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.国際  投稿日:2021/3/30

用意周到、中国外相中東歴訪


宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)

「宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2021#13」

2021年3月29日-4月4日

【まとめ】

・波乱の米中会談後、中国外相次々と中東諸国を訪問。

・訪問先は米との関係が思わしくない湾岸アラブ産油国が中心。

・米の新疆綿輸入阻止・制裁行動も今後の米中関係の火種となる懸念。

 

3月18-19日にアラスカで行われた米中外交担当トップ同士の「意見交換」は開始早々から双方にとって散々な出来だった。特に、中国側は米中「戦略対話」をすべく、「わざわざアンカレッジまで出向いてやった」と思っていただろうから、米側のホスト(主人)ぶり、というか、客人に対する「仕打ち」には、怒り心頭だったに違いない。

されど、あの米中会合が「想定外」だったとは思わない。その証拠に、米中露の外相は先週欧州、東アジア、中東に飛び、アラスカ後の状況に備え始めているではないか。特に、中国外相の中東歴訪は周到に計算されており、とても「付け焼刃」の産物とは思えない。詳しくは今週の産経新聞コラムに書いたので、ご一読願いたい。

クロノロジー的には次のような流れとなる。

3月12日 クアッド首脳テレビ会議

16日 日米2+2会合(東京)

18日 米韓2+2会合(ソウル)

18~19日 米中「意見交換」(アラスカ)

22~23日 中露外相会談(桂林)

23~24日 米国務長官のNATO外相会合参加など(ブラッセル)

24日 中国外相のサウジ訪問

25日 露外相の韓国訪問

中国外相のトルコ訪問

26日 中国外相のイラン訪問

その後30日までバーレーン、UAE、オマーンを訪問する予定だ。なるほど、中国外相の訪問先は、米国との関係が微妙な国と湾岸アラブ産油国を中心に選ばれている。いくら中国に力があっても、こんな日程、簡単には実現しない。中国はアラスカでの意見交換の結果を早くから予測し、次の手を周到に準備していたのだろう。

今週もう一つ、中国関係で気になったのが欧米有名ブランド企業による新疆産綿花のボイコットと中国政府による報復措置だ。報道によれば、「中国の消費者たちはH&Mやナイキといった国際的なブランドの不買運動をしている。ボイコットされているのは新疆ウイグル自治区の綿を使わないと約束したブランドだ」そうだ。

▲写真 新疆ウイグル自治区での綿花収穫 出典:Servais Mont/Getty Images

米国が新疆綿の輸入を阻止すると発表したのは昨年12月、トランプ政権の時代だ。中国ウイグル自治区の綿花は「奴隷労働」の結果だという。「新疆生産建設兵団(一種の工兵隊か)」という準軍事組織は既に財務省の制裁対象になっているが、米政府は米税関・国境警備局に同兵団が生産した綿を留め置く権限を与えたようだ。

「新疆綿」は良質で、業界では世界三大ブランドの一つらしい。恥ずかしながら、それは知らなかった。しかも、中国産の綿花の大半はウイグル自治区産だという。「奴隷労働」かどうかは不明だが、あの水の少ない中央アジアの一角で、オアシスに依存してきた遊牧民族の土地に、「綿花栽培」という農業を持ち込んだのは漢族である。

中国外務省は、同自治区内労働者が「自らの希望に基づき職業を選択」していると主張する。だが、農耕民族が遊牧地域に入り、準軍事組織を通じ、遊牧民を雇用し、良質の綿花を生産することの経済的、政治的合理性には議論の余地もあろう。先週も書いたが、最近中国は「売られた喧嘩は倍返しで買う」傾向が強いので要注意だ。

〇アジア

ミャンマーでは軍による反対派への暴力がエスカレートし、多くの犠牲者が出ている。米大統領は「完全に常軌を逸している」と強く非難、追加の制裁措置を検討し始めた。どうやら、ミャンマー国軍は大きな判断ミスを犯したようだが、同国に軍以外のまともな政治組織が見当たらないことも事実。大規模内戦にならないことを祈ろう。

判断ミスと言えば、北朝鮮も同様だ。今回新型「弾道ミサイル」の発射テストを再開したようだが、これって4年前のトランプ政権時代以前と基本的に同じ。ピョンヤンにはこれ以外の手法はないのか。「核保有」を既成事実化し、「非核化」ではなく「核軍備管理」交渉に持ち込み、現体制の生き残りを賭ける姿は変わりようがない。

〇欧州・ロシア

米国務長官のブラッセル訪問に対する欧州側反応は「温かく歓迎するが、中身はこれから」であり、米側も今回は「聞き手」に徹したようだ。米側は「中国の脅威」を売り込んだが、欧州側はNATOの信頼性、アフガニスタン、イラン、独露パイプラインなどにより関心が高かった。中国に関する米EU間の温度差は意外に高いと見る。

中東

スエズ運河で座礁した巨大コンテナ船がようやく「動き始めた」らしいが、中東ではその程度で安堵してはならない。行けば分かるが、スエズ運河の水路は驚くほど狭い。昔はあんな巨大船など想定していなかった。責任がどこにあるかはこれから調査すべきだが、エジプト当局が責任を認めることは「決して」ない。これが中東である。

〇南北アメリカ

米国で対アジア系ヘイト犯罪が急増している。3月16日にアトランタ近郊の3つの(恐らくは)イカガワしい「スパ」で連続銃撃事件が発生、死亡者8人のうち、6人がアジア系(4人が韓国系)の女性だったという。これは人種差別であると同時に、アジア女性への性的搾取の問題でもあるのだが、この点メディアは詳しく報じていない。

〇インド亜大陸

インドで新型コロナの第二波が始まりつつある。27日、過去24時間の新規感染者が6万2000人を超えた。2月末までは連日1万人台だったから、危機的状態だ。「第1波」のピークは昨年9月中旬の一日約10万人だったから、インド政府の危機感は半端ではなかろう。

今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きは来週のキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。

トップ写真:バイデン大統領(当時副大統領)、習近平国家主席(当時副主席)(2011年8月19日北京) 出典:Lintao Zhang/Getty Images




この記事を書いた人
宮家邦彦立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表

1978年東大法卒、外務省入省。カイロ、バグダッド、ワシントン、北京にて大使館勤務。本省では、外務大臣秘書官、中東第二課長、中東第一課長、日米安保条約課長、中東局参事官などを歴任。

2005年退職。株式会社エー、オー、アイ代表取締役社長に就任。同時にAOI外交政策研究所(現・株式会社外交政策研究所)を設立。

2006年立命館大学客員教授。

2006-2007年安倍内閣「公邸連絡調整官」として首相夫人を補佐。

2009年4月よりキヤノングローバル戦略研究所研究主幹(外交安保)

言語:英語、中国語、アラビア語。

特技:サックス、ベースギター。

趣味:バンド活動。

各種メディアで評論活動。

宮家邦彦

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