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.政治  投稿日:2021/1/12

「トップのリーダーシップが必要」千葉市長熊谷俊人氏


20210110安倍宏行編集長が聞く!」

【まとめ】

・千葉県を変えるには、強いリーダーシップが必要。

・電力分散化を図り、災害に強いまちづくりを目指す。

・千葉の魅力をアピール、民活による経済活性化と移住を進める。

2021年、国政では年内に衆議院議員選挙が予定されている。首都圏では、4年前小池旋風で圧勝し東京都議会で与党となった政治団体「都民ファーストの会」の実績に審判が下る「東京都議会議員選挙」や、森田健作現県知事の任期満了に伴う「千葉県知事選挙」(3月4日告示、同21日投開票:千葉市長選とダブル選)などがある。

千葉県知事選には、史上最年少で初当選し、現在3期目の現千葉市長の熊谷俊人氏(無所属)や、千葉県議会議員(3期目)の関政幸氏(自民党推薦)らが立候補を表明している。

 県知事選出馬の動機

まず熊谷氏に、千葉市長から県知事選への出馬を決意した理由を聞いた。

熊谷氏は「正直、政令指定都市の首長というのはやりがいがあるし、県知事になりたいという政治的野心があるわけではなかった」としたうえで、市長在職11年の間、特に3期目に入ってから、「あまり長くやるのは好ましくない。次のキャリアをどうするのが一番社会の為にいいのか考え続けてきた」と述べた。

そして、「(千葉県)トップのリーダーシップが不十分だ。県庁の能力を引き出せていない。スピード感もない」と述べると共に、「(出馬の)決定打は一昨年の災害(編集部注:2019年の台風15号による災害)だ。森田知事が悪かったと報道されがちだが、組織的な問題点もあった。市町村との連携など、平時に出来ていないから危機の時に出来ない」と述べ、県が市町村や現場から遠くなっている現状を変えることが出馬の動機となったことを明かした。

さらに、「2,3年前から自民党が(県知事候補として)鈴木大地氏(前スポーツ庁長官)で動いているのは知っていた。個人としては好きな方だが、県政ビジョンが無く、政治経験がない鈴木氏になったら森田県政よりも厳しくなると思った。選挙に勝てる可能性があり、行政運営経験があるのは自分しかいない。(だったら)やるしかないと腹をくくった」と、出馬の動機を語った。


■ 千葉県の課題

次に千葉県が抱える課題について聞いた。

熊谷氏は開口一番千葉県を「もったいない」と評し、「千葉県ほど過小評価されており、本来の力を引き出せていない県はない」と断じた。

その上で千葉県は、「日本の縮図だ。事実上の東京圏と、成田、外房、南房総、と全部違うエリアを同時にマネジメントしなければいけない。難易度は高いが、それぞれ活性化の仕方がある。これほどやりがいがあって面白い県はない」と述べると共に、「こうした千葉県の奥深い魅力が他県の人に伝わっていないし、県民自身も誇りとか自信になっていない。まねごとではない、千葉にしか出来ない戦い方、魅力作りが出来るんだということを見せていきたい」と意欲を示した。

次に成田エリアについて、「活かせていない。県として、成田を中心とした国際産業拠点を作るという思い切った構想と投資が必要だ」と述べた。

そして、「この15年間で千葉県が作った産業用地は2カ所しかない。茨城、埼玉県は10カ所、20カ所作っており、千葉は3周遅れだ。トップの関与がないからだ」と述べた。

また、2029年の成田空港第3滑走路の完成に向けての戦略が十分に出来ていないと指摘し、その原因として、県のリーダーシップの欠如を挙げ、大きな金額を要し、10年もかかるようなプロジェクトを行うためには2~3年のローテーション人事が基本の公務員だけでは難しく、長期的な視点に立ってリーダーが方針を示すべきだとの認識を示した。

 公約


県知事になったら真っ先に取り組みたいことを聞くと、「まずはコロナ(対策)」と述べ、千葉県は(コロナ対策で)個々の職員は頑張っているものの、大きな方針では常に東京、神奈川の後追いをしている、と指摘、「病床の確保、PCR検査の拡充、経済対策も含め、千葉県全体でやっていきたい」と決意を述べた。

