仏、コロナ健康パス導入で混乱
Ulala(著述家)
「フランスUlalaの視点」
【まとめ】
・仏、新型コロナ新規感染者数が24時間で18000人以上を超え、感染拡大は1週間で約150%増加。
・ワクチン接種が進んだ高齢者の新規感染数が減り、20~39歳の感染者が急増。
・健康パス導入反対デモ発生、当分混乱も。
フランスのオリビエ・ベラン保健相が、フランスの感染者数の急増に警鐘を鳴らした。新規感染者数が24時間で18000人以上を超え、ウイルスの感染拡大は1週間で約150%増加したのだ。このような急激な増加は過去にない。英国株、ブラジル、南アフリカ株でもなかったという。フランス政府は新型コロナウイルスの感染が「第4波」に入ったという認識で対応を迫られている。
フランスでは、インドで確認された変異ウイルスの「デルタ株」が新たな感染の80%を占め、この数日で感染者数はあっという間に1万人を超えていた。入院患者数は43%増加し、集中治療室で治療を受けている患者の数は27%増加していたのだ。日曜日に新規感染者数が、1万2千人になった時点で危機感を示していたが、週末のため検査結果が少ない月曜日を挟んで、火曜日に蓋を開けてみれば一気に1万8千人台である。陽性率も2.3%から2.6%に上昇。このような急激な拡大に対して大きな驚きを隠せないのも無理はない。
■ フランスの感染拡大の状況
ベラン保健相は現在の状況を「若者の感染症」と呼んでいる。なぜなら、ワクチン接種が進んできた高齢者の新規感染数が減ってきているに対して、20歳から39歳の感染者が突出し急激に増加したからだ。
(引用元:CovidExplorer Explorez les données Covid19 en France – CovidTracker)
特に、フランス本土で現在一番感染が拡大しているピレネー=オリアンタル県を見ても、7月2日~8日の10万人に対する感染者数は、10歳~19歳で343、20歳~29歳で409だったものが、7月9日~7月17日には、10歳~19歳で733、20歳~29歳で1149と若者の間で急激に感染が拡大している。(参照: https://twitter.com/GuillaumeRozier/status/1416859901549322245)
このように各地で若者の感染が増加している状況でありながらも、重症患者になると40代以上が大半になり、しかもワクチン接種していない人が多数を占めるという。(引用元https://covidtracker.fr/covidexplorer/)
▲写真 フランス全土のカフェやレストランがCovid-19の制限の解除を受け6か月ぶりに再開し、賑わうパリ(2021年5月19日) 出典:Photo by Kiran Ridley/Getty Images
■ 新たなフランスの対策
こういった状況を受け、新たな対策が儲けることが発表された。陽性者の隔離、今月21日から「健康パス(パス・サニテール)」と呼ばれる陰性、もしくはワクチン接種などの証明の導入、医療従事者のワクチン接種義務だ。これらは、12日のエマニュエル・マクロン大統領のテレビ演説で述べられたことでもある。
各項目の具体的な内容は以下となる。
・感染が確認された人については、10日間の隔離を義務づけ、従わない場合は最大で1000ユーロ(日本円で約13万円)の罰金を科す。
・また今月21日以降、50名以上が集まる文化施設やレストラン、20000m²を超えるショッピングセンターに入る際は、健康パス提示が必要になる。ただし、食料品、薬局などでの必需品の購入は健康パス無しでもできる。徹底されているかどうかは当局が取り締まりを行い、守られていない場合は店側に罰金を科す。
・介護者か非介護者であるかにかかわらず、病院、クリニック、高齢者施設、障害者施設で働く全職員、また、施設や家庭内で高齢者や脆弱な者と接触する専門職及びボランティアに9月15日までにワクチンを接種することを義務付ける。
■ 反対者の行為に対する非難
