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.国際  投稿日:2021/6/27

子どもにワクチンは大丈夫?


上昌広(医療ガバナンス研究所理事長)

「上昌広と福島県浜通り便り」

【まとめ】

・子どもへの接種は臨床試験で安全性、有効性共に有望な結果。

・「かなり安全だが、リスクは否定できず」が結論だが、基本的に接種を勧める。

・副反応を恐れるより、ワクチンを打ち、勉強・活動に勤しむほうがいい。

  

子どもにワクチンを打たせても大丈夫ですか

最近、このような質問を受ける機会が増えた。メディアで新型コロナウイルス(以下、コロナ)ワクチンの副反応が報じられ、親子共々心配になるらしい。

確かに、メディアやネットにはコロナワクチンの副反応情報が溢れている。その気持ちはよくわかる。では、どうすればいいか。私は、子どもや保護者の考え方にもよるが、基本的には接種を勧めている。

それは、ワクチンを打つことで、感染が予防でき、制約が解除されるからだ。

ファイザー製のワクチンは2回接種を終えれば95%程度の確率で感染を予防できるし、万が一、感染しても軽症で済む。今後、日本での感染拡大が危惧されているデルタ株インド株に対しても、一定の有効性が報告されている。

ワクチン接種が進めば、規制も緩和される。例えば、米疾病管理センター(CDC)は、ワクチン接種を完了した人は、原則としてマスクを付けたり、社会的距離をとる必要はないという見解を示している。米国では、ワクチン接種を推進するためのインセンティブとして、このような規制緩和を進めている。

▲写真 マスクなしでニューヨークのタイムズスクエアを歩く人々。ワクチン接種を終えたニューヨーク市民は原則として屋内外でマスクを着用する必要はなくなった(2021年5月19日 米・ニューヨーク) 出典:John Smith/VIEWpress

規制緩和は、成人以上に未成年にとって大きい。このことは改めて説明の必要はないだろう。学生時代の一年と、現在の一年の濃密さは違う。

ただ、若年者への接種には懸念もある。それは安全性だ。将来がある若年者への接種は慎重でなければならない。では、現在、どの程度までリスクは分かっているのだろう。結論からいうと、かなり安全だが、リスクは否定できない。

臨床医学では、医薬品の安全性・有効性は臨床試験で検証する。ワクチンも例外ではない。

ファイザー製のコロナワクチンの場合、12-15才を対象とした臨床試験の結果が、5月27日に米『ニューイングランド医学誌(NEJM)』で報告されている。世界で最も権威ある医学誌で、論文が掲載されるためには、厳格な査読を通過する必要がある。『NEJM』で発表された研究は、信頼出来ると考える専門家が多い。

この臨床試験は、小児2,260人をワクチン投与群とプラセボ群にランダムに割り付け、効果および安全性を評価した。ちなみに投与量は成人と同じ30µgだ。発達途上の12-15才に、成人と同量のワクチンを打てば過量になるかもしれないという懸念があった。

この試験では、2回目接種後の38度以上の発熱は20%、倦怠感は66%で認められたが、これは18-65才を対象とする先行試験での17%、75%と同レベルだった。

一方、効果に関しては、ワクチンの効果が期待できる2回接種から一週間以降の分析では、プラセボ群では16人がコロナに感染したのに、ワクチン接種群では誰も感染しなかった。有効性は100%ということになる。安全性、有効性共に有望な結果だ。

ファイザーと並びワクチン開発をリードする米モデルナの報告も同様だ。彼らが5月25日に発表した第2/3相臨床試験(TeenCOVE)には、12~18才の約3,700人が登録されたが、2回接種後のコロナ予防効果は100%で、副反応も大きな問題とはならなかった。

5月10日、米食品医薬品局(FDA)は、12-15才に対するファイザー製のワクチンの緊急使用許可を認めているし、6月10日にはモデルナがFDAに緊急使用許可を申請している。

