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.国際  投稿日:2021/8/10

仏選手「五輪ボランティアがすごく親切だった」


Ulala(著述家)

フランスUlalaの視点」

【まとめ】

・フランス選手は、日本側の対応に肯定的。

・無観客試合は、選手にとって大きな問題ではなかった。

・フランスの成績は不調。しかし団体競技には成長がみられた。

 

新型コロナウイルスの影響で、1年の延期を経て開催された東京オリンピックであったが、8日、国立競技場において無観客で閉会式が行われ、17日間にわたる大会の幕が下りた。

1万1千人を超えるのアスリートたちは、史上、最も特別なオリンピックを経験したと言える。特にフランスではオリンピックは始まる前は、開催に反対している日本人の姿ばかりが伝えられ、無観客が発表されたことに衝撃を受け、また、開催の数日前にはキャンセルの噂すら流れるなど、通常なら感じなかったであろう不安を感じさせられた。しかしながら、いざ大会がはじまってみれば、特に大きな問題もおこらず例年とかわらない様子で盛り上がった。最終的に閉会式が終わったあと、フランスのメディアFranceInfoでは大会がうまくいったように見えると伝えている。

では、フランス選手にとっては、この大会をどのように感じたのだろうか。

フランス選手の東京オリンピックについての感想

男子5000mに出場したユーゴ・エイ選手は、日本でのオリンピックの様子を、「よく管理されていて、完璧だった」と語る。「感染のリスクは軽減されていて、住民とまったく接触しなかった」そうだ。

選手村の様子は、「今回が初めてなので他と比べることはできないが、想像していたよりはお祭りさわぎっぽくなかったのが残念だった。しかし、数々の有名選手と同じ食堂で食事したり、有名選手を目の前にしてバスに乗ったり。最高で、気分がもりあがった」

 

写真)陸上男子5000mで先頭を走るユーゴ・エイ選手(2021年8月3日)

出典)Photo by David Ramos/Getty Images

 

110メートルハードル決勝で5位のスプリンター、パスカル・マルティノラガルド選手は、食堂には透明な仕切りがあり、5年前のリオデジャネイロオリンピックの時と違う雰囲気の選手村についてこう語っている。「最終的に、そんなしきりは、話したり、笑ったりする妨げにはならなかったよ。選手村、そこには本当の生活があった。人々が行き来し、アスリート同士でピンを交換したり」

特に、マルティノラガルド選手は、ボランティアの受け入れの質について熱く語る。「彼らはすごい親切なんだ。ずっと勇気づけ、励ましてくれた。常にサポートしてくれて、感染対策の厳しさから息抜きさせてくれたんだ」

写真)陸上男子110mハードルに出場したパスカル・マルティノラガルド選手(2021年8月16日)

出典)Photo by Jean Catuffe/Getty Images

 

ボランティアの親切さには、セーリングのシャルリーヌ・ピコン選手も同意する。「私たちはとてもよくしていただきました。私たちを応援するためにバンデロールをだして披露してくれたり、それはリオより陽気な感じだったかもしれません」

(編集部注:バンデロールとは、小さな旗のこと。)

 

オリンピックが開催された2週間の間に、アスリートの何人かはコロナに感染したが、フランス選手の感染者はいなかった。このことに対しマルティノラガルド選手は、「現在の状況を考えると、それは素晴らしい成功だ。規則は確かにあったが、それはやりこなせないことではなかったし、軍隊で課されるかのような厳しいものではなかった」

十種競技の銀メダリスト、ケビン・マイヤー選手によると、「何も不満はない。たとえ観客が居なくても、たくさん旅行ができなくても、私たちは、私たちのスポーツをすることができた。」

写真)陸上男子十種競技に出場したケビン・マイヤー選手(2021年8月5日)

出典)Photo by Abbie Parr/Getty Images

 

無観客について

フランスのメディアでは、無観客になったことについて残念がる声が多かったが、選手的にはどうだったのだろうか。

ピコン選手「一般人の観客はいませんでしたが、セーリングの場合は問題ありません。集中し、目標を設定し競技をはじめれば、リオや北京大会とかわりありませんでした」

エイ選手「いずれにせよ、私たちは観客がいない会場で競技するのに慣れています。怖いのは、会場が満員の雰囲気の方。なので、どちらかと言えば、今回の方がそれほど動揺せずにいれた」

