「全国40万女性党員のハブになる」自民党女性局長吉川ゆうみ参議院議員
安倍宏行(Japan In-depth編集長・ジャーナリスト)
「編集長が聞く!」
【まとめ】
・自民党女性局は昭和30年から。国民と国政とをつなぐハブ的存在。
・40万人の自民党女性党員は、社会的・相対的に立場の弱い人の窓口。
・女性・子供の貧困、児童虐待、ワクチン副反応への懸念などに取組むと共に、女性議員を増やす活動も。
コロナ禍で女性の自殺が増えている。労働時間の短縮や雇い止めなど、女性が多い職場へのしわ寄せなどによる経済的な不安や困窮等も大きな原因と言われている。そうした中で、自民党女性局はどのような役割を果たしているのか。去年局長に就任した吉川ゆうみ参議院議員に話を聞いた。
■ 女性局の役割
安倍: 女性局は昭和30年からあって、吉川さんは93代目ですね。 女性局はどんな仕事をしているのですか?
吉川氏: そうですね。扇千景元参院議長や現在の山東昭子議長も女性局長でした。男性が局長だった時もあります。今、女性局役員のうち半分は男性で、青年局長出身者も何名か入っています。女性が活躍しやすく生きやすい社会をつくるには、人口の半分の男性の協力や理解なくしては成しえません。理解ある男性議員を増やす意味でも男性議員には積極的に役員になって頂いていますし、青年局とも連携しながら様々な活動を進めています。
私は、党の女性局は、全国の皆さまと国政とをつなぐハブ的存在だと思っています。
自民党には組織運動本部というところがあり、女性局のほかに青年局、団体総局などがあり120万党員を目指しています。その中には約40万人の女性党員が全国にいて、そのうち700名以上が都道府県議会、市町村議会の地方議員です。そういう方々の声をお伺いして吸い上げながら党や政府としての政策・施策、予算に繋げていくとともに、政府の政策を地方議員の先生方や全国の自民党 都道府県支部の女性局を通じて還元・共有し、「自民党員だったから目の前の問題が解決した。実際に国の政策や制度となった。自民党で良かった!」と思っていただけるような、全国のお一人お一人と国政をつなげる活動と、自民党を理解して下さる女性の方々を増やすための活動をしています。
■ 党員開拓
安倍: 新規の党員開拓はどうやっているのですか?
吉川氏: まずは、これまで政治と近くなかったり興味がなかった方々に、「いったい自民党は何をしているのか」を知っていただく必要があります。女性党員の層が薄いところに対して、自民党はこういうことをしていますとか、みなさんの意見もちゃんと聞きますよ、等を訴えています。私が局長となってから、子育て世代の声を聞く「ママトーク」や、学生や20代・30代の女性の声を聞く「ユーストーク」を始めました。
先日も「ユーストーク」をやり、女性の大学・大学院生と意見交換や日々感じる不安や不満、要望を伺う会を行いました。また、こども庁の話もありますが、「ママトーク」では、子育て中の母親の皆さんの日頃の悩みや問題・課題などを聞いて、私たちはこういう活動をやっていますとしっかり知らせていくことで、「自民党は本当はやってくれているんだ!」「私たちの声が実際に届くんだ!」と信頼して下さる方々を増やすことができるように活動しています。
女性局で政策を実現していくこともありますが、女性局は自民党の政務調査会などの政策を行う組織ではなく、組織運動本部の全国と繫がっている局として、全国の女性局の皆さんからお声や情報を得て、それを政策に繋げていき、その結果出来た政策や、行政で作る施策、党の方針や活動などを全国の皆さんにお知らせしたりお戻ししたり、共有していくのも女性局、そういうハブ的な役割を担っていると思っています。40万人の女性党員の皆さんをはじめとする女性の方々だけではなく、子供やLGBTの方、障がいを持つ方も含め、社会的に相対的に立場の弱い方々の窓口だと思っています。
安倍: 40万人は推移をみると増えているんですか?