マクロン大統領の健康パスを適用するとの演説後には、多くの国民がワクチン接種会場に詰め掛けた一方、ワクチン接種は義務とされないながらもほぼ義務と同じであり、自由を奪われると、一部の国民は不満を募らせた。週末にはフランス各地で反対デモを繰り広げ、ワクチン接種センターが破壊される事態まで発生。
しかしながら、そのデモでの表現方法が逆に批判もよんだ。デモでは自由を奪うマクロン大統領を揶揄するため、「マクロン大統領=ヒトラー」という看板を掲げ「独裁者」だと非難したり、各官僚の写真にヒトラーの髭を模したものを付けたり、第2次世界大戦当時 ユダヤ人に付けていた「黄色のダビデの星」を自らに付けて抗議した者たちが存在したのだ。
これらは、まったく同じではないものの比較であり、特にナチスに祖父を拷問され殺されたある医師は、強くショックを受けたと怒りを表明し、こういったことをした人たちを「腐った奴」と非難していたことは大きな反響を呼んだ( https://twitter.com/Drmartyufml/status/1416454574106361865?s=20)
また、多くのメディアでも「卑劣」「恥ずべき行為」という言葉が並んだのだ。
■ 健康パス法案に対する改善
しかしながら、実際のところ、提案された健康パスの強制度には、多少厳しすぎる点もある。例えば、会社に行くのにも健康パスが必要になるが、無い者は契約一時中止で健康パスを取得するまで無給になり、2か月の猶予期間中に取得しなければ個人都合として解雇もありうるという、かなり厳しい内容だ。49歳以下のワクチン接種が開始された時期から考えても、7月21日から採用するにはかなり無理もある。
そこですでに実施は8月30日からに延期された。その上、20日には、エリザベート・ボルヌ労働相.により、契約一時停止ではなく、休暇にして給料は受け取ることができるように修正案を出すことが約束されたのだ。
12〜17歳の健康パスも延長された。同様に、ワクチン接種の開始時期を考えると21日の適用はかなり難しい。よって、9月まで延長されることが決まった。9月からのフランス学校に行き始める時には、教育期間とし健康パスは必要ない。教育期間が終われば、健康パスが必要になるが、学年度の初めにワクチン接種を小学校、中学、高校で受けることもできる。
8月1日に施行を目標に法案が審議されており、こういった細かい修正点が加えられていっているところである。
■ 遂に健康パスによるチェックが開始!
7月21日(水)から、スポーツジム、プール、スタジアムなどで健康パスによるチェックが開始された。
エッフェル塔などの観光施設では、健康パスがなくても抗原検査を受けることで入場できるようにするとアナンスもされ、それなりの柔軟性を見せている。ただし、テストはフランス人の訪問者には無料だが、フランスに居住していない外国人観光客は25ユーロを支払う必要がある。
ガブリエル・アタル報道官によれば、最初は慣らし期間としながらの実施で厳しい取り締まりは当分はないとしている。しかし、ちゃんと規則が守られているかの取り締まり以前に、健康パスのチェックのせいで長蛇の列ができ混乱するのではないか、売り上げが落ちるのではないかなど、経営者の懸念は絶えない。感染拡大の不安と、絶え間なくかわり、増えるつづける規則に適応していかなくてはいけない日々は、まだ当分続きそうである。
<参考リンク>
INFOGRAPHIES. Pyrenees-Orientales: 人口10万人あたり1100人以上の20~30歳代の発症率を記録
トップ写真:「健康パス」導入に反対するデモ(パリ 2021年7月14日) 出典:Photo by Kiran Ridley/Getty Images
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この記事を書いた人
Ulalaライター・ブロガー
日本では大手メーカーでエンジニアとして勤務後、フランスに渡り、パリでWEB関係でプログラマー、システム管理者として勤務。現在は二人の子育ての傍ら、ブログの運営、著述家として活動中。ほとんど日本人がいない町で、フランス人社会にどっぷり入って生活している体験をふまえたフランスの生活、子育て、教育に関することを中心に書いてます。