に、5区の市役所の大理石に囲まれたホールに設置された「女性専用一時滞在所」

女性専用の施設は、恐怖から逃れるために一晩中歩き続けた女性の休息の場であり、女性が女性としての本来の姿を見せても暴力を受けずに生きられる喜びをほんのひと時でも感じられる場でもある。そして、外で生活するという試練に立ち向かう力を蓄える場でもあるのだ。ドキュメンタリーでは路上で生活する女性たちのつかの間ではあるが、ほっと一息羽を伸ばす姿が映し出されていた。しかしながらそこから一歩外に出れば彼女たちの厳しい戦いはまだまだ続いていくのである。

【参考リンク】

SDF : de plus en plus de femmes à la rue:ホームレス:路上でますます多くの女性

Femmes, de la rue à l’abri : le témoignage d’anciennes SDF (Infrarouge):通りから避難所までの女性:元ホームレスの人々の証言

Bande-Annonce France 5 – Femmes invisibles – Survivre dans la rue

:姿が見えない女たち – 路上で生き延びる

«Les femmes sans abri ont peur des viols, elles se cachent»

:ホームレスの女性はレイプを恐れて身を隠す

Un nouveau lieu d’accueil solidaire: l’«espace femmes» Charonne

:新たな連帯の場 ≪女性のためのスペース≫ シャロンヌ

La Cité des Dames, un toit pour les femmes SDF dans le 13e

:ホームレス女性のためのシェルター「ラ・シテ・デ・ダムス」(13区)

Une halte pour les femmes sans abri à l’Hôtel de Ville

:市庁舎内にホームレス女性のための宿泊・休憩施設

トップ写真:イメージ 出典:Pixabay




この記事を書いた人
Ulalaライター・ブロガー

日本では大手メーカーでエンジニアとして勤務後、フランスに渡り、パリでWEB関係でプログラマー、システム管理者として勤務。現在は二人の子育ての傍ら、ブログの運営、著述家として活動中。ほとんど日本人がいない町で、フランス人社会にどっぷり入って生活している体験をふまえたフランスの生活、子育て、教育に関することを中心に書いてます。

Ulala

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