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.政治  投稿日:2022/3/31

「女性のリアルな声を総理に伝える」森まさこ総理大臣補佐官


安倍宏行(Japan In-depth編集長・ジャーナリスト)

Japan In-depth編集部(横塚愛美、菅谷瑞希、藤澤奏太)

            「編集長が聞く!」

  

【まとめ】

・史上初の女性活躍担当総理大臣補佐官森まさこ参議院議員、10年ぶりに官邸を動かす女性として奮闘。

・「女性車座」「ウクライナ問題」など、女性だからこそ見ることができる視点で活動中。

・女性議員の割合を増やすメリットや必要性、またその教育の難しさについても語った。

 

岸田内閣が発足してまもなく半年。岸田首相は総理補佐官を5人置いている。その中で唯一、女性の補佐官が森まさこ参議院議員だ。女性活躍担当の女性総理補佐官は初だという。

森氏は自身の担当秘書官を子育て中の女性にしたいと考え、内閣府大臣官房に頼んで探してもらった。その秘書官K子氏と自身の仕事ぶりをバタバタ日記と題してSNSで紹介、話題を呼んでいる。読者はK子秘書官が子育てと仕事の両立に悪戦苦闘する姿と、それをサポートする森補佐官やチームの面々の努力をSNS投稿で疑似体験し、共感が今、じわじわとじわじわと広がっている。

■ 女性活躍担当補佐官とは

安倍:女性活躍担当補佐官の職務はかなり幅広そうだが?

森氏:そもそも、女性活躍という補佐官が史上初だ。

安倍:具体的にどんなことをやっているのか?

森氏:これは、英語にするとわかりやすい。”Special adviser to prime minister”だから、「総理大臣にアドバイスする人」だ。総理大臣は非常に幅広いことをやっているので、それぞれ所管の大臣に仕事を任せている。しかし、総理大臣の耳に入れなければならないことや、決断しなくてはいけないことが沢山ある。だからそれを総理の近くで特別にアドバイスするのが補佐官だ。

そしてそれぞれの補佐官の分野を分けているが、大臣の数だけ補佐官がいるわけではなく、岸田総理の特別な関心事項、自分が直接やりたいところに補佐官をつけている。

1人は国際人権問題担当補佐官中谷元衆議院議員国内経済担当の補佐官、村井英樹衆議院議員。そして国家安全保障には寺田稔衆議院議員といったように補佐官をつけている。4人の国会議員からきている補佐官のうち、1人が私であり女性、しかも担当も女性活躍だ。

つまり、5つしか特別関心事項の補佐官を置いてない中で女性活躍補佐官を置いてくれたということは、女性活躍を一生懸命やろうという岸田総理の思いがある。これは嬉しいことだ。

今までは、官邸の中で補佐官に女性活躍担当がいなかった。女性という点では自民党では例えば16年前の山谷えり子衆議院議員であり、担当は教育再生だった。担当は違うが女性という点では同じだ。

ところがここ10年間誰も(補佐官には女性が)いなかった。実は官邸の中にいる政治家は10人もおらず、総理、官房長官、官房副長官が衆議院と参議院、それから補佐官が4人で合計8人、あとは官僚のみだ。

安倍:そう考えると少なく感じる。

森氏:つまり、国民から選挙で選ばれている政治家は8人しかいない、その8人で官邸を動かしている。その8人は10年間全部男性だった。官邸という政権の中枢にいる総理を囲む我々政治家は全員男性だった。安倍元総理の時でさえ官邸に女性はいなかった。

写真)森まさこ総理大臣補佐官

ⒸJapan In-depth編集長

 

 

 

安倍:極めて多忙のようだが仕事は面白いか?

森氏:大変、面白く興味深い。地元にも入るし、地方出張も多い。しかし緊急事態が生じればすぐ秘書官から連絡が来る。そういう中で仕事をするのだが官邸の中に入ったのは初めてなので、大臣を2回やった私でも、見てこなかった世界を見ることが出来て大変勉強になっている。

安倍:意思決定=decision makingのシステムが面白い?

森氏:というか、実際のリアルな(仕事の)流れを、「こうやって(ものごとが)決まっていくんだ」と思いながら見ている。

安倍:それは内閣によっても違う?