かくの如く、世界は小児への接種に積極的だ。これは英国株が拡大し、小児の感染者が増えているからだ。今年3月から4月にかけて、米国での小児の入院は人口10万人あたり0.6人から1.3人へと増加した。入院した小児の約3割は集中治療室での管理が必要だった。感染力が強いインド株が蔓延すれば、さらにこの傾向が強まるだろう。ワクチン需要は増すはずだ。

ただ、小児に対する有効性や安全性については、数千例の臨床試験が二つ報告されているだけだ。長期的な安全性や稀な副反応は不明で、現時点でわかることには限界がある。

では、何が問題となりうるだろうか。世界の専門家の関心を集めているのは心筋炎だ。6月10日、米疾病管理センター(CDC)は、30才以下でファイザーあるいはモデルナ製のmRNAワクチンを接種した人のうち、475人が心筋炎と診断されたと発表した。ほとんどは後遺症なく回復していたが、15人は依然として入院し、3人は集中治療室に入っていた。特記すべきは、大半が若年者の二回目接種後に起こっていたことだ。

このことについては、イスラエルからも同様の報告がある。同国では、昨年12月から5月にかけて約500万人にワクチンを接種したが、このうち275人が心筋炎と診断された。148人はワクチン接種後、早期に発症しており、多くは若年男性の二回目接種後であった。

では、若年者へのワクチン接種は、どうすればいいのか。接種希望者や保護者と相談し、個別に判断するしかないが、現時点で、私はトップアスリートを目指すような一部の若者を除き、ワクチン接種を勧めることにしている。

トップアスリートのような高い心肺機能が求められる人では、心筋炎の後遺症が問題となりうる可能性がある以上、慌てて打つ必要はない。あと半年~一年も経てば、実態が明らかとなり、対処法もわかってくるだろう。

ただ、多くの若年者には、このような議論は不要だ。心筋炎の頻度は、そもそも稀だし、万が一、罹患しても多くの場合、後遺症は無視できるレベルだ。ワクチンの副反応を恐れ、接種を控えるより、ワクチンを打ち、普段通り勉強・活動するほうがいい。

世界の動きは速い。6月21日、イスラエル政府は12-15才へのワクチン接種の推奨を決定した。その前日に、日本では文科省が、接種への同調圧力を恐れて、学校での集団接種を推奨しないと発表したのとは対照的だ。判断の基準がワクチンの効果や安全性でないのが日本らしい。

日本でも一部の自治体は、小児への接種を推進している。筆者が接種をお手伝いしている福島県相馬市では、6月19日から高校生を対象とした集団接種が始まった。7月17日には、15才以上の希望する市民全員の接種を終える。中学生については、夏休みに集団接種と医療機関での個別接種の併用を検討している。

最近になって、東京でも感染者が再増加に転じた。昨年同様7-8月に流行する可能性が高そうだ。今回の流行の主体はインド株で、東京五輪のために世界中から選手・関係者が来日する。国内の人流も増加する。今夏の流行は、従来の数倍の規模になるかもしれない。現時点の限られた状況で、小児へのワクチン接種をどう判断すべきだろうか。私は機会があれば、ワクチンを打てばいいと考える。未成年の一年間は大きい。ワクチンを接種し、勉強や課外活動に勤しんでもらいたい。

トップ写真:モデルナワクチンの安全性・有効性を評価するKidCOVE試験に参加し、2度目の接種を受ける6才女児(2021年6月25日 米・ロサンゼルス) 出典:Sarah Reingewirtz/MediaNews Group/Los Angeles Daily News via Getty Images




この記事を書いた人
上昌広医療ガバナンス研究所 理事長

1968年生まれ。兵庫県出身。灘中学校・高等学校を経て、1993年(平成5年)東京大学医学部医学科卒業。東京大学医学部附属病院で内科研修の後、1995年(平成7年)から東京都立駒込病院血液内科医員。1999年(平成11年)、東京大学大学院医学系研究科博士課程修了。専門は血液・腫瘍内科学、真菌感染症学、メディカルネットワーク論、医療ガバナンス論。東京大学医科学研究所特任教授、帝京大学医療情報システム研究センター客員教授。2016年3月東京大学医科学研究所退任、医療ガバナンス研究所設立、理事長就任。

上昌広

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