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.国際  投稿日:2021/4/9

補選与党完敗 文在寅レイムダック化


朴斗鎮(コリア国際研究所所長)

【まとめ】

・文在寅政権の二重基準、偽善、無能、腐敗に民心が鉄槌下す。

・韓国政界に再編の風。文在寅はレイムダック化へ。

・文在寅政権の反日的政策が変わらないが、日韓関係にとっては好材料。

 

来年の韓国大統領選挙の前哨戦と言われ、文在寅政権への審判と位置づけられていた、4月7日のソウルとプサン市長補欠選挙は、与党「共に民主党」の完敗で幕を閉じた。

事前に行われていた世論調査通り、ソウルとプサン(釜山)の民心は大爆発し、文在寅政権のネロナムブル(手前勝手な二重基準)、偽善、無能、腐敗に鉄槌を下した。

1、選挙結果

選挙過程で民主党が行った新型コロナウイルス災害への給付金バラマキ政策や野党「国民の力」候補に対する露骨なネガティブキャンペーンは通じなかった。投票率はソウルが56%で釜山は52%だった。これは補欠選挙としては歴史的な高い投票率だ。

開票は8日未明までに終了した。ソウル市長補選では野党「国民の力」のオ・セフン(呉世勲)候補の圧勝だった(得票率57.50%)。与党「共に民主党」のパク・ヨンソン(朴映宣)候補(得票率39.18%)に約18ポイントの差を付けた。

釜山市長補選でも野党「国民の力」のパク・ヒョンジュン(朴亨ジュン)候補(得票率62.67%)が「共に民主党」のキム・ヨンチュン(金栄春)候補(得票率34.42%)に約28ポイントもの大差をつけて完勝した。 

呉世勲氏と朴亨ジュン氏はソウル市(25区)、釜山市(16区)の合計41の行政区全てで勝利した。地上波TV3社(KBS、MBC、SBS)による出口調査で、呉世勲氏は40代を除く全ての年齢層で朴映宣氏に誤差範囲以上の差を付けて勝利した。40代でも呉氏が48.3%、朴映宣氏が49.3%と大差なかった。釜山では全ての年齢層で野党候補が勝利した。

昨年4月の総選挙で「共に民主党」はソウル市で合計得票率52.8%を記録し、「国民の力」の前身である「未来統合党」(41.4%)を11.4ポイントリードした。しかし、今回の選挙ではソウル市で呉氏が約18ポイントリードした。ソウル市の有権者動向は、昨年の総選挙から1年で様変わりした。釜山市では昨年の総選挙に続き野党の優勢が確認された。

2、今回選挙の特徴

今回の選挙の特徴は第1に、野党が候補の一本化に成功し、中道勢力をひきつけて完勝したことにある。これは来年の大統領選挙につながる野党「国民の力」の大きな財産だ。

2つ目の特徴は、与党「共に民主党」のなりふり構わない給付金バラマキとネガティブ攻勢に選挙民が耳を貸さなかったことだ。

3つ目の特徴は、野党候補に対する選管、警察、メディアなどによる組織的攻撃が露骨だったことだ。

中央選挙管理委員会(選管)は中立と公平を守らずに、露骨に与党を擁護した。与党の選挙スローガンには甘く、野党にはいちいち難癖をつけたが、こうした選管の偏向した動きはこれまでにはなかった。呉世勲候補の妻が、税金を30万ウオン余分に納税したことまで虚偽記載として選挙日当日投票所に告示した。

また呉世勲候補に対する告発があったとして、投票日に警察が捜査に入ると発表したり、KBSを始めとした地上波テレビ局が与党候補に有利な報道を行ったりした。特にTBSラジオの「キム・オジュンのニュース工場」は露骨だった。年間30億円の予算をもらう公共放送でありながら、与党支持者だけを登場させ、一方的キャンペーンを行った。しかし、今回選挙民は、与党側のこうした露骨な扇動に惑わされることはなかった。

3、選挙後の政局展望

今回選挙での野党「国民の党」の完勝は、今後の韓国政局に大きな影響を与えることになる。その根底には、与党惨敗による文在寅政権の完全なレイムダック化がある。これで政局は一気に大統領選挙に向けて動き出すことになるだろう。その中心にはユン・ソギョル(尹錫悦)前検察総長がいると思われる。

▲写真 ユン・ソギョル(尹錫悦)前検察総長(左)とキム・ミョンス最高裁長官(右)2019年7月26日 出典:Supreme Court of Korea

今後政界再編の風が吹くのは確実な情勢だが、特に野党側の再編が加速すると思われる。「国民の力」主導で再編されることが予想されるが、ユン前検察総長がどのような形でそこに関与していくかによって様々なケースが出てくる。

一方与党は、責任のなすりつけ合いで分裂が始まるだろう。今回の敗北で、前党首のイ・ナギョン(李洛淵)氏は大統領候補から大きく後退した。彼に代わってチョン・セギュン(丁世均)総理など第3の候補が登場する可能性が高くなった。

文在寅派に対抗するイジェミョン(李在明)京畿道知事の動きも活発となるだろう。彼と親文派との対立激化は避けられないと思われる。文在寅大統領から距離を置くだけでなく、脱党を求めるかもしれない。それが受け入れられなければ新党の結成に向かう可能性もある。

今回の選挙結果は、とりあえず韓国における自由民主主義勢力復活の可能性を見せた。これで文在寅政権の反日的政策が変わるとは思われないが、日韓関係にとって好材料であることは間違いない。

トップ写真:韓国・文在寅大統領 出典:Jung Yeon-Je-Pool/Getty Images




この記事を書いた人
朴斗鎮コリア国際研究所 所長

1941年大阪市生まれ。1966年朝鮮大学校政治経済学部卒業。朝鮮問題研究所所員を経て1968年より1975年まで朝鮮大学校政治経済学部教員。その後(株)ソフトバンクを経て、経営コンサルタントとなり、2006年から現職。デイリーNK顧問。朝鮮半島問題、在日朝鮮人問題を研究。テレビ、新聞、雑誌で言論活動。著書に『揺れる北朝鮮 金正恩のゆくえ』(花伝社)、「金正恩ー恐怖と不条理の統治構造ー」(新潮社)など。

朴斗鎮

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