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.政治  投稿日:2021/9/27

「新しい日本型資本主義が必要」森まさこ参議院議員


安倍宏行(Japan In-depth編集長・ジャーナリスト)

Japan In-depth編集部(佐田真衣、石田桃子)

編集長が聞く!」

【まとめ】

・2003年以降の新自由主義は、従業員の給料を上げられなかった。

・四半期開示制度を改正して、ステークホルダー主義へ。

・首相直属のポリシー・ユニット(ブレーン集団)で制度改革をする。

 

自民党総裁選投開票日を29日に控え、争点の一つである経済政策について、森まさこ参議院議員に話を聞いた。森氏は、岸田文雄候補の選対副本部長を務めている。

 

安倍: 「新しい日本型資本主義を目指す」との岸田氏の経済政策案だが、これはアベノミクスの否定ということか。

森氏: (アベノミクスの)3本の矢を全部否定するわけではない。それよりも前、2003年くらいからのガバナンスコードの改革、金融ビッグバンを見直す、ということだ。その時に新自由主義が大流行りで、それはそれでひとつの成果として、企業の利益上は上がったが、従業員の給料が上がっていない。むしろ下がっている。

ではどうやって上げるのかということを(私は)ずっと勉強して、法務大臣時代に法務省に「危機管理会社法制会議」を立ち上げ、審議会をつくった。当会議では、平常時に一定の資源を留保するために、法定資本や法定準備金の制度を復活させ、企業に対して利益剰余金を一定割合留保することなどを義務づける法制度に変更することなどが検討された。

しかし私が法務大臣を退任と同時に審議会も終了となった。私は、岸田内閣が発足したら、この取り組みをさらに進めるため首相直属の「ポリシー・ユニット」を設立することを、岸田候補に提案している。

岸田氏は「規制改革会議を直す」という言葉で言っている。規制改革会議とか経済財政諮問会議は一定の役割を果たした。けれどもそれをもう少し「三方よし」の日本型の考えに変えて、一定の人だけに利益が集中するような仕組みではなく、「ステークホルダー主義」にする。すなわち、株主だけに利益がいくのではなく、従業員、役員、取引相手、債権者、下請け、すべてに利益がいって、結果地域社会がよくなるという風にしたい。

そのために法律の制度をどう変えるか。専門家のブレーンが必要。何法の何条を考えるのは法律、経済、金融、その他の専門家。少人数のブレーン集団をつくって、優先度の高い政策の提案と実装に向けての手続きを示し、機動的な政策を実現していく。

新たなブレーン集団「ポリシー・ユニット」を官邸の内閣官房の中に創設することを想定している。これは私の岸田氏への提案だ。

実際に何をやるのかは専門家が決めることだが、私だったら、企業の近視眼的な経営と必要資金の外部流出を招いていると考えられる「四半期開示制度を改正」する。

金融ビッグバン以降、配当額が上がりつづけている。しかし従業員の給料は上がっていない。日本企業の従業員が一生懸命働いて稼いだお金が株主に配当されているわけだが、配当額だけ上がりつづけて従業員の給料が上がらないのはバランスが欠けているのではないか。

投資家は株を買って企業に投資する。企業は投資してほしいから四半期で開示する。しかし投資額は少なくて配当額のほうがずっと多い。資料を見ると投資の何倍も配当しているのではないか。これは本来のビジネスと違う。これもバランスを欠いている。

資金調達をするために、株価を上げようとして、従業員の給料を上げないでいる。役員報酬も上げないでいる。そして株主には配当している。赤字の場合も配当している会社もある。赤字で配当する会社なんて国際社会では異常ではないか。欧米の真似をして金融ビッグバンをやったが、その結果欧米もやってないようなことをする羽目に陥っている。

四半期開示をやめれば、目先の株価にこだわるあまり従業員を大切にすることを見失うことはなくなり、もっと長期的に経営を見ることができる。四半期開示制度を見直すべきだ。

この国は2000年代初頭以降、株主第一主義を取り続けてきた。私が司法試験に合格した頃は、株主は会社の所有者であるがステイクホルダーを大切にする理念があった。私は会計学専攻だが、三方よしの日本ながらの会計学だった。それが、急にアメリカ型新自由主義株主第一主義が採用されて会社法が改正され、コーポレートガバナンスコードもつくられ、やり方が変わった。

株主のうち3分の1から4分の1は外資だ。そして投資額の何倍もの配当額が株主に配当されている。ということは、日本人の従業員がコツコツと真面目にやってきた、日本の誇るべき製造業の技術その他中小企業が一生懸命地方でやってきた成果が海外に流れている。そして従業員の給料が何十年もまえからずっと上がらない。私が20年以上前に弁護士になったときと、今年弁護士になった人の給料の額は変わらない。おかしいではないか。法制度など大きな仕組み自体を変えないと、会社も従業員やステイクホルダーを大切にしたくてもできないのだ。

よく言うのは、「企業には内部留保がある」。内部留保はほとんど現金でないものに形を変えてしまっているし、それを現金に変えて配るというのは困難だ。耳障りの良い言葉で「内部留保を吐き出させます」と言っても何も成果は出ない。国民のために本当に給料を上げていくには、制度を変えなくてはいけない。

▲写真 ⒸJapan In-depth編集部

安倍: 制度改革に対して反発が起こり、反対に株価が下がる可能性もある。

森氏: もちろん株価が一旦下がるリスクはある。しかし、歯を食いしばってやるしかない。そもそも株価とは何か。(株価が高くても)給料が上がらなかったら何も良いことはない。まずは従業員の給料を上げる。従業員のやる気も出て良い商品、良いアイデア、良いサービスが生まれ、会社の真の価値が上がるのが本来のあるべき姿だ。

(具体的な改革案について)今はPL(Profit and Loss Statement、損益計算書)とBS(Balance Sheet、貸借対照表)という有価証券報告書を出して株主に説明しているが、DS(Distribution Statement、付加価値分配計算書)という新しい手法がある。これは利益分配型の計算書だ。利益がこれだけ出ます、そうしたらこれだけ分配しますというルールを最初に決めておく。それによって従業員の給料を確保する。その残りが利潤であって、それを株主に正当に配分しますと。その分配ルールによると、赤字だったら株主に配当はない。

金融庁のルールを変えていく。または経団連、経済界に取り入れてもらう。証券取引所のルールも変えてもらう。関西経済連合会の報告書にも載っている。それで良い。これから社長が長期的に会社を持続していく為の経営判断を自由にできるようにする。

反論もあるだろう。開示には違法行為の抑止効果がある。しかし二半期だろうが四半期だろうがきちんと監査会社に監査させる。

安倍: 改革は痛みを伴うものであると。

森氏: それができるのは誰なのか、総裁選を考えていかなくてはならない。力で押し通すだけでこんな難しいことができるだろうか。やはり聞く耳をもって、慎重にみんなで進めていく人が一番できる人。ブレーンも大切だ。

(インタビューは2021年9月24日実施)

トップ写真:ⒸJapan In-depth編集部




この記事を書いた人
安倍宏行ジャーナリスト/元・フジテレビ報道局 解説委員

1955年東京生まれ。ジャーナリスト。慶応義塾大学経済学部、国際大学大学院卒。

1979年日産自動車入社。海外輸出・事業計画等。

1992年フジテレビ入社。総理官邸等政治経済キャップ、NY支局長、経済部長、ニュースジャパンキャスター、解説委員、BSフジプライムニュース解説キャスター。

2013年ウェブメディア“Japan in-depth”創刊。危機管理コンサルタント、ブランディングコンサルタント。

安倍宏行

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