首相ぶら下がり、評判悪いわけ
安倍宏行(Japan In-depth編集長・ジャーナリスト)
【まとめ】
・26日夕方の菅首相「ぶらさがり」会見、評判がよろしくない。
・広報官辞任させず、正式会見行わず、記者にキレる等、ミス重なる。
・官邸の広報戦略に疑問符がつく。
26日夕方の菅首相「ぶらさがり」会見がすこぶる評判がよろしくない。何故か。危機管理の観点から見てみよう。
まず第1のミスは、総務省官僚接待疑惑の渦中にいた山田真貴子広報官を辞任させないことだ。東北新社の接待攻勢を受けていたことが明らかになった時点で、内閣のスポークスパーソンとしての役割を果たせないのは明らかだ。それを行わなかったことが第1のミス。
▲写真 山田真貴子内閣広報官 出典:内閣官房
第2のミスは、なぜ正式な記者会見をやらなかったかだ。「ぶらさがり」と括弧をつけたのは、これが業界用語だからだ。一般の人にはなじみがないだろう。通常の正式な記者会見ではなく、記者が取材対象者を囲んで質問をすることをいう。よく国会内などで様々な委員会などが終わった後、議員が廊下で記者に囲まれて話している、あれである。会見をやるまでではないが、記者に話すことがあるときに行うものだ。
今回は6府県における緊急事態宣言解除をもって、国民に語りかける機会だった。内閣としては重要なタイミングだろう。だからこそ、正式に官邸の記者会見場でやるべきだった。それを何故かやらずに「ぶら下がり」で行ったことから「山田広報官隠し」と憶測を呼ぶことになったのだ。メディアがそれを質問することはわかりきっている。会見場でやろうが、「ぶらさがり」だろうが、どうせ質問はでることはわかりきっているのだから、前者が正解なのは明らかだ。
第3のミスは、記者の質問にキレたことだ。イライラしているのは画面を通して誰でも分かった。途中まで比較的冷静に対応しているなと思ったらだんだんと苛立ちがつのってきたのだろう、記者に嫌みを言って去って行った。
メディアの思うつぼである。首相が最後いい放った「さきほどから同じような質問ばっかりじゃないでしょうか」という言葉に怒りが凝縮されている。
記者が同じ質問をするのはもちろんこれまでの答えに納得していない、というのもあるが、そもそも記者の常套手段でもある。それに乗っかるのは愚の骨頂だ。まんまとつられて、怒りを表に出すのは広報戦略上最悪である。
首相が言いたかったのは、冒頭の「国民の大変なご協力によって、その効果は歴然と現れており感染者数が減少している」という部分だろう。
しかし、我慢に我慢を重ねている国民への感謝が伝わるどころか、「不機嫌な顔」だけが国民に伝わってしまった。テレビの怖いところだ。中継を見ていない人も、その後のニュースやワイドショーで何回も何回もそれを見せられる。後悔しても後の祭りだ。
しかし、官邸の広報戦略は一体どうなっているのか。以上3つのミスは決して犯してはいけないものであった。ある意味、基本的なものだ。避けようと思えば避けられるものだった。
どうして誰も首相にそれを進言しないのだろうか。進言しても、もはや誰の言葉も耳に入らないのか、それとも、もう誰もアドバイスをしなくなっているのか。
ある政治家の一言がまだ耳に残っている。
「安倍首相には菅官房長官がいた。菅首相に菅官房長官はいない」
https://nettv.gov-online.go.jp/prg/prg22234.html
▲会見フル動画(政府インターネットTV)
トップ写真:緊急事態宣言一部解除等について会見する菅首相(2021年2月26日) 出典:首相官邸
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この記事を書いた人
安倍宏行ジャーナリスト/元・フジテレビ報道局 解説委員
1955年東京生まれ。ジャーナリスト。慶応義塾大学経済学部、国際大学大学院卒。
1979年日産自動車入社。海外輸出・事業計画等。
1992年フジテレビ入社。総理官邸等政治経済キャップ、NY支局長、経済部長、ニュースジャパンキャスター、解説委員、BSフジプライムニュース解説キャスター。
2013年ウェブメディア“Japan in-depth”創刊。危機管理コンサルタント、ブランディングコンサルタント。