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.社会  投稿日:2021/4/25

イジメと「迷惑系」厳罰化急務「墓石安全論」を排す その3


林信吾(作家・ジャーナリスト)

「林信吾の西方見聞録」

【まとめ】

・20日、18-19歳の犯罪者を「特定少年」と扱う法改正案が衆院通過。

・小中学校で頻発するイジメに対する法整備を急ぐべき。

・被害者の自殺や重大事故が「起こる前」の対応が必要。

 

来年4月に改正民法が施行され、18歳以上が成年となる。成人式はどうなるのか、とか議論が尽くされていない部分もあるようだが。

これに先駆けて、犯行時18〜19歳であった犯罪者について「特定少年」として扱うという法改正案が、4月20日に衆議院を通過した。

改正民法と同時の施行を目指すもので、実現すれば、逮捕・起訴後には、現行の少年法で禁じられている実名報道も可能となる。

「未成年の殺人犯を少年法で守るのはおかしい」「未成年でも殺人犯は死刑に」といった議論は前々からあったが、私は、「選挙権の付与とセットでなければ、その議論は支持できない」という立場を崩すことはなかった。

理由は簡単で、政治参加の機会を与えられていないのに、悪事に手を染めた時だけ「一人前」の扱いを受けるというのでは、法の下の平等に反するからである。いずれにせよ今は18歳以上に選挙権が与えられているし、未成年者による凶悪犯罪が後を絶たない事実にかんがみても、厳罰化に異を唱える人はあまりいないと思う。

実名報道についてだが、もともとこれは少年法で禁じられているとは言っても、罰則規定などはない。1989年に起きた「女子高生コンクリート詰め殺人事件」がマスメディアで大きく取り上げられる中、少年法に対する問題提起的として『週刊文春』が、事件当時16〜18歳であった主犯格4人の実名を公表した。

そのことを批判する声はほとんど聞かれなかったが、当時海外にいて、もっぱら報道を受け取る立場であった私は、事件報道としての問題点は別のところにあるのではないか、と考えざるを得なかった。

被害者は当時17歳の高校3年生だったが、1988年の暮れから、40日間にわたって犯人の一人の自宅に監禁され、繰り返し凌辱された末に命を絶たれるという事件であった。彼女は実名と写真を公表された上で、裸にされてあんなことをされた、こんなこともされたと、まったくひどい書き方をされていたのである。後日この事件をモチーフにしたアダルトビデオまで製作されたが、遺族からの強硬な抗議によって発売中止になったと聞いている。

ビデオは論外としても、実際に私は(酒席での話だから名前を出すのは控えるが)、別の週刊誌の編集幹部から、「あれはねえ。被害者が美少女だったということもあって、メディアが欲情してしまった、という面があったように思うね」と聞かされたこともある。

事件報道をめぐる問題は、いずれ稿を改めて論じさせていただくとして、私が昨今良く思うのは、18歳以上20歳未満の犯罪者に対する厳罰化より、より低年齢の、具体的には小中学校で頻発するイジメに対応する法整備を急ぐべきではないか、ということである。

今年2月にも、北海道旭川市でイジメを受けた中学2年生の女子生徒が自殺に追い込まれる事件が大きく報じられた。旭川市では1996年にも、やはり女子中学生が、同じ学校のいわゆる不良グループから繰り返し性的暴行を受けていた事件が発覚しているが。これはまあ単なる偶然だろう。

ただ、1996年、2021年ともに、加害者への処分がきわめて甘かった上に、学校側の対応が不誠実極まるものであったという点は指摘しておきたい。

1996年の事件では、被害者をレイプした実行犯が少年院送りとなったが、あとは総額数百万円の慰謝料が支払われて決着してしまい、2021年の事件では、自殺した女子生徒に裸の画像を送るように強要した上に拡散したとして、当時14歳未満であった「触法少年」1人が厳重注意処分となっている(罪状は児童ポルノの所持)。人ひとり自殺に追いやって、叱られただけなのだ。

しかも市の教育委員会は、こうした処分が下された後になっても、「(イジメの有無について)市教委の認識とは異なる」などとコメントし、あらためて調査するのだという。ちなみに女生徒の葬儀には、学校や市教委の関係者は誰一人顔を出さなかった。言うなれば女生徒を見殺しにした市教委の独自調査などではなく、警察が介入できれば、学校や加害者側の対応も、また違ったものになったのではないか。

さらに言えば、こうした問題は特定の学校や自治体に限られてなどいない。

最近ではイジメに対応する私立探偵までいるようだが、彼らの報告によれば、小学校内で(つまり加害者・被害者ともに小学生であるところの)集団レイプ事件まで、しばしば見受けられるようになってきているという。

これについて「イジメの範疇を超えている」と語る人もいるようだが、私はその言は認めない。性暴力をともなわなければ許容範囲だという論理になってしまうではないか。

ここでも念のため述べておくが、私は14歳未満の少年にも刑事罰を科して実名報道するべき、と主張するものではない。現状、児童相談所に「触法少年」として報告し、説諭もしくは注意処分(要するにお説教)しかできないところ、いじめの事実が露見した時点で、短期間でも学校から隔離する「再教育システム」のようなものを適用できるようにしてはどうか、と考えているのだ。

最も重要なのは、被害者が自殺に追い込まれるとか、取り返しのつかない事態を招く前に対応することだ。

▲写真 イメージ 出典:Artur Debat/Getty Images

同時に、ネットで跳梁する「特定班」や、特定した加害者の自宅に「突撃」する一部ユーチューバーも、ちゃんと取り締まったほうがよいのではないか。当人たちは正義の味方を気取っているようだが、まったくの別人を「特定」してしまって訴訟沙汰になるなど、すでに実害が出ているし、突撃(ネットでは凸と表記される)に至っては単なる近所迷惑でしかない。

たとえ本当に「特定」できたのだとしても。秋葉原連即殺傷事件の犯人の弟が自殺に追い込まれた例でも分かるように、そうした行為はイジメと悲劇の連鎖しか生まない。そうであるなら、新たな犠牲者が出てしまう前に、厳罰化をも視野に入れた法体系の見直しを急ぐべきではないだろうか。

これはユーチューバーとは少し違うようだが、いわゆる「撮り鉄」も問題だ。テツ(鉄)とはこの場合、鉄道オタクのことで、もっぱら列車の写真を撮ることを楽しみにしている人たちを撮り鉄と呼ぶらしい。

問題はそうした撮り鉄らが、よりよい撮影ポジションを確保するためと称して、立ち入り禁止の立て札を無視したり。はなはだしくは線路わきの樹木を切り倒したり茶畑を踏み荒らしたりする例が後を絶たないということだ。

無許可で他人の持ち物であるところの木を切ったり、農産物に被害を与えるのはれっきとした犯罪だが、その以前に、鉄道の安全運航に支障をきたすような行為は断じて許されるものではない。

これも重大な事故が起きる前に、厳罰化をもってのぞむ必要があるのではないだろうか。

その1その2

トップ写真:学校(イメージ) 出典:Buddhika Weerasinghe/Getty Images




この記事を書いた人
林信吾作家・ジャーナリスト

1958年東京生まれ。神奈川大学中退。1983年より10年間、英国ロンドン在住。現地発行週刊日本語新聞の編集・発行に携わる。また『地球の歩き方・ロンドン編』の企画・執筆の中心となる。帰国後はフリーで活躍を続け、著書50冊以上。ヨーロッパ事情から政治・軍事・歴史・サッカーまで、引き出しの多さで知られる。少林寺拳法5段。

林信吾

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