マルティノラガルド選手「通常ならすごく騒がしく、それに対応できないとストレスを受けるが、ここでは、いくつかの応援の声があっただけ。それほど騒がしくはありませんでした。オリンピックが始まる前は、観客がいないと全然ダメでしょと何度も聞かれましたが、でも、言っときますが、私はドーハの世界大会を経験しています。あの時も選手たちはカタールでも暑すぎるんじゃないかと心配していましたが、すべてうまくいきました。東京でも同じです」

3選手は、東京オリンピックに満足している様子がうかがえる。しかし、セーリングのピコン選手は残念に思っていることがあったそうだ。それは、メダルを取ったあと48時間以内に帰国しなくてはいけなかったため、選手村に行けず十分に楽しむことができなかったのだ。「辛かったのは、メダルを取った喜びをその場で身近な人とその喜びを分かちあえなかったことです。何日かあとにするのと、その場でするのでは違います」

写真)セーリング女子RSX級に出場したシャルリーヌ・ピコン選手(2021年7月31日)

出典)Photo by Clive Mason/Getty Images

 

無観客であることが非常に残念であるとフランスでは大きく報じられていたが、選手側からしてみれば大きな問題ではなく、十分競技に集中して取り組めたようだ。ただ、やはり、自由に行動できなかったり、日本の観光ができなかったことが大きな心残りとなっているのは致し方ない。次回、別な機会に、ぜひまた日本を訪れて楽しんでいってもらいたいところである。

フランスの成績

しかしながら、今大会のフランスの成績はあまり芳しくなかった。今回、フランスは40個のメダルを目指していたのにもかかわらず、33個(金10個、銀12個、銅11個)となり、順位は8位に終わってしまった。

柔道では8個のメダルを獲得しまずまずの成績を残したが、ボクシング、水泳、陸上の3種目において、リオオリンピックでは15個のメダルを獲得したのに対し、東京オリンピックでは2個のみとなったのだ。

FFLによる非公式のランキングを見てみても、4位から6位におけるフランスの成績はかんばしくない。このことは、3年後のパリオリンピックを不安にさせる。2017年に当時のスポーツ大臣だったローラ・フレセル氏が目標として掲げたメダル80個獲得は、おそらく無理だろう。現時点では、50個が最高値であろうと予測されている。

しかし、東京大会ではフランスの新しい姿も見えた。パリオリンピック組織委員会のエスタンゲ会長も、このような結果は初めて見たと語っていたが、なんとフランスは、団体競技で6つのメダルを獲得しているのだ。しかもそのうち3つは金だ。個人が活躍することを得意とするフランスは、オリンピックにおいても個人競技によって支えられていたが、時代がかわり、教育が変わったことで、チームとして成果を残せる人材が育ってきていることが見てとれる。これは大きな変化と言えるだろう。

3年後のパリオリンピックは、パリを象徴する歴史的な建造物が競技会場とし、フランスらしい華々しさと持続可能な社会の実現を目指した大会となる。3年後にはコロナとの共存も起動にのり、フランスメディアが特にこだわっていた観客を迎えた大会を開催できるだろう。地元日本での開催で、大きな成果をあげた日本選手。今回の痛手をもとにプレッシャーがかけられているフランス。そして、世界中の素晴らしい選手の活躍をまた見られることが今から楽しみである。

写真)オリンピックの引継ぎ式(2021年8月8日、パリ)

出典)Photo by Aurelien Meunier/Getty Images

 

関連リンク

2021年オリンピック:ホッとしたような、ちょっと悔しいような、そんな特別な大会をアスリートたちはどのように体験したのでしょうか。

2024年パリ大会:オネスタがフレッセルに80メダルの目標を再提示

 

トップ写真:オリンピックの引継ぎ式(2021年8月8日、パリ)
出典:Photo by Siegfried Modola/Getty Images




この記事を書いた人
Ulalaライター・ブロガー

日本では大手メーカーでエンジニアとして勤務後、フランスに渡り、パリでWEB関係でプログラマー、システム管理者として勤務。現在は二人の子育ての傍ら、ブログの運営、著述家として活動中。ほとんど日本人がいない町で、フランス人社会にどっぷり入って生活している体験をふまえたフランスの生活、子育て、教育に関することを中心に書いてます。

Ulala

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