吉川氏: だいたい横這いか微増です。これまで政治が身近でなかった方々からすると、「党員になる」というのはハードルが高い場合があるようですが、党員を増やしていくには、まずは理解者や応援団を増やしていくことが重要だと思っています。党員になるには年会費4,000円(家族は2,000円)がかかるのですが、「ユーストーク」「ママトーク」世代には、電子マネーやQRコード払いなどの方が使い勝手が良いという声も多いので、今後はそういうことも検討していかなければならないのかもしれないとも思っています。
安倍: 有権者の意見の吸い上げもデジタル化していかないとだめですね。
吉川氏: そうですね。コロナ禍によって、社会の価値観やあり方は大きく変わり、大変なご苦労をされている方々が日本中にたくさんいらっしゃるかと思います。いま私たちは、その方々にいかに寄り添った、かつ早急な支援を行うことができるかを考え、活動している毎日ですが、他方、社会のあり方が変わったがために情報交換や情報共有に有利になった点もあります。対面は出来なくても、逆にオンラインを活用して、地元のNPOや子育て団体の方とお話しすることも可能となりました。
コロナ禍でパートやアルバイトのシフトが減るなどして経済的に困窮されている方々に支援制度をご紹介したり、ワクチンについてのご心配ごと等についてヒアリングすることもできるようになりました。また、これまで年に数回しか会合を行うことができなかった全国の女性局の皆さんや女性議員との勉強会や会合を、オンラインを活用することで月に何度も行うことができるようになりました。
安倍: コロナ禍で困っている人たちに情報をタイムリーに提供することが重要ですね。
吉川氏: その通りです。私たちは、地方議員の皆さんにも自民党や政府の政策をもっと知ってもらい、自らの自治体ではどのような対応になっているのかを把握し、出来ていないこと等があれば進めて貰うために地方議会で質問をして頂く仕組みもスタートしました。
例えば、文科省の施策は最終的には市町村の教育委員会が行ったり、厚労省の施策の実施主体は都道府県や市町村だったりするわけですから、各自治体で取り組んで頂かなければどうにもならないことが多くあります。そういう場合は、地方議員の先生方に、自分の自治体はどうなっているのかを確認して頂き、足らざる部分があれば要望をして頂いたり議会で質問して頂くなど全国で網羅的にしっかりと取り組んでいくことが重要となります。
ですから、地方議会の先生方が議会で質問してもらえるように勉強会を行い、勉強会の資料には議会質問案を付けるなどして、自治体の現状に合わせながらも情報共有はしっかりと行い、足並みを揃えた取り組みができるように心がけています。
■ 女性・子供の貧困問題
安倍: コロナ禍で女性の貧困問題が深刻です。雇い止めや解雇など大変な状況になっていると思いますが、そのような声は出ていますか?
吉川氏:そうですね。やはり声として上がっていましたので、これについても勉強会の動画配信や女性局でチラシを作り、全国の地方議員をはじめ女性局の皆さんから、身近に該当する人がいないか、声をかけ、情報を拡げてもらえるよう依頼をすることで対応をしてきました。
雇い止めやパート・アルバイトのシフト減となり、潜在的失業状態に陥った方は、あるシンクタンクによると推計約90万人だということです。しかし、当の本人は経済的に困窮して「大変だなぁ」と思っていても、政府の生活困窮者向けの支援策の対象であることに気づいていなかったり、公的にお金を貰える支援があることを知らなかったりするのです。
例えば、パートやアルバイトの人は会社から休業手当をもらえないと思っている人が多いのですが、パートやアルバイトの方が休業ではなく本当はシフトが減っただけでももらえる。あるいは会社が支払ってくれない場合には、自分で申請して受け取る事ができる新型コロナウイルス感染症対応休業支援金・給付金という制度がありますが、多くの方が知らず受け取れるお金を受け取れずに苦労されているのです。インターネットでの動画配信やSNSなどでの情報に加え、実は身近な人からの口コミは効果が大きいため、チラシなども活用したり工夫をしています。
先日も、上限金額まで全額を国が負担する貧困家庭支援のこども宅食や見守りの「支援対象児童等見守り強化事業」や、資金の4分の3を国が出してくれる「地域女性活躍推進交付金」という新しい制度を内閣府に説明をしてもらった動画を配信しました。女性の貧困問題や子どもを助ける活動をしているNPO法人などに資金援助する施策です。「地域女性活躍推進交付金」は、市町村が4分の1を持たなければいけないと言っても、市町村分の持ち出しは殆どない形でできるため、どちらもコロナ禍で困窮する女性や子どもなど社会的弱者に寄り添った画期的な施策です。しかし、多くの自治体でそれらの制度の存在を知らないか、知っていても手を挙げていない、または対象はNPO法人等ですが申請は市町村という事もあり、NPOから行政に依頼しにくい等の現状を知り、女性局として動画配信などを行い、特に地方議員から行政に知らせてもらえるよう、全国に周知しています。
他の制度もたくさんあり、例えば子供の貧困問題についても、勉強会をYouTubeで動画配信したら、それをきっかけに申請をしてくれた自治体もありました。
オンラインで繋ぐ勉強会や、YouTubeでの動画配信、全国の女性局へのメール送信や、党員は女性局のイントラネットから資料もダウンロード出来るようにする形で全国とこれまで以上に繋がりを厚くし、コロナ禍で困窮する方々の声を伺い、また様々な支援制度をお伝えするように尽力しています。
■ 現在取組んでいる重点課題
安倍: 今一番何に力を入れていますか?
