バイデン大統領、9.11式典で演説せず
宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)
「宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2020#37」
2021年2021年9月13-19日
【まとめ】
・バイデン、ブッシュ元大統領らが米東部3カ所の9.11追悼式典に出席。
・バイデン現大統領、式典に出席したものの演説は行わなかった。
・理由は犠牲者遺族から「テロ犯人とサウジの関係に関する機密情報公開ない限り大統領の参加に反対」されていたから。
9月11日、あの同時多発テロ事件から20年が経った。あっけないカブール陥落から2週間、8月30日深夜に駐留米軍最後の部隊がアフガニスタンから撤退した。空港での大混乱から更に2週間、米国各地で同時多発テロの犠牲者を追悼する行事が行われ、バイデン、ブッシュ大統領らが米東部3カ所の追悼式典に出席した。
バイデン現大統領は式典前日に録画メッセージをネット上で公表、当日式典には出席したものの演説は行わなかった。ブッシュ元大統領はペンシルバニア州での式典に出席し、素晴らしい演説を行った。トランプ前大統領は全ての追悼式典に参加せず、当日夜フロリダで行われたボクシングの試合で何と解説者を務めていた。
一体どうなったんだろう、アメリカという国は・・・。9.11事件の二十周年といえば、米国民全体を団結させる(少なくとも団結したという気分にさせる)絶好の機会ではないか。そう思うのだが、どうも上手く行っていない。この点については、今週の毎日新聞政治プレミアに詳しく書いたので、お時間のある向きは御一読願いたい。
日本では既に自民党総裁選が佳境を迎え、どうやら候補者が出揃いつつあるようだが、果たして結果はどうなるのだろう。筆者は個人的にも、立場上も、政権政党内の権力闘争についてコメントすべきではないと思っている。当然ながら、特定の候補者についての意見を述べることも差し控えたい。
そうは言っても、米国の一部では、この自民党総裁選とそれに続く日本の総選挙について関心が高まっている。最近は米国の友人に聞かれるまま、最新の政治状況を内々説明しているが、正直言って、日本の政局関連ニュースを米国人がどれだけ詳細にフォローしているのだろうか。疑問なしとしない。
ワシントンでも日本の政局の詳細をリアルタイムで熟知している専門家は僅かだろう。その点はある程度仕方がない。筆者の個人的経験でも、ワシントンの日本大使館だって、4年に一度の米大統領選挙を、ワシントンの政治屋と同じリアルタイムで詳細に追うことなど、無理ではないにしても、決して容易ではない。
例えば、日本のことを相当知っている専門家でも、「次の総理は河野大臣が良いのでは?」などと言うので理由を聞いてみたら、「彼は英語が上手いから」と答えたのには正直驚いた。今後どなたが総理・総裁になるかは現時点で知る由もないが、「英語が上手いから」ではなく、「結果を出せるから」こそ、総理になるべきなのである。
いずれにせよ、誰が総理になっても、彼・彼女は現在の日本を取り巻く国際安全保障環境を無視できない。米国が中東の陸上で格下の敵と戦っている間に、中国はインド太平洋地域の洋上で米国の海洋覇権に挑戦し、力による現状変更の野心を隠そうとしなくなった。これが今秋、日本の新首相が直面する現実なのである。
されば、今年の秋の衆議院選挙後に内閣総理大臣に就任する日本の政治家の選択肢は多くない。レトリックの違いはともかく、このようなインド太平洋地域における戦略的環境の激変に対応するには、過去9年間維持されてきた日本の外交安保政策を継承・発展させていくこと以外に、選択肢はないからだ。
〇アジア
フィナンシャル・タイムズは、バイデン政権が「台北経済文化代表処」を「台湾代表処」に名称変更することを認めるか否か検討中だと報じ、中国の環球時報は「名称変更を認めるなら中国政府の怒りを招く」などと警告しているそうだ。外交機関の正式名称に「台湾」が入れば画期的なことだが、果たしてどうなるだろうか。要注意だ。
〇欧州・ロシア
ウィーンにある国際原子力機関(IAEA)は、IAEAによるイラン核施設の監視カメラの修理などを認めることでイランと合意した旨を発表した。イランでは8月に保守強硬派の新政権が発足したが、どうやら、少なくとも当面イランは米国とガチンコの喧嘩をする気はなさそうである。不幸中の幸いというべきだろうか。
〇中東
ターリバーンのハッカーニ高等教育相が、国内の大学では男女共学を禁止すると発表。女性は教育を受けられるが男性と一緒ではなく、学生が学べる学問は見直し、新たな服装規定を制定するとまで述べたそうだ。過去20年に世俗化したアフガニスタンという現実をどこまで逆転させるつもりか。ここは、お手並み拝見である。
〇南北アメリカ
9月11日の追悼式典でバイデン大統領が演説しなかった理由は、同時多発テロの犠牲者遺族の一部から「テロ事件の犯人とサウジアラビアとの関係などに関する機密情報を公開しない限り、バイデン大統領の式典参加に反対する」と批判されていたからだという。でも、そんな情報、仮にあっても、公開できる訳ないのに・・・。
〇インド亜大陸
特記事項なし。今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きは来週のキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。
トップ写真:9/11メモリアルアンドミュージアムで毎年開催される9/11記念式典に出席するクリントン前大統領、オバマ前大統領、ミシェル・オバマ元ファーストレディ、バイデン大統領、ジル・バイデンファーストレディ、元ニューヨーク市長ブルームバーグら(2021年9月11日) 出典:Photo by Chip Somodevilla/Getty Images
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この記事を書いた人
宮家邦彦立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表
1978年東大法卒、外務省入省。カイロ、バグダッド、ワシントン、北京にて大使館勤務。本省では、外務大臣秘書官、中東第二課長、中東第一課長、日米安保条約課長、中東局参事官などを歴任。
2005年退職。株式会社エー、オー、アイ代表取締役社長に就任。同時にAOI外交政策研究所(現・株式会社外交政策研究所)を設立。
2006年立命館大学客員教授。
2006-2007年安倍内閣「公邸連絡調整官」として首相夫人を補佐。
2009年4月よりキヤノングローバル戦略研究所研究主幹(外交安保)
言語:英語、中国語、アラビア語。
特技:サックス、ベースギター。
趣味:バンド活動。
各種メディアで評論活動。