韓国大統領選 尹錫悦候補の当選確率急上昇
朴斗鎮(コリア国際研究所所長)
【まとめ】
・世論調査の支持率やブックメーカー予測で尹候補が李候補を大幅に上回る。
・文政権の「積弊」捜査の意向を示した尹候補に、文大統領が猛反発。選挙戦に公然と介入。
・尹候補当選なら、疑惑まみれの文大統領と李候補は逮捕必至か。
3月9日に投票が行われる韓国大統領選挙は、2月15日に候補の届け出が行われ、公式選挙運動が始まった。それに合わせた各世論調査結果が18日に発表されたが、そのいずれの調査でも野党第一党「国民の力」の尹錫悦(ユン・ソギョル)候補の支持率が、与党「共に民主党」李在明(イ・ジェミョン)候補の支持率を大きく上回った。
■ 李在明候補との差を急速に広げた尹錫悦候補
電話面接方式をとる世論調査企業「韓国ギャラップ」が、2月13日から3日間実施し18日に発表した調査結果によると、支持率は尹候補41.0%、李候補34.0%だった。これまでの「接戦」とは異なり、尹候補が李候補を大きく突き放して初めて誤差範囲外の差となった。
その他、自動応答(ARS)方式の調査でも尹候補の支持率上昇が目を引いた。「リサーチビュー」の調査(15〜17日)では、尹候補48.0%、李候補39.0%と9ポイントもの差となった。17日に公開された「全国指標調査(NBS)」でも尹候補が40%、李候補が31%だった。
尹候補に厳しい世論調査を出していた放送会社3社(「KBS」「MBC」「SBS」)の合同調査(15〜16日)も尹候補39.2%、李候補35.2%となった。
▲写真 与党「共に民主党」の李在明候補(2022年2月15日 韓国・ソウル) 出典:Photo by Chung Sung-Jun/Getty Images
■ ほとんどの世論調査で李在明候補を圧倒
韓国の新聞社「ヘラルド経済」(12日)は、2月第2週に報道された25の「世論調査」を総合的に分析した結果を発表したが、それによると25のうち24の調査で尹錫悦候補が李在明候補を上回り、残り一つは同率だった。尹候補が最小0.9p〜最大12pの差で李候補を上回っていた。
当選可能性では尹錫悦50.0%、李在明42%、そして政権交代支持は55.2%、政権維持は40.5%となった。また文政権への積弊捜査必要アリは56.3%、捜査は政治報復だ、が40.6%だった。
1992年以降、法定公式選挙期間に入った時点で優勢だった大統領候補が敗北した例はない。尹候補によほどの失敗か選挙での不正がない限り、尹候補の勝利は60%以上の確率で固まったと見られている。
■ 英国ブックメーカーも尹錫悦勝利を予測
世論調査だけではない。興味深いのは英国ブックメーカー「スマーケッツ」でも尹錫悦候補勝利を予測した。このブックメーカーの賭け予測は、2020年の米国大統領選挙でのバイデン勝利、英国のヨーロッパ連合脱退、2020年韓国の総選挙結果を的中させている。
1か月前の当選可能性予測では尹錫悦候補に賭けた人が34.01%、李在明候補に賭けた人が74.63%とダブルスコアだったが、2月11日現在では尹錫悦候補に賭ける人が63.6%、李在明候補に賭ける人が35.21%と1か月前とは完全に逆転している。
配当率は尹錫悦候補1.44、李在明候補3.20となっている。李在明候補の当選可能性が尹錫悦候補の3分の1に過ぎないということだ。
■ 李候補敗北を真っ先に察知した?文在寅
李在明候補の劣勢が鮮明となる中で、文在寅大統領は李在明候補の敗北を予知してか、大統領選挙戦に公然と介入してきた。そのキッカケは、尹錫悦候補が、中央日報とのインタビュー(2月9日)で、大統領に就任すれば文在寅政権の「積弊」を捜査すると述べたことだった。
この発言を受け、大統領府高官は2月10日、記者団に「選挙戦略なら低劣であり、所信なら危険」と強く批判した。また、文大統領も10日、「現政権を根拠もなく積弊捜査の対象、違法に追いやったことに強い怒りを表す」と激怒し、謝罪を求める異例の行動に出た。尹錫悦の勝利を真っ先に察知したのは、英国のブックメーカーではなく、恐怖におののく文大統領その人であったようだ。
この発言に対して野党「国民の力」などは、厳正中立を守らなければならない大統領が「選挙介入を行った」と猛烈に反発している。
▲写真 文在寅大統領 出典:Photo by South Korean Presidential Blue House via Getty Images
■ 尹候補優勢で退任後の「別荘行」を怯える文在寅
数々の不正疑惑を持つ文在寅大統領は今、尹錫悦候補優勢に怯えている。主要な疑惑だけでも、慶尚南道蔚山(ウルサン)市長選に介入した疑惑、月城(ウォルソン)原発1号機廃棄のための経済性過小評価疑惑、退任後の住居購入にあたる土地用途の変更などがある。
そうしたことから彼は、退任後の捜査を恐れて露骨な対策を講じてきた。国家情報院や検察権力の取り上げ、文政権に批判的な高位公職者を捜査する「高位公職者犯罪捜査処」の立ち上げなどはその代表的な例だ。尹錫悦候補を検察総長職から追い出したのも防御対策の一環だった。
だが、尹錫悦候補が大統領になれば、「大庄(テジャン)洞開発疑惑」を始め疑惑まみれの前科4犯李在明候補とともに、「塀の中の人」になるのは確実だと見られている。
トップ写真:最大野党「国民の力」尹錫悦候補(2022年2月15日 韓国・ソウル) 出典:Photo by Chung Sung-Jun/Getty Images
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この記事を書いた人
朴斗鎮コリア国際研究所 所長
1941年大阪市生まれ。1966年朝鮮大学校政治経済学部卒業。朝鮮問題研究所所員を経て1968年より1975年まで朝鮮大学校政治経済学部教員。その後(株)ソフトバンクを経て、経営コンサルタントとなり、2006年から現職。デイリーNK顧問。朝鮮半島問題、在日朝鮮人問題を研究。テレビ、新聞、雑誌で言論活動。著書に『揺れる北朝鮮 金正恩のゆくえ』(花伝社)、「金正恩ー恐怖と不条理の統