吉川氏: 本当にお困りの方の声に、私たちがしっかりと耳を傾けること、そして、責任与党としてそれらを政策に落とし込んでいくことや、その仕組み作りに一番力を入れています。地味な仕事かもしれませんが、私たちは国民の皆さまの負託を受けて皆さまのために日々働いています。その仕組みをしっかりと作っておくことで、全国の生のお声をより多く政策に繋げることができ、ひいては自民党への信頼をより大きくすることができると確信しています。
シンクタンクによると「政府はコロナ禍において現状への対応のために必要と思われる政策はほとんど打ち出していると思うが、問題は、それを国民が知らないこと」とのことです。「その橋渡し役を私たち自民党女性局がやっていきましょう!」と言っています。
▲写真 Ⓒ吉川ゆうみ事務所
■ 児童虐待問題
また、女性局として力を入れてきた課題は、「児童虐待問題」です。平成22年に谷垣禎一先生が幹事長だった頃に、児童虐待問題を扱う母体がなかったので女性局でやらないか、ということからスタートし、それ以来10年間ずっと女性局で熱心に取り組んできました。「189」の「オレンジリボン」のダイヤルも元々は10桁の番号だったのですが、3桁の番号は、救急や消防・警察などの番号で取得するのはものすごく大変だったのですが、取ることができ、さらに一部有料だった部分も、最近無料で利用出来るようにすることができました。
児童虐待には、「身体的虐待」「性的虐待」「ネグレクト(養育の怠慢・無視)」「心理的虐待」の4つがあります。例えば、教師によるわいせつの問題や、「日本版DBS」(Disclosure and Barring Service:教育や保育など子どもと関わる職場に性犯罪者を立ち入らせない仕組み)など、女性局としても長年取り組んできた児童虐待の問題なので、しっかりやっていこうと思っています。
また毎月11日や、11月が児童虐待月間なので、その時には全国の女性局で活動をしています。特にコロナ禍でこの問題が深刻化している側面もあるので、さらに注力しているところです。
具体的には、教師がわいせつ事件を起こしたことを教育委員会がきちんと官報に載せてくれないと文科省は情報を集められません。千葉県では(虐待された)人が誰かわかってしまうといけないので載せなかった、などということがあり、結局その前科者が他府県に移って再度同様の事件を起こすなどということもあるので、その点に関しては教育委員会・市町村もしっかりして頂かなければなりません。地方行政でしっかりやってくれないとこの問題は進みませんよと啓発していますし、今国会で議員立法を通せるよう、自民党でも動いています。
特に自民党の全国の都道府県連合会を通じて、市民の皆さんが通報することを戸惑わない意識作りもしています。もし間違えで通報してしまっても通報された方・通報した方が守られる仕組みづくりも並行して進めています。おかしいと思った時に声をあげられる意識作りを進めたいです。
近年、通報の件数も増えていて、問題が問題として明るみに出てくるようになったことは良いことだと思います。「189」のダイヤル番号も通報のハードルを下げることに寄与していると思われ、自民党 女性局で長年取り組んできて良かったと思っています。
■ 新型コロナワクチン
安倍: 女性の間にはワクチン接種に対する懸念もあるようです。
吉川氏: 参議院自民党では、世耕幹事長の元、各都道府県の参議院議員が都道府県内の首長にワクチン接種についての要望や不安、課題などについての聞き取りを行いました。また私の事務所でも世代を超えた100名近い女性にワクチン接種についてのヒアリングを行いましたが、やはり一番多い不安は副反応についてです。ワクチンに関しては3月に小林史明内閣府大臣補佐官や、自民党女性局政策部副部長の自見はなこ参議院議員にオンラインで勉強会をしてもらいました。また、党の情報誌「りぶる」にて、河野太郎ワクチン担当大臣と私との対談も実施し、妊産婦さんについてや副反応の問題等についても議論しました。これからも分かりやすい形で皆さまに周知していくことで、皆様の不安を払拭して行きたいと思っています。
自民党として「ワクチンのイロハ」もメールで全国の女性局に配っており、周囲の方々へ配布してもらう動きを取っています。河野大臣はやはり妊産婦も出来ればワクチンを打って欲しいとのことで、海外では妊産婦や授乳中の人で副反応はほとんど出ていないのでこれから妊娠したい人や授乳中の人でも、持病があるなどよほど心配な人以外は打って欲しいと仰っていました。もちろん最終的に判断するのはご自身なので、私たちとして決断に資する正しい情報を伝えていかなければならないと思います。