その中でも真っ先にやるべきは「病床の確保」であり、受け入れているのが公的病院ばかりであることが問題だとした。

その理由として、民間病院は採算ギリギリで経営している。仮にクラスターが発生したら経営がふっとんでしまう。コロナ患者を受け入れて採算が悪化しても、前年度収支の保証ができるような支援制度が必要だ、との考えを示した。


■ 関候補との対立軸

熊谷候補は今回の県知事選に無所属で臨む。自民党の推薦候補は同じ世代の関政幸県議、現在3期目だ。関候補との対立軸について聞いた。

熊谷氏は「実行力」だとした。そして「(関候補との)政策面ではそんなに大きな違いはない。(自分は)千葉市でこの11年間、数多くの先駆的施策をやってきた。実績をどう評価していただくかだ」と述べた。

次に、一時候補として名前が挙がっていた鈴木大地氏が消え、関氏を推薦した自民党の動きをどう見ているか聞いた。

熊谷氏は、「自民党さんのやり方なので特にコメントはない」と述べた。

また、立憲民主党千葉県議団が支持する熊谷候補と自民党推薦の関候補との対立の構図を「与野党対決」と呼ぶ向きがあることについて熊谷候補は、「知名度で劣っている以上、与野党対決と言って対立軸を作るのは、戦術的にわからなくもないが、ほとんどの県民は興味がない。政党政治に従っているのはご自由にどうぞだが、そういう次元の話ではなく、千葉県をどうしたいか、ただそれだけだ。自民党にあらずんば、などと考えている人達は、県民の意識とズレがあると思う」と述べた。

そして、関氏陣営の中心にいる方々は自民党ということにプライドを持っており、一定のリスペクトはする、としながらも、「なぜ自民党が支持されているのかを謙虚に考えれば、政党の論理を全面に打ち出すのは、台風災害やコロナで苦しむ県民に対する真摯な訴え方なのか」と疑問を呈した。そのうえで、「(与野党対立といった)国政の話では無く、我々は県民党なんだと愚直に訴えかけるしかない」と述べた。


 自然災害対策

熊谷候補は、災害対策の強化に取り組むとしている。この点について熊谷氏は、「千葉市でやってきた対策を横展開する」と述べ、電力や通信の強靱化など、災害に強い町づくり政策をパッケージ化し、一つ一つ動かしている事を挙げた。

具体的には、台風15号の暴風雨に停電の原因となった倒木は、電線が架かっていると道路管理責任者である市は処理できないルールだったが、それを東京電力と協定を結び、東電と連携して市が処理出来るようにしたことを挙げた。こうした災害協定を東電管内で初めて結んだ自治体が千葉市だった。今は県庁や他市に同様の協定が広がっているという。


千葉市は、避難所となる小・中学校や公民館にソーラーパネルと蓄電池の設置を進めている。民間のエネルギー企業と組んで市の費用負担はゼロに抑え、普段は電気を買う代わりに、災害時には優先的に避難所に電力を回してもらう協定を結んだ。環境省の補助事業を使い、千葉市全体で約200カ所となることを紹介した。

さらに熊谷氏は、動く蓄電池である電気自動車(EV)にも注目している、とし、千葉県中にあるEVをネットワーク化していきたいと述べた。EV車の購入を補助する代わりに(災害時などには)電力を供給しに行くスキームだ。

さらには、FIT(固定価格買取制度)が終了する、いわゆる「卒FIT」後、家庭の太陽光発電による電気はEVに貯め、必要に応じて家に給電する、「V2HVehicle to Home」を普及させるため、EVに加えてV2Hにも補助して、電力のマネジメントが出来る家を増やしていきたいとの考えを示した。

熊谷氏が進めようとしているのは、こうした「ミニ発電所」を県内に増やし、分散型の電力供給システムを構築する考えで、災害時に有効だ。 

■ 中長期的な経済的な復興

熊谷氏の中長期的な経済施策をさらに詳しく聞いた。

成田エリアの経済活性化は、銚子や旭など東総方面での雇用創出に効果がある、と熊谷氏は主張する。

また、圏央道(首都圏中央連絡自動車道)が2024年度に成田までつながることで、圏央道沿いに産業用地を整備することが可能になると述べた。

図)圏央道

出典)国土交通省関東地方整備局

さらに熊谷氏は千葉県は「三方海に囲まれた類い希な県」である、として「海の活用」による「海洋立県」の必要性を説く。そのうえで、「銚子市は世界の風力発電の拠点になり得る。研究拠点を作り関連産業を呼び込みたい」と意欲を示した。