森氏:もちろん、それは総理によって違う。俗人的な部分があったとしても、それを間近で見られる機会はない。大臣は、大臣の所管官庁にいる。法務大臣はずっと法務省にいるわけで、法務大臣としての意思決定はするけれども、総理が最終決定者だから、そこは見ていないわけだ。

閣議の時に官邸に行くが、閣議なんてたった10分くらいで終わる。閣議が終わったらすぐ法務省に帰ってそのまままっすぐ閣議後会見をする。だから官邸にいられる時間は正味、30分もない。それを週2回行うだけ。

官僚はもちろん官邸を見ているが、政治家で官邸を見る機会を与えられたことは大変貴重な経験だし、勉強になっている。

■ 「女性車座」とは

森氏:最初に断っておくが、政策とそれに必要な予算編成は女性活躍担当大臣の野田聖子衆議院議員がやっている。

私はそれ以外の、総理が何か発信する、発言する、行動するということに対するアドバイスをするための情報収集が主な業務だ。どこが女性活躍に関係するか、オールラウンドに常にアンテナを張って様々な人に会ったり、様々なニュースを見たりしている。

国民の約半分が女性だということもあり、そういう意味で全ての政策に女性活躍が関わってくるから、まず情報収集をするために朝から晩まで人に会っている。人に会ってその後アイディアを出して総理に伝える。そこから総理が「いいねそれ、採用しよう」と言えばそれが総理の行動として実現する。

これで一つ実現したのが「女性車座」といって、総理が車座を全国でやるということだ。これは「聴く力」を標榜している総理らしいものだが、私は総理に「総理が車座に行ってもメンバー5人いたら女性1人なんてこともあります。女性の声だけを聞きたいので、女性車座をやらせてください」と頼んだ。

総理だけでなく、総理の代理として私も動けば、倍の声が入ってくる。私には女性だけの車座だから女性の声がたくさん入ってきて、それを総理に伝えることができる。

総理の体は一つしかなく、今はウクライナ事案などで体を取られてしまうため、その代わりに動くのが補佐官だ。

総理の耳の代わりになろう、ということで、全国どこでも行くが、車座は特に地方を回ろうと思っている。第一回は大阪(オンライン)でやったが、今後も毎月地方を回って、地方の女性のリアルな生の声を聞きたい。

安倍:車座に出席するのはどういった人たちなのか?

森氏:自民党に全然関係ない人たちだ。地方組織にお伺いを立てたり担当者が様々な資料を見て「こういう活躍してる女性がいる」という人を見つける。私は、様々な分野、年代、地域の女性の話を聞きたいと要望している。

それから国際女性デーというものがあるが、今までの総理はこの日何もしていなかった。私が岸田総理に頼み、史上初めて、日本の総理大臣として国際女性デーに発信することができた。官邸に私が入ったことで、女性の権利や女性を活躍させていくこと、女性を救済していくことがより進んだのではないか。

男性がリーダーだと女性活躍をやろうと思っても具体的に何をやればいいか思いつかないことがある。性差があるため女性の気持ちにはなれないからだ。だからこそ、私はその役目を果たすために女性の気持ちになって「これやりましょう、あれやりましょう」と言っている。

例えば、ウクライナの難民の多くが女性や子供であり、男性は本当に残念なことだが兵士として戦うため国に残っている。そして女性が子供や高齢者を連れて国を出ている。

社会的に弱者と言われる方々が避難民になっていることに対して、日本はどんな救済や支援ができるかということで、日本政府が1億ドルの支援をしたのだが、その中には女性に対する支援も盛り込んだ。女性だけが必要な避難物資はたくさんあるからだ。

東日本大震災の時は例えばフィンランドから液体ミルクや生理用ナプキン、女性用の下着など、女性に対する物資をたくさんいただいた。ところが避難物資を男性だけが選ぶと、男性のためのグッズだけになってしまう。

引き続き政府で、どんな民間支援ができるか、ウクライナ難民を日本に受け入れたときにどのような支援が出来るかなど、女性の視点で参加している。

(ウクライナは)距離的にはとても遠いが、日本に対して親しみを覚えてもらっている。コロナ前はチェルノブイリ原発も見に行き、事故の後には、人々と地域がどうやって復興してきたかを教わった国でもある。視察の際に案内してくれた女の子とか、今頃どうしているかなと考えてしまう。

安倍:ウクライナは日本の漫画が大好きで、ウクライナの漫画家さんが日本国際漫画賞の優秀賞を取った。その方は今シェルターにいるからオンラインでも授与式に参加できない。キエフもだいぶ攻撃されているし、薬が足りないと言っている。

森氏:福島県のことを考えるとやはり被災地は薬が足りなくなる。ウクライナからもご支援いただいたし、本当に心が痛い。

福島県の皆さんからはウクライナの方が避難してきたら福島県で受け入れたい、という声を沢山いただいている。原発事故のことで色々教えてもらったという絆があるからだ。遠い国のことだが親しみを覚えている人もいる。その中で女性の支援を活かすことが出来たらと思う。

