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.社会  投稿日:2021/6/26

「東京オリパラ中止のプランBもあるべき」感染症対策のプロが指摘


高橋浩祐(国際ジャーナリスト)

「高橋浩祐の激動のアジア、揺らぐ世界」

【まとめ】

韓国・平昌五輪組織委の医務専門委員が「デルタ株で日本大惨事も」と警告。

・すべての日本入国者に対し、14日間の隔離を設けるべき。

・ 無観客などの修正プラン、五輪延期プラン、中止プランを準備せよ。

 

パンデミックの中で、東京五輪が強行されようとしている。開幕まであと1カ月と迫る中、国際オリンピック委員会(IOC)、大会組織委員会、政府など5者は6月23日、会場の収容定員の50%以内、上限1万人として観客を入れて開催することで合意した。ただし、組織委は「関係者は観客ではない」との見解を示し、上限超過となる見通しだ。

しかし、インドで最初に確認された変異ウイルス「デルタ株が世界各地で猛威を振るう中、本当に無観客にしなくていいのだろうか。日本のオリンピック感染症対策は万全なのだろうか。

感染拡大が心配される中、韓国・平昌冬季五輪組織委員会の医務専門委員を務めたタン・ヒョンギョン氏に話を聞いた。タン氏は、ソウルにあるミズメディ・ウィメンズ病院の内科医を務め、韓国の新型コロナウイルス専門家として知られる。

タン氏は「デルタ株が日本に大惨事をもたらしかねない」と警鐘を鳴らした。

▲写真 新国立競技場前で五輪開催に抗議するデモ行進(2021年5月9日) 出典:Yuichi Yamazaki/Getty Images

Q:日本は観客数上限を「定員の50%以内で最大1万人」にすることを決めた。どのようにみているか。

A:東京五輪にはかなりのリスクがあることは、どれだけ誇張してもし過ぎることはない。デルタ株の出現はパンデミックの風景を変えてしまった。なので、行動の基準も変わらなくてはない。

デルタ株は感染力が増し、より深刻な重病をもたらし、ワクチンの予防効果を低くする。さらに、WHOが認定する「懸念される変異株」(VOC)以外の変異株と比べても、18日間というより長期間にわたってウイルスを排出する。

WHOはデルタ株について、85の国や地域から報告があったと発表した。また、日本の厚生労働省は、過去1カ月間でデルタ株の感染件数が東京を中心に5倍に増えたことを明らかにした。日本の学者グループは7月12日ごろまでにデルタ株が主流の変異株になると予測している。このため、「相当な数の海外からの訪問者がデルタ株にさらされる。また、デルタ株によって引き起こされる新型コロナウイルスの感染が、人々の移動の増大で世界中により拡散しかねない」と指摘している。デルタ株が日本に大惨事をもたらしかねない。

Q:東京五輪をより安全に開催するためには何が必要か。

A:第一に、日本に入国するすべての訪問客に対し、14日間の隔離期間を設けるべきだ。これは日本の現在の指針となっており、いかなる例外も設けられるべきではない。

正診率が85%にとどまっている唾液による抗原検査よりも、鼻咽頭によるPCR検査をすべての選手と関係者に実施すべきだ。PCR検査はゴールドスタンダード(黄金律)の手法である。

▲写真 PCR検査の様子(2020年7月14日) 出典:Carl Court/Getty Images

また、選手の行動をモニターするのにスマートフォンのアプリよりも、身に着けることができるウェアラブルの追跡デバイスが利用されるべきだ。ウェアラブルの方がアスリートにとってより現実的だ。

さらにオリパラ選手の80%以上が大会前にワクチンを接種することになっているが、これは100%に引き上げられるべきだ。

五輪を終えて帰国する際、検査は任意になっているが、これは強制的な義務とすべきだろう。

最後に、明確なプランBが必要だ。日本は感染死者数を最も出した5月の感染急増から立ち直ったばかりだ。医療従事者は疲れ果てている。無観客にするなどの修正プラン、五輪そのものの延期プランや中止プランを用意周到に準備し、それを実行に移す際の明確な判断基準があるべきだ。なぜならば、一カ月間ではあらゆることが起きうるからだ。

「何が何でも五輪開催」ではいけない。安全が何よりも最優先されなくてはいけない。

トップ写真:イメージ 出典:Viola Kam/SOPA Images/LightRocket via Getty Images




この記事を書いた人
高橋浩祐国際ジャーナリスト

英国の軍事専門誌『ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー』東京特派員。1993年3月慶応大学経済学部卒、2003年12月米国コロンビア大学大学院でジャーナリズム、国際関係公共政策の修士号取得。ハフィントンポスト日本版編集長や日経CNBCコメンテーターを歴任。朝日新聞社、ブルームバーグ・ニューズ、 ウォール・ストリート・ジャーナル日本版、ロイター通信で記者や編集者を務める。

高橋浩祐

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