また、漁業だけに終わらない、「海洋文化」を打ち出していきたいと言う。例えば、銚子などの漁師が昔から大漁を祝うときに身にまとう、「万祝(まいわい)半纏(はんてん)」はとてもカラフルで、現代ファッションとして通用するとして、「千葉県のアイデンティティとして確立させたい」と述べた。

ⒸJapan In-depth編集部


■ 千葉の魅力の再発見

東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県をまとめて、一都三県と呼ぶが、熊谷氏は、千葉県がこの呼称を「自他共に認めていること」が問題だと指摘する。半島性を持つ千葉県は明らかに神奈川、埼玉とは違うとの主張で、千葉県を「東京の隣にあるビッグカントリ-」と称した。


コロナ禍で今、仕事の仕方が変わってきているが、熊谷氏は、自然豊かな千葉県で、テレワークやワーケーションができるというスタイルを打ち出していくべきだと言う。都内や横浜に行かなけばいけない時も、千葉ならアクセスは良好だ。

その上で、東京のど真ん中に物産をPRするのではなく、ライフスタイル提案型のアンテナショップを作りたいと述べた。「千葉に住む」ことをアピールしていく考えだ。

そのために、IT企業と組んで共同プロジェクトを進めるとした。5Gのネットワークの整備を進め、リモートワーク環境を充実させていく。

また、東京などから移住や二拠点生活を考える人が物件を探しやすいよう、県行政が仲介していく考えも示した。千葉での暮らしを何回か体験してもらったうえで移住を無理なく決めてもらえば、地元としても受け入れやすくなる、とした。

千葉県は半島性があり、外から人が来づらかったが、他県から人が移住してくることで、「都会化とは違う」千葉本来の魅力を掘り起こしたいという。

例えば、千葉市は首都圏にありながら、「千葉ウシノヒロバ」(千葉市若葉区富田町)という乳業育成牧場がある酪農の街でもある。いまやキャンプやバーベキューも楽しめ大人気だ。

写真)「千葉ウシノヒロバ」

出典)千葉ウシノヒロバ

また、千葉市稲毛海岸の海辺にシーサイドレストランや結婚式場を設営するなど、民間投資を利用した地域活性化も行われている。こうしたプロジェクトを念頭に、熊谷氏は「千葉は東京に近くてもこれだけ自然が残っている。その自然をブラッシュアップし、勝負ポイントにしていく」と力強く語った。

写真)The Surf Ocean Terrace (Seaside Terrace)

出典)The Surf Ocean Terrace


■ インタビューを終えて

コロナ禍の初期から、SNSで積極的に市民に発信、その行動力と決断力を見聞きしてはいたが、実際に会って話を聞くのは初めて。熊谷氏が千葉県をどう活性化していきたいのか、具体的な政策が次々と出てくるのには驚いた。かなり前から考えていたことが伺える。

特に自然災害対策では、国の再生可能エネルギー主力電源化の流れをくみ取り、風力発電に注力する考えや、EVへの蓄電とV2Hの普及など、電力分散化促進策を打ち出すなど、大局的な政策を描いている。

また、産業立地など従来型の経済振興策だけでなく、自然という千葉の最大の魅力の再定義と、民活による産業化、ブランド化を進めようとしている点も魅力的な方向性であり、県民に評価されよう。

県知事選挙に政党政治の論理を持ち込むべきではないというのは筆者の持論でもある。地方選挙においても、有権者はともすれば国政とリンクさせて投票行動を取りがちだが、国政と地方政治は違う。県民が各候補の政策をじっくり見て、何が千葉県の未来にとって必要なのかを考え、投票日に臨むことを期待したい。

(インタビューは2021年1月10日実施)

©Japan In-depth編集部




この記事を書いた人
安倍宏行ジャーナリスト/元・フジテレビ報道局 解説委員

1955年東京生まれ。ジャーナリスト。慶応義塾大学経済学部、国際大学大学院卒。

1979年日産自動車入社。海外輸出・事業計画等。

1992年フジテレビ入社。総理官邸等政治経済キャップ、NY支局長、経済部長、ニュースジャパンキャスター、解説委員、BSフジプライムニュース解説キャスター。

2013年ウェブメディア“Japan in-depth”創刊。危機管理コンサルタント、ブランディングコンサルタント。

安倍宏行

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