例えば、ワクチンというものは、COVID-19のワクチンに限らずインフルエンザでも、「感染予防」効果は実証されておらず、「発症予防」「重症化予防」の効果が期待されるものです。しかし「ワクチンを接種したら感染しない」と思っている方も多くいらっしゃいます。このように、基本的なことですら正しい情報がまだまだ周知されていないのが現状ですので、正しい情報をきちんと伝えられるように動きたいと思っています。
■ 女性議員を増やす活動
安倍: 女性議員の少なさは問題です。
吉川氏: それについても精力的に活動をしているところです。
よく「自民党は女性候補者の数値目標を出さないのか」と言われますが、特に国や都道府県の場合、私たち与党は、ほとんどの選挙区に既に現役議員がいます。女性の候補者を増やすために現役で活躍している男性議員を云々というのは有権者に対しても許されることではありません。空白選挙区が多ければ「候補者の○割は女性です!」と新人の女性候補を出すことができますが、自民党の議員がいない選挙区が少ない私たちはそんなことは出来ず、「与党のジレンマ」があるわけです。このことも、国民の皆さまには知って頂きたいと思います。
その中でも、女性候補を増やす様々な取り組みを積極的に行っています。2017年、当時の高階女性局長のもとで女性局長代理をしていた際に、「自民党の薄い層はどこだろう?」という事で様々な調査や検証を行い、「政治に興味がない、または興味があっても知る手段がない」方々に政治や自民党を身近に感じてもらうため、「プレミアム・ウィメンズクラブ」という会員制で定期的に行う政治塾をスタートしました。途中、「女性未来塾」と名称を変え、現在、述べ会員数は1,000人を超えています。
特に、女性局では昨年の9月から「女性未来塾」の中で「女性候補者育成コース」というのを作り、実際に選挙に出て議員として仕事がしたい人を対象に、即戦力として活動するための講座を設けています。第1期生として49人が終了したところで、これから2期生の講座が始まるところです。1期生からは既に数名の地方議員が誕生しています。
また、私たち自民党は、自らの政党の女性議員を増やすこともさることながら、全国の地方議会の女性議員や若手の議員の方々がより政治家として仕事をしやすくなるように、また、これから政治を志す人達が増えていくための行動もしています。
森まさこ参議院議員が委員長をつとめる「女性活躍推進特別委員会」を中心に、都道府県議長会、市議会議長会、町村議会議長会の「三議長会」に議会の「標準会議規則」に出産で欠席の際の「産前4週間、産後6週間」の期間の明記や、「出産立ち会い」や「介護」「看護」の欠席事由の追加などを作って頂きました。
こういった、政治家が働きやすい環境を整えることで、女性や若い人が政治家を志しやすくしていく為の活動も責任与党として積極的に行っています。
■ インタビューを終えて
女性局の活動そのものについての報道が少ないので、実際に局長に話を聞いたわけだが、想像以上にその活動は幅広い。女性党員や支援者の生の声を吸い上げ、それを党として政府に伝えていく、そのハブとしての役割を果たそうという吉川局長の意気込みは良く伝わった。
女性だけでない子供や障害を持つ人など様々な社会的弱者の声を拾い上げることは、このコロナ禍の中、極めて重要だ。与党としての責任を全うするためにも、女性局の果たす役割は重い。
一方で女性議員の少なさは問題だ。国会議員のみならず、地方議員でも女性議員の比率は1割前後の低さであり、これでは女性らの声を政策に反映させる力に欠ける。
私達メディアも女性議員の活動をもっと紹介していくことが必要だと感じる。
***このインタビューは2021年4月16日に行われました
(了)
トップ写真:ⓒ吉川ゆうみ事務所
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この記事を書いた人
安倍宏行ジャーナリスト/元・フジテレビ報道局 解説委員
1955年東京生まれ。ジャーナリスト。慶応義塾大学経済学部、国際大学大学院卒。
1979年日産自動車入社。海外輸出・事業計画等。
1992年フジテレビ入社。総理官邸等政治経済キャップ、NY支局長、経済部長、ニュースジャパンキャスター、解説委員、BSフジプライムニュース解説キャスター。
2013年ウェブメディア“Japan in-depth”創刊。危機管理コンサルタント、ブランディングコンサルタント。