■ 政治におけるジェンダーギャップの解消

森氏:国会議員の比率となると立法府の仕事となる。政府としてできる事は目標値を設定し、それに向けて法整備をすることなどが挙げられる。

国会議員として言うと、一昨年成立した、各政党が国会議員候補者の男女比を等しくすることに対して努力義務を課す「政治分野における男女共同参画の推進に関する法律」がある。

クオータ制は強、中、弱があり、これはその最も弱い分野に属する。日本にクォータ制はないと言われていたが、初めて第一ステップとして法律ができた。

これは政党に目標を作らせる法律だったが、自民党には目標がなかった。そこで自民党女性活躍推進特別委員長として2025年までに35%と言う目標を設定したが、それが自民党の総務会で諮られて、初めて自民党の目標になる。

設定した目標を下村博文政調会長(当時)に持っていった時、下村さんはやる気だったが、岸田政権発足後は政調会長ではなくなり、私は補佐官に変わって政府の人間になったので途中で党の動きを見守る側になった。後任の丸川珠代特別委員長に期待している。

何かしらの法律、数値の目標は作ってほしいし、そこに向けた努力もしてほしい。具体的には、自民党の党本部に女性を呼んで(オンラインでも)、党、政府の活動を伝え、その上で自分の意見を持ち選挙に出るような人に育ててほしい。

また、女性支援や女性を出した県連に対する資金の調達、落選した場合のチューター制度整備などを提案した。ただしこれは補佐官の仕事ではなく、党特別委員長としてやっていたことで、今後も党で進めてほしいと思っている。

補佐官としては、政府において第5次男女共同参画基本計画が作られ、職種ごとの目標割合が書かれている。女性の議員が少ないのは女性だけでなく男性にとっても損だと伝えたい。

人口減少や少子高齢化、虐待、教育問題などは、女性議員が増えると政策の優先順位が上がる傾向にあると学者が分析している。民主的考えに則しても、政策の優先順位の変化による国の現状改善の観点から考えても、女性議員が一定程度増えることは望ましい。特に、30%を超えると政策が進行すると言われているのでせめて30%にしたい。

安倍:女性政治家が実績を積み上げることが政治志望者を増やすことになる。

森氏:約20年後、45〜49歳の男性は3割以上減るというデータがある。今日本を動かしている人たちは彼らが中心。そこで、減った3割に女性を充てたいが、20年間教育しないと管理職は育たない。

つまり、今20歳で就活している人たちが20年後の管理職であり、社会に出た段階から女性を将来の管理職候補として育てる必要がある。そうしないと将来日本は社会を動かす人がいなくなってしまう。

要するに今から女性政治家も女性の管理職も意思決定プロセスにおける女性の登用も推進しなければならない。

また、12〜13年前から地方から都市への人口流出の性格が変化し、それまでは男性が多数を占めていたが、いまでは女性の流出が増加している。

例えば福島県は20代の女性が同年代の男性の2倍流出しており、地方の衰退のスピードが加速している。

かつ、流出先の東京は出生率が最も低く、日本全体ではかなりのスピードで人口が減っている。地方から流出して帰ってこないのは仕事があっても活躍できないからなので、今から地域で女性活躍に力を入れないといけない。

■ 「バタバタ日記」

森氏:「バタバタ日記」は中年男性が読んでいるので、女性活躍とか難しいことを書くのではなく、面白おかしくリアルに書くのが良いんだろうなと気付いた。

福島に帰ると合言葉のように「バタバタ日記読んでるよ!」と言われるし、官邸にお客様が来ると「(秘書官の)K子さんはどこですか?」と言われる。沢山の人が読んで共感してくれている。

ある女性インターン生にバタバタ日記の感想を書かせたら、感想が薄く感動が無かった。独身だからぴんと来なかったのかもしれない。この世代にも自分事のように感じてもらえるように、インターン生による「バタバタ日記ドラマ編」を始める。若い人に演じてもらうことで大学生世代に共感を呼べるものにしたい。

(了)

トップ写真)森まさこ総理大臣補佐官

ⓒJapan In-depth編集部




この記事を書いた人
安倍宏行ジャーナリスト/元・フジテレビ報道局 解説委員

1955年東京生まれ。ジャーナリスト。慶応義塾大学経済学部、国際大学大学院卒。

1979年日産自動車入社。海外輸出・事業計画等。

1992年フジテレビ入社。総理官邸等政治経済キャップ、NY支局長、経済部長、ニュースジャパンキャスター、解説委員、BSフジプライムニュース解説キャスター。

2013年ウェブメディア“Japan in-depth”創刊。危機管理コンサルタント、ブランディングコンサルタント。

安倍宏行

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