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.国際  投稿日:2021/3/16

米、インド太平洋外交始動


宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)

「宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2021#11」

2021年3月15-21日

【まとめ】

・米のインド太平洋外交が事実上始動する。

・バイデン政権発足後初の「2+2会合」が16日東京で開催。

・バイデン政権のインド太平洋重視を象徴する議題とタイミング。

 

今週、米国のインド太平洋外交が事実上始動する。先週のクアッド首脳会合主催に続き、バイデン政権は国務・国防両長官を東アジアに派遣した。同政権発足後初の日米安全保障協議委員会、いわゆる「2+2会合」が16日東京で開かれ、その後、同様の会合を韓国でも開催する。実は筆者、2+2会合には深い思い入れがある。

それについては後程触れよう。一般に、米国の新大統領が欧州、中東、アジアのどの地域を最初に重視するかはワシントン外交雀の最大関心事だ。従来は、北米大陸、欧州や中東などが定番だったが、今回バイデン政権はインド太平洋地域を選んだ。この背景については、今週の産経新聞コラムに書いたので、ご一読願いたい。

簡単に言えば、同盟国と連携しつつ、強い立場から、米国の国益を守る外交を内外にアピールする場、これが「絵になる」場は、今は何とインド太平洋地域だということだ。その意味でも、日米関係は今や大きく変わりつつある。今回の2+2会合東京開催はそのことを象徴するイベントであろう。

▲写真 クアッド首脳会合でのバイデン大統領、ブリンケン米国務長官、菅義偉首相(2021年3月12日) 出典:Alex Wong/Getty Images

前述の通り、2+2会合の正式名称は日米安保条約の定める日米安全保障協議委員会(Japan-United States Security Consultative Committee, SCC)」だが、発足当初のメンバーは、日本側が外務大臣と防衛庁長官、米側が在京米国大使と在日米軍司令官だった。この点については、あれっと思う向きも少なくないだろう。

このメンバー構成、どう考えても、戦後の「駐留軍」の発想ではないか。当然日本側としても何とかこれを4人とも閣僚級に格上げしたいと考えていたのだが、そのチャンスは安保条約改定30周年となる1990年にやってきた。当時ジェイムズ・ベイカー国務長官の提案により米側参加メンバーが閣僚級に格上げされたからである。

当時、外務省北米局安全保障課(現在の日米安全保障条約課)にいた筆者はその時の模様を克明に覚えている。当時は湾岸戦争の直前で、米側は2+2どころではなかった。彼らの関心は中東だが、日本の貢献は僅かしかない。閣僚級に改組されたとはいえ、2+2会合開催は当時の外務省北米局にとり最大の難事業だったのだ。

そもそも当時は米側閣僚が揃わない。「国防長官と国務副長官または国務長官と国防副長官による2+2なら可能」と言われ、何度かそれを受け入れた。外務省HPには「開催時期は不定期だが、安全保障上の重要な節目に」開かれるとあるが、90年代前半まで2+2は米側閣僚が揃わないため頻繁には開催されなかったのである。

状況が変わったのは90年代後半からだ。1996年12月にはSACO(沖縄に関する特別行動委員会)最終報告発表、97年9月にはガイドライン(日米防衛協力のための指針)改定発表で2+2が開かれた。筆者が北米局日米安全保障条約課長に就任したのは98年8月だが、この頃から2+2会合の開催頻度は増え始める。

1998年9月には弾道ミサイル防衛の技術研究合意、2000年9月にはHNS(駐留軍経費)削減の特別協定署名のために2+2会合が開かれた。筆者はどちらも直接担当したが、特に2000年の会合では準備が徹夜となり、ニューヨーク最高のホテルに宿泊しながら、ベッドで寝たのは30分だけ、という恐ろしい思い出がある。

最近2+2会合はほぼ毎年のように開かれているが、今回の東京での2+2は特に意義深い。バイデン政権のインド太平洋重視を象徴するような議題とタイミングだからだ。日韓との2+2会合開催後、国防長官はインドへ向かい、国務長官はアラスカで中国の外交当局者と会談する。来週はこの一連の動きを総括したい。

〇アジア  

混乱が続くミャンマーで、14日、ヤンゴンにある複数の中国企業の工場が襲撃され、窓ガラスが割られて放火されるなどの被害が出たそうだ。クーデターがあろうがなかろうが、民衆レベルでの対中感情は決して良好ではないことを示すのだろう。中国にとっては決して良いニュースではない。

〇欧州・ロシア 

14日、ドイツ西部2州の州議会選挙で、メルケル首相率いる与党キリスト教民主同盟(CDU)がいずれも過去最低の得票率で敗北したそうだ。これは一体何を意味するのか。彼女は次期総選挙で引退するはずだが、その後のドイツ内政の混乱を暗示するものでないことを祈りたい。

〇中東 

10日、地中海の公海上をシリア向けに航行していたイランのコンテナ船で不審な爆発が起き、小規模火災が起きたそうだ。先日はペルシャ湾でイスラエル船舶が攻撃を受けたが、今回はその報復なのだろう。相変わらず、米イラン間の代理戦争は続いている。この程度の攻撃であれば、想定内のジャブの応酬で済むのだが・・・。

〇南北アメリカ 

米政府高官は、北朝鮮の核開発問題などを巡り、バイデン政権が2月中旬から水面下で北朝鮮と接触を試みているが、何の反応も得られていないと述べたそうだ。このタイミングでのリークは、明らかに韓国の文在寅大統領に対するシグナルだろう。米国は韓国を通さずとも直接北朝鮮とコンタクトできるということだ。

〇インド亜大陸 

特記事項なし。

今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きは来週のキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。

トップ写真:ジョー・バイデン米大統領 出典:Angerer/Getty Images




この記事を書いた人
宮家邦彦立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表

1978年東大法卒、外務省入省。カイロ、バグダッド、ワシントン、北京にて大使館勤務。本省では、外務大臣秘書官、中東第二課長、中東第一課長、日米安保条約課長、中東局参事官などを歴任。

2005年退職。株式会社エー、オー、アイ代表取締役社長に就任。同時にAOI外交政策研究所(現・株式会社外交政策研究所)を設立。

2006年立命館大学客員教授。

2006-2007年安倍内閣「公邸連絡調整官」として首相夫人を補佐。

2009年4月よりキヤノングローバル戦略研究所研究主幹(外交安保)

言語:英語、中国語、アラビア語。

特技:サックス、ベースギター。

趣味:バンド活動。

各種メディアで評論活動。

宮家